第2章
上司が教えてくれた場所は僕の町では最大の川の河川敷。
僕はカブトムシたちは山にいるもんだとばっかり思っていた。 それが河川敷だなんてちょっとイメージが湧かない。
探すのは柳の木で、背丈より少し高いくらいだという。これもイメージと違った。 僕の固い頭の中では天まで届きそうなくらいの大きい木の幹にカブトムシは生息していた。
柳の木を見つけたら、その木を軽く揺すってみる。そうすると枝や葉が落ちるのに加え、「ボタッ」と黒いものが落ちてくる。落下地点を探せば「彼ら」が。その木に「彼ら」がついているのを確認したら、後は強く揺すって取り放題。
そんな算段らしい。
もちろん、そう簡単には木も「彼ら」も見つからないらしい。藪を行き、枝を掻き分け、さながらジャングルを探索する。
─それなりの準備が必要だな。
そのジャングルにはカブトムシ以外の虫ももちろん生息している訳で、なかには人の血を吸うヤツもいるかもしれない。
─長袖、長ズボンだな。
木の幹についている虫や、飛んでいる虫に気をとらわれるが、足元には蛇がいるかもしれない。
─長靴も必要か。
取り放題というくらい落ちてくる?
─籠はもとより、段ボールも必要か?
カブトムシはいいけど、クワガタムシはあの鋭い鍬ではさんでくるか。
─軍手、軍手と…
─あ、でも取りすぎても飼うのが大変だな。
どんどん想像は膨らみ、「見つからないかもしれない」という伏線はもはや僕の頭にはなかった。