人間の言葉を解する魔物
「……あり得ん」
どの戦い、そしてどのような場面であっても、少なくても表面上は余裕綽々だったアーベルが焦りの表情を浮かべ、その口からは驚きの言葉が漏れる。
「人間の言葉を解す?魔物が……」
そう。
これまでアーベルたちが対して魔物、いや、彼らだけではなく人間たちが戦ってきた魔物が人間の言葉を口にした者はいなかった。
もちろん、呻き声の声を出し、それによって魔物たちは一致した行動を取っていたことからそれが彼らの言語であることはわかっていた。
だが、それは魔物たちにとっても同じ。
つまり、相手にとっても人間の言葉はただの音でしかない。
自分たちだけのコミュニケーション手段であると認識していた。
だが、目の前の魔物は人間の言葉を口にした。
一部とはいえ、人間の言葉を解する者がいるとすれば、魔物の前で喋った情報はすべて魔物に筒抜けになるということだ。
いや。
なっていたということだ。
「まあ、焦る気持ちはわかるぞ。人間」
魔物はニヤリと笑い、そう言った。
「自分たちは我々の言葉がわからない。つまり、情報は一方に流れるのみ。そう考えているのだろう」
「だが、短時間でそこまで考えが及ぶとは驚きだ。もしかして、おまえが勇者か?」
魔物が口にした「勇者」という言葉はここでは使っていない。
つまり、別の場所で仕入れた情報ということだ。
ここは否定すべき。
だが……。
「さすがだな」
他の三人を制して、そう言ってアーベルは自ら一歩前に出る。
「おまえの言うとおり。俺たちが勇者パーティ。そして、俺がこのパーティを率いるアーベルだ」
「せっかくだ。おまえの名前も聞いておこうか」
「デモクリトス」
「承知した。では、デモクリトス。戦う前に少し話をしようではないか」
「よかろう」
「おまえたちが俺たちの言葉を理解していたことには正直驚いた」
「だが、ペラペラとそれを俺たちに話してしまっては、その有利さが失われるのではないのか?」
「さすが勇者。その通り」
「と言いたいところだが、それはたいした問題にはならない」
「なぜ?」
「おまえたちはここで死ぬ。だから、ここで手に入れた情報が洩れることがない」
「現に、おまえたちは我々が人間の言葉を解する事実を知らなかった」
「私は多くの人間に同じことを話しているにもかかわらず」
「なるほど。そういうことか」
「どうりで話す言葉に癖がないと思った。ということはかなり多くの人間と会話していると思って間違いないか」
「そのとおり。そして、それだけの者を殺し食った」
「食った?食人鬼か」
「いや」
「正確には食ったのは頭だけだ。そして、そこに詰め込まれた知識も手に入れる。おまえたちに関する知識もそこから手に入れた」
「なるほど」
「では、そういうことならもう少し教えてもらおうか」




