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少女は魔王になる  作者: 千両
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 ザルバスが歩み寄ってくる。キーラは未だ剣を収めない私を心配そうに見上げていたが、ザルバスの冷たい視線に射抜かれ、慌てて後退した。


「約束通り、お前の力を拝見させてもらった」


ザルバスは荒野に立ち、夜光苔の光に照らされながら私を見下ろす。


「最下級魔物とはいえ、人間界の魔王を討伐した力は伊達ではないらしい」


私は無言で剣を鞘に納める。剣の柄を握る指先に、微かな力が籠もる。


「それで、次の目的は?」

「焦るな。お前が回りくどいことが嫌いなのは理解したから」


ザルバスは意地の悪い笑みを浮かべる。


「今から、お前を魔界の『内戦』に投入する」


私の虚ろな瞳が、初めてザルバスを真正面から捉えた。

「内戦……?」

ザルバスは一歩踏み出し、私の顔を覗き込むように屈んだ。

「お前の『永遠の死』への道のりも、そこから始まる。内戦を止め、魔界を一つにまとめ上げる。それこそが、魔王という強固な楔を打ち破るための、最初の杭だ」


「キーラ、あいつらを集めろ。久々の戦だと」

「御意」

その一言を告げ、キーラは一瞬で消えてしまった。

すると、突然ザルバスは私のことを抱き上げた。ふいをつかれたので、驚いて軽く目を見開いた。ザルバスは私をからかうように意地悪く笑う。


「二人での転移は、互いに体が触れている必要がある。今回は空中に転移するし、イリスが落ちるよりいいだろ?」


にしてもあまりにも顔が近い。ここまで近いと少し気まずいまである。


「ならせめて背中に背負ってくれ」


◇◇◇◇◇◇◇


「あのぉ……主様…俺が背負いましょうか?」

「黙れ」

「すみません……」


転移のために背負うと言っていたが、このままではザルバスの部下たちの視線で体に穴が開きそうだ。だがザルバスは何故かご機嫌で、それが余計に状況をカオスにしていた。


しかしザルバスが合図をすると全員が転移し始め、私も闇に包まれた。


「これは……」

眼前に広がっていたのは荒れ果てた荒野と数千にも及ぶ魔族たちが争う様だった。そもそも魔界にこれほど魔族がいることに驚く。しかし、二つの勢力の陣営は互角に見えた。


「ここは魔界で最も退屈な戦場だ。数千年前も同じことばかり繰り返していた、愚かな者どもの集会場」


イリスは、感情の波一つない、乾いた声で問い返す。


「全員殺せばいいのか?」


ザルバスは、わずかに目を細め、どこか子供のような無邪気な、しかし冷酷な笑みを浮かべた。


「まさか。そんなことをしたら、君の手柄はまた誰かに奪われるかもしれないだろう? いいかい、イリス。殺さずに、叩き潰すんだ。 完全に、徹底的に、再起不能なほどに、ボコボコにね。」


「わかった」


周囲には、ザルバス直属の、高位の魔族たち数名が控えていた。人間であるイリスへの偏見を隠しきれない者もいるが、ザルバスの命令には逆らえない。

しかし二人の常軌を逸した会話を聞いて、彼らの顔には困惑の色が濃く浮かぶ。


(『ボコボコに』だと? 魔族同士の戦いを、まるで遊びのように… しかも、それを人間に命じるのか?)


(イリス様は本当に理解しているのか? 命をかけてきた数千年の争いを、『殺すか否か』だけで判断するなんて……)


イリスは、部下たちの戸惑いを感知しながらも、表情は変わらない。彼女にとって、殺すか、殺さないかは、ただの"効率の違い"に過ぎない。


「戦闘不能にして、殺傷数は最低限にする」


ザルバスは、上空から眼下の戦場を一瞥し、そしてイリスを背からそっと解放した。


「さあ、イリス。ここが君の新たな舞台だ。」


イリスは、重力に従って、ただ垂直に落下し始める。魔力精製で武装することもなく、その身一つで。





落下するイリスの周りに、微細な魔力が集まり始める。それは武装ではなく、自らの落下速度を正確に制御するための、無駄のない力だった。


イリス、戦場へーー。



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