転落の始まり
余裕を持ってとは言えぬものの、勝利は勝利。
魔物の幹部のひとりを倒した。
そして、戦いが始まる前に示された秘宝メヘレトをデモクリトスから抜き取ると一斉に走り出す。
やがて、轟音とともに先ほどまで戦っていた場所が崩れた大岩で埋め尽くされる。
「……黙っていれば、俺たちを生き埋めにできたもの。だが、そうさせないところがおまえの矜持というところか……」
「感謝しておく。偉大な剣士。デモクリトス」
その瓦礫の山を眺めながら誰にも聞こえぬ声でアーベルはそう呟く。
そして、松明の火に浮かぶ仲間たちを見やる。
「さて、俺たちはお宝を手に入れた」
「魔物の宝だろう」
「もちろんそれもある。だが、それよりも重要なお宝は情報を手に入れた」
「ひとつ。奴らは俺たち人間の言葉を理解しているということ」
「ふたつ。奴らは自分たちをセオステオス、俺たち人間をシリオゾアと呼んでいる」
「三つ。洞窟の先には魔物の国パラデイソスがあり、三つの洞窟はすべてそのパラデイソスに繋がる」
「四つ。先ほどデモクリトスは魔物国の幹部で七番目くらいの強さだということ。奴の言葉を信じれば、残りのふたつを守護している者はデモクリトスよりも弱い」
「つけ加えれば魔物で最強は魔物王だという」
そう言ったところで、アーベルは仲間全員の顔を見る。
「すべてが俺たちだけが知る情報」
「むろん、この情報を組合に売り、各チームの共有情報にすべきだと俺は思うが、最近の組合の金払いの悪さにおまえたちが不満を持っていることは知っている。そこで、これをお宝と考えることにする。すなわち、俺たちがチームを結成した時に決めた約束事」
「お宝は均等に分ける」
第二剣士のカッシーニが口にした言葉にアーベルが頷く。
「全員の意見でこの情報をどう扱うか決めよう。いや。三人で決めてもらっていい。俺は決まった者に従う」
「それで、具体的には?」
「いつもどおり情報を四等分にしてそれぞれを売るかどうかの決定権を与える?それとも、すべてをチームだけの情報にするか」
「一応利益上下だけを言えば、俺たちだけの秘密にした方が圧倒的に俺たちの利になる」
「では、聞こう」
「組合に売り渡す方に賛成な者」
誰もいない。
「では、俺たちだけの財産にすべきという者」
当然三人が手を挙げる。
「承知した」
そう言ったところで、アーベルは苦笑する。
「おまえたちの組合嫌いも相当なものだな」
「当然だろう。奴らは安全な場所で待ち、俺たちが手に入れたものをタダ同然で毟り取る」
「それだけではなく、売る時はとんでもない高値だ。どこかの悪徳商人よりもタチが悪い」
「まあ、それについては俺もそう思うが、死んだ冒険者の家族に対する生活保障しなければならないことを多少は考慮すべき……」
「そんなのは死んだ方が悪い」
「そのとおり」
「……わかった」
カッシーニに、第二魔術師ダレスト、探索役のセルシウスが加わった強い言葉にアーベルは引き下がると、三人の目はアーベルが持つ光る球体へと移る。
「それでそちらはどうするのだ」
むろんそれは秘宝メヘレトの使い道についての問いとなる。




