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鈍い痛みが、骨の奥から這い上がってくる。
「どうしてあいつだけ生きてるんだよ」
「死ねばいいのに!」
無数の声。踏みつける足。泥水に沈められ息ができない。視界は暗闇だ。感覚が黒く霞む中で、誰かがナイフを突き立てる。
「おとなしとけよ、ご褒美なんだからよぉ」
悲鳴もあげられず、さらに深く頭を押し込まれ、口のなかに無理やり泥を詰められる、肺が焼けつくほどの痛みと恐怖。
ようやく息を吹き返しても、今度は針や火で肌を貫かれる。
耳をつんざくような叫び声が、私から発せられていたのにも気づかなかった。
「お前は実験台なんだから、大人しくしろっ!」
強烈な痛みで涙が吹き出てくるのに、止まらない。
止めてくれない。
(痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
突き刺され、溺れ、焼かれ、四肢を裂かれ――
体力は限界を超えている。涙は乾いて、もう一滴も出ない。痛いのに、痛くない。怖いはずなのに、怖くない。
「まだ生きてるぞ、気色わりぃ」
「まぁいいじゃねえか。まだまだこれからだしな」
暗い谷底に沈んでいく感覚。体の感覚も心も冷たい水で凍りつき、全てを終える。
ー――なのに、何度も、何度も、目が覚める。
(どうして私が、どうしてこんな目に、どうして、
温度もない満天の闇。再び足元から、
誰かの手が奈落へ引きずり込む。
「――っ!」
イリスはびしょ濡れのシーツと、鼓動の轟音で目を覚ます。
知っている。これは、夢だ。
しかし、体の震えは止まらない。息が吸えない。痛みと恐怖が、今も骨の奥にまで焼き付いている感覚。
「…………慣れろ、よ。もう、何回目だ……」
手近な水差しを無意識に掴む。ようやく、呼吸を整えながら、冷え切った自分の手をぎゅっと握る。
『もうお前の体はお前だけのものじゃないんだから』
………そういえば、ここ数週間、ザルバスの元で暮らしているが、ザルバスは私に危害を加えたことも、そのような素振りを見せることもなかった。それより友好的で、私に対する配慮のようなものも感じられる。けれど。
信じてはいけない。決して弱みを見せてはいけない。
そもそも私は、こんな贅沢な暮らしをしていい人間じゃないんだから。




