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ザルバスは、執務室の重厚なソファに深く身を沈め、配下から届いた報告書の束に目を落とした。
「──これが、人間界の"裏切り者"か」
一番上には、若き騎士イリスの名。ページをめくるごとに、その名前の隣りに記された経歴は、もはや笑ってしまうほど壮絶だった。
『本名:イリス=グレイス。十四歳。
かつて辺境の貴族に生まれ、九歳で家を焼かれ孤児となる。
軍に拾われ、十歳で従軍。
十一歳で師団長の指揮権を持ち、先陣で三度の激戦を勝利に導く。
十三歳にして「剣姫」と呼ばれ、数多の魔族討伐を成し遂げる。
直近では、裏切り者とされながら魔王直属軍団を単独で殲滅した記録あり。証人不在。』
ザルバスは報告書から目を上げ、口角を吊り上げた。
「……たった一人で、か。本当におもしろい。人間というのは、時にこんな型破りな逸材を生み落とすものなのか」
部屋の隅には、業務用の控え目な明かりだけが灯っている。静寂の中、扉を叩く音。
「失礼します、ザルバス様」
現れたのは、配下の一人、キーラだ。
「イリス様の身の回りを整えていた際、身体に不審な呪印が見受けられました。どうかお力添えいただけないでしょうか」
ザルバスは少し考えたあとで頷く。
「……それは魔王のものだろうな。あいつは力ある者を、徹底して己の道具として縛ることを好んだ」
かつての魔王。魔界の規律を整え、平穏を取り戻させたが、しかしその本性は、制圧より、支配と支配の鎖を絶えず好んだ残虐な存在。 ザルバスの記憶の中で、その赤い瞳と歪んだ嗤いが蘇る。
「わかった。後で見に行こう」
面白くなってきた、とザルバスは心の中で呟いた。伝説の騎士が、呪いと共に自分の城にいる。
これはきっと、ただの同盟以上の波乱を呼ぶ──
更新が遅れてすみません。




