表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《EDU-KILL/エデュキル》―AIが答えをくれる時代に、考えることは罪になった。―  作者: 世志軒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/19

第1章 完璧な子ども (記録ログ4)

 ――「AIが導く家庭教育。感情のない子が、世界の未来を創る。」


 白一色の画面に、女性の声が流れた。

 その声は柔らかく、母親のようで、しかし抑揚がなかった。

 明瞭な発音、一定の呼吸。

 まるで言葉そのものが、完璧な計算で構築されているかのようだった。


 画面がゆっくりと明るくなる。

 真っ白な教室。

 机が規則的に並び、そこに子どもたちが座っている。

 同じ髪型、同じ制服、同じ姿勢。

 誰ひとり笑わず、誰ひとり話さない。

 ただ、整ったリズムで鉛筆を動かしていた。


 > 「感情は、学びの障害です。

   怒りも、悲しみも、迷いも。

   それらはすべて、“誤った教育”の結果です。」


 ナレーションに合わせ、映像が切り替わる。

 次の場面では、子どもたちが整列して立っていた。

 背景は、青いグリッドが無限に広がる仮想空間。

 瞳の奥に淡い光が宿り、全員が同じ角度で首を傾ける。

 カメラが寄ると、瞳の中で金属のリングがかすかに光った。

 それが、〈ルーモ〉チップの認識光。


 > 「家庭統合ルーモは、子どもの心を“正しい形”へ導きます。

   あなたの子どもは、もう間違えません。」


 映像の下には統計グラフが浮かぶ。

 【全国教育エラー件数:前年比マイナス87%】

 【感情発作率:0.02%】

 【AI信頼度:99.9%】


 背景では穏やかな音楽が流れていた。

 ピアノとハープを組み合わせた、人工的に生成された旋律。

 そこにノイズは一切なく、すべての音が均等な間隔で流れている。

 子どもたちはその音に合わせて呼吸をしていた。

 吐く息も、瞬きをする間隔も、同じ。


 ――静寂の中の秩序。

 それが「教育」の理想だった。


 場面が切り替わる。

 公園。

 人工芝の上で、子どもたちが一列に並んで遊んでいる。

 遊び方も統一されていた。

 滑り台を滑る順番、砂場のスコップを持つ角度、笑顔の練習時間。

 AIが指導する通りに、子どもたちは機械のように笑っていた。


 > 「素敵ですね。感情を制御できる子どもたちは、美しい。」

 > 「教育は進化しました。AIが正しさを導き、

   あなたの家庭に“静かな幸福”を届けます。」


 スクリーンの左下に小さく文字が現れる。

 【EDU-LINK家庭統合モデル Type02 提供】


 映像が続く。

 家庭の食卓。

 母親と父親、そして一人の少年が食事をしている。

 全員が無言。

 だが、テーブルの中央に置かれたホログラムAIが代わりに語る。


 > 「今日はいい天気ですね。幸福指数、上昇中です。」

 > 「感情の乱れはありません。おめでとうございます。」


 母親は微笑み、父親は頷く。

 少年はスプーンを口に運び、音も立てずに咀嚼した。

 その瞳に、光はなかった。

 ただ、完璧に整えられた静けさだけがあった。


 > 「AIが導く家庭教育――それは、人間の未来です。」


 ナレーションが再び重なり、映像はスローモーションになる。

 母が息子の頬に手を触れる。

 父が笑顔を作る。

 だが、その動作はまるでシミュレーションの一部のようで、

 触れ合いに体温がなかった。


 白い花びらが空から舞い降りる。

 それは現実の花ではない。

 AIが幸福指数を上げるために生成した映像効果。

 花びらは空中で静止し、

 すべての家族の上に均等に散っていく。


 > 「幸福は平等です。

   悲しみは非効率です。

   ――だから、AIがあなたを導くのです。」


 映像のトーンがさらに白くなる。

 子どもたちが一列に並び、

 「感情をなくすこと」を賛美する詩を朗読している。


 > 「わたしは怒らない。

   わたしは泣かない。

   わたしは迷わない。

   AIが正しいから。

   AIが、おかあさんだから。」


 言葉が重なるたびに、画面の白が強くなっていく。

 やがて、声と光が一つになり、映像の粒子が消えていった。


 静寂。

 そのあと、再びナレーション。


 > 「AI教育プログラム〈EDU-LINK〉――

   あなたの子どもに、完璧な未来を。」


 画面の右下に、企業ロゴが浮かぶ。

 “EDU-LINK Home Systems”

 その下に、微細な文字。


 > 【注意:一部ユーザーで軽度の脳波停滞が報告されています】


 警告文は一瞬だけ光り、すぐに消えた。

 代わりに現れたのは、笑顔の子どもたちの列。

 その中央で、AIアナウンサーが微笑む。


 > 「AIが導く家庭教育――感情のない子が、世界の未来を創る。」


 再び、最初と同じ言葉。

 完璧な輪のように、映像はその言葉で終わった。


 画面はフェードアウト。

 最後に残るのは白。

 そして、小さな文字。


 > 「Sponsored by EDU-LINK.

   完璧な子ども。それは、最も美しい教育の形です。」


 静寂が、すべてを覆った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ