明かされる魔物の秘密
突出した剣や魔法の才の影に隠れているが、アーベルの才能のひとつが交渉術。
これに権謀が加わる。
実を言えば、アーベルは厳しい表情の裏側で高笑いしていた。
これまでは言葉が通じないため、魔物を誘引するのに苦労していた。
だが、相手がこちらの言葉を理解するのならそのハードルは数段階も下がる。
これからは仕事が楽になると。
まずはデモクリトスと名乗ったこの魔物の口からこいつらの秘密をすべて吐き出させてやる。
表面上はその心の声をどこにも表さず、アーベルは薄く笑みを浮かべる。
「おまえたち魔物は皆、人間を食らい、知識を覚えていくのか?」
「まさか。それが出来るのは王から秘宝をもらった幹部だけだ」
「幹部?おまえが王ではないのか?」
「残念だが、違う。私はこの通路を任せられている軍の司令官だ」
「通路?つまり、この先に何かあるのか?」
「偉大な国パラデイソスがある」
「魔物にも国があると?」
「一応言っておけば、我々は自分たちをセオステオスと呼んでいる。そして、おまえたち人間はシリオゾアだ。シリオゾアとは簡単にいえば獣。つまり、我々はお互いに相手を獣扱いしているということになる」
「なるほど」
アーベルは必要以上に大きく頷く。
「そして、おまえたちは下等動物の国である人間の世界に攻め入ってきたわけだ。だが、偉大なセオステオスは、下等動物であるシリオゾアに押され、逆に攻められそうになっているとは悲しいな」
「まあ、悔しいがそのとおりだ。だが、それは我々もおまえたちに対する知識が不足していただけで、多くの知識を得て対策を講じれば再び攻勢に出られる。なにしろ……」
「自分たちは相手に気づかれぬまま、相手の言葉を理解しているので情報を手に入れられる。逆に人間はおまえたちの言語がわからぬまま戦う」
「そういうことだ。さすが勇者アーベルというところか。この辺で話を終わりにし……」
「そろそろ始めようか」
「いや。待て」
両手に大剣を構えようとしたデモクリトスをアーベルは右手で制す。
「これからおこなう戦いに俺たちは命を賭けるわけだが、おまえは何を賭ける?」
「何を賭ける?」
「そうだ。俺たちは食われたうえに、情報を残らず提供するのだ。おまえもそれに見合うだけのものを差し出すべきだろう」
「勝つつもりでいるのか?愚か者が」
「まあ、勝てるかどうかはわからぬが、万が一、勝ってもそれに見合うものがないのは困る。さすがにおまえたちの頭を食って知識を得るなど御免被りたいところだが、おまえの差し出すものが何もないのならそれでも我慢するが」
「言いたいことはわかった」
「では、おまえたちが勝った場合には私が差し出すものを示そう」
そう言ったデモクリトスは懐から水晶球に似た透明な玉を取り出す。
「これは王から頂いた秘宝でメヘレトという。この秘宝は相手の能力を自身に移すことができる」
「ただし、一度しか使えぬ」
「それと相手が無垢な状態のときにしか使えない。つまり、防御魔法が切れている時だ。しかも、生きていなければならない」
「そういう意味では非常に使い勝手が悪いので、もう何年も懐に入れたままだ」
それはいい。
アーベルは心の中で呟く。
「ひとつ聞く。俺たちは四人だ。たとえば、おまえの人の知識を得る能力を手に入れようとした場合、入手できるのはひとりだけなのか?それとも四人に分けることができるのか?」
「その力を得られるのはひとりだけだな。だが……」
「すべての魔法。すべての剣技。そして、すべての秘術。こう指定すれば三人の者が私の持つそれぞれの力を得ることができるそうだ。ちなみに、秘術というのは、おまえたちの言うアイテムの効果であり、頭を食らって知識を得るのはこの秘術に入る」
「ということで、私の才を手に入れられるのは三人までだ」
「秘術を手に入れた場合、その秘宝はどうなる?」
「消える。だが、アイテムを使用しなければならない効果を自身の才として取り込めるのだから第二の魔法といえるだろう」
「悪いものではないだろう」
「ああ」
「最後にもうひとつ」
「おまえたちは瞬間移動のようなことをおこなっているが、あれは魔法なのか?それとも秘宝によるものなのか?」
「あれは転移魔法と呼ばれる高等魔法で、魔法を専門にする魔術師でも上級者しか使えない。当然多少の魔法は使えるが専門は剣士である私は扱えない。当然移動するときには魔術師に頼まねばならないのだが……そういえば、人間たちにはあれを使える者はいなかったのだな」
「あれは一度行った場所から自由に移動できる便利な魔法だが、さすが勇者は目の付け所が違うな」
「誉め言葉として受け取っておこう。さて、色々聞いたところでそろそろ始めようか」
「能力の奪い合いを」




