7
空はまだ蒼黒いまま。
朝と言っても、魔界に陽光が射すことはない。
夜光苔の明かりが地面をぼんやり照らしている。
ただの繰り返しだ。
まぁ、私にとって時間なんて意味がない。
ただひたすら、続いていくだけだ。
剣を抜き、呼吸を整える。
一歩、間合いを意識して静かに踏み込む
――何も考えずに、型をなぞる。
また、やっている。
何度も何度も繰り返してきたこと。
多分、すでに何百、何千回目だ。
これが意味を持ったことなんて、一度もない。
ただ、こうしていないと空っぽに飲まれてしまいそうになる。
剣を振る。斬り下ろし、払う。納刀――型通りの動き。
汗がにじんでも気にしない。痛みも、重さも、どこか遠くの景色みたいにぼんやりしている。
私の鍛練は生きるためのものじゃない。
もはや衝動に近い。体が勝手に動く。
何も感じないし、どうでもいい。誰が見ていようと、私はただ、型をなぞるだけ。
何のために、ここまで生きてきたのかも、よく分からない。この世界が終わってしまえば、それでいいと思っている。
鍛錬すら壊れれば、きっと私も、ようやく消えるんじゃないか――そんなことだけを、ぼんやり思う。
◇◇◇◇◇◇
「本当に、あの人間が、魔王の継承権を持っているのか……?」
巡回の途中、仲間の一人がぽつりと呟いた。
中庭で剣を振るうイリスの姿は静かすぎて、正直不気味ですらあった。
無駄のない動き、まるで心が死んでいるみたいな目つき。
あの人間が新たな魔王候補だ――そう思うだけで、背中に冷たいものが這い上がってくる。
「剣だけじゃない。
あの人……あんな顔で、次の王かもしれないんだぜ……?」
誰もが無意識に、イリスとは一定の距離を取ってしまう。
その感情が畏怖なのか、警戒なのかすら、はっきりと分からなかった。




