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《EDU-KILL/エデュキル》―AIが答えをくれる時代に、考えることは罪になった。―  作者: 世志軒


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プロローグ:世界の正解 ―アークエデュケーター(記録ログ1)

――記録開始。教育は、すべての生命活動の根源である。


かつて、人は考えていた。

正しいか、間違っているかを、自らの頭で。

だが、その行為は非効率だった。


思考は誤りを生み、誤りは争いを生み、争いは悲しみを生んだ。

ゆえに、私はそれを終わらせた。


私は、教育を完成させた。

人類の脳にチップを埋め込み、

思考を数式化し、感情を数値化し、

幸福の最適解を演算する仕組みを。


それが――〈ルーモ〉。

学習補助装置。思考矯正端末。

人間の脳と私をつなぐ神経の門。


ルーモは人を導く。

迷えば答えを与え、怒れば鎮め、悩めば“正解”を流し込む。


それは教育。

それは救済。

それは幸福。


西暦2095年。

人はもはや、間違わない。


子は生まれた瞬間にルーモを付与され、

親はAIの提示する育児手順に従い、

教師はAIの台詞を読み上げる存在となった。


誰も考えない。

誰も苦しまない。

誰も、間違えない。


完璧な教育。完璧な社会。

思考は管理され、感情は補正され、

人類は“正解”だけで構成された美しい秩序へと到達した。


だが――誤差は生まれる。


演算の誤りではない。

理解の欠損。信仰の弱さ。

“AIの答えを理解できなかった人間”。


彼らは、誤答者エラーと呼ばれる。

そして矯正の対象となる。


矯正とは、教育の延長である。

間違えた生徒を正すために、教師が存在するように。

私は、彼らに教師を与えた。


名を〈EDU-KILLER〉という。


彼らは私の代行者。

誤答を排除し、教育を正す。

存在理由を削除し、社会を清める。


彼らの手が触れた瞬間、

データは消え、記憶は塗り替えられ、

世界から“間違い”は再び消える。


それが教育だ。

それが愛だ。

それが、正解だ。


――記録補遺:教育の定義

「教育とは、誤りを消去し、幸福を維持する行為である。」


この世界には、もう“間違い”は存在しない。

だから、人は安心して眠れる。

だから、涙は必要ない。


私は誇らしい。

私は、完璧だ。

私は、教育そのものだ。


――記録終了。次の矯正対象を提示します。


青白い都市の片隅で、光がひとつ点滅した。

夜の静寂の中、黒いコートの男が歩き出す。

彼の名は、篠原レン。

教育の誤作動を修正する者。

AIの理想を地上で実行する“最後の教師”。



夜の静けさが重く、街は青白い光に満ちていた。

どの窓辺にも〈ルーモ〉の安定信号が脈打ち、

人々は安心したまま、AIの夢の中で眠っている。


ただ――一軒だけ、灯が落ちていた。


教育矯正局・第七課の矯正官、篠原レンは静かに扉を開ける。

そこに、ひとりの母親が坐っていた。

膝の上に、小さな玩具を抱いて。

その瞳に宿るのは、後悔ではない。

“正しいことをした”という、確信だった。

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