決着のとき
アーベルは相手の斬撃を避けるのが精一杯。
傍目にはそう見える。
そして、デモクリトスの目にも。
だが、アーベルはすでに反撃のルートを見つけていた。
デモクリトスの望み通り第一撃を右に飛んで躱し、第二撃を誘う。
もちろんデモクリトスはこの二撃目で仕留めるつもりなのは間違いない。
だが、その二撃目は必殺の、そして渾身の一撃であるため、攻撃直後の態勢は相当崩れている。
こちらの剣を叩きこむだけの隙は十分にできるはず。
だが、相手も手練れ。
必ず修正してくる。
つまり、失敗したらその反撃ルートは消える。
「おそらく、この相手に勝つ策はこれだけ。一回の反撃で仕留めなければならない」
「……ということは、奴の左の剣の軌道を正確に読み切り、ギリギリのタイミングで避けなければならないということか」
「そして、そのためには……」
まだ一度も見ていないその剣の軌道を完全な形で想定しなければならない。
もし、読み誤ったら、間違いなくデモクリトスの剣に切り裂かれる。
「長引けば相手が有利」
「迷っている場合ではないな」
「いくか」
そう呟いたアーベルは自身の大剣を握り直す。
むろん、アーベルの身体全体から湧きだすそのオーラを感じたデモクリトスも小さく頷く。
間違いなく来る。
「いいだろう」
再び唸りを上げて左から迫るデモクリトスの大剣は後方に逃げにくいようやや軌道を変えてやってくる。
「さすが」
そう言いながら、アーベルは右へ動きかけた瞬間、デモクリトスの左腕が動き始める。
宙を飛んでいる瞬間は何が起ころうが、地面に足が付くまでは何もできない。
当然相手としては狙うべきタイミングというわけである。
だが、それはアーベルもわかっていること。
いや。
そこを狙わせるために、これまで散々飛んでみせたのだから。
「……当然今回は右に飛ぶと思うだろう。だが、世の中でそう簡単にはいかない」
「この程度の小細工に引っ掛かるようではまだまだ甘い」
そう呟くと、いかにも大きくと飛ぶと見せかけた姿勢から軽やかに横に動き第一撃を躱し、その直後にやってきた第二撃も楽々と躱して見せる。
そして、その直後、物凄い勢いデモクリトスに接近する。
「勝ったと思っただろう」
「だが、悪いが勝つのは俺だ」
そして、大剣をデモクリトスの胸に突き立てる。
さらに激しく捻じりながら剣を押し込む。
間違いなく致命傷。
だが、アーベルはそこで終わりにはしない。
短剣を抜くと首を掻き切る。
回復薬を使わせる暇を与えずトドメを刺すために。
だが、それでも即死とはならなかったのはデモクリトスの頑強さというところだろう。
「……やってくれたな。勇者」
血の塊を吐き出しながらそう呟く。
「だが……」
「おまえをパラデイソスに進ませるわけにはいかない。扉の守護者として」
「……ポルタテロス」
そう言いながら、デモクリトスは弱々しく暗闇に包まれた奥を指さす。
その直後、轟音が響く。
「勇者。もうこれでここからパラデイソスに侵入はできない」
「パラデイソスに進みたいのであれば別の洞窟に行くことだ。勇者アーベル」
「死にたくなかったら約束の品を持って早く消えろ。この辺もまもなく崩れるぞ」
「……ではな。楽しかったぞ。人間」




