2
結局私は一時的に自殺を諦めた。
剣をおろし、男を観察する。
男は相変わらずニコニコとこちらを見ている。
一体どうやって中に入ってきたのか。いつの間にか牢のドアが開いているし、その男からはどこか不審な雰囲気が漂っている。
「勿体無いとは思わないのか」
「魔王を殺したの、お前だろ?」
一瞬空気が変わった。一体なぜそのことを知っているんだろう、そうだ、この男は……魔族だ。人間とは違う匂いがする。それに凄まじい魔力量。魔族のなかでも相当な階級であるのは間違いない。
「魔王の報復……」
「いいやぁ、違うよ。そんなんじゃなくて、俺は提案しにきたんだ」
「俺と一緒に来ないか。今、死のうとしてたんだろ?
じゃあ最後に、俺に協力するのも悪くないと思わないか?」
「その代わり、君の望みにも答える。例えば、さっき君も言っていたが……報復、人間たちへの復讐とかな」
男はまたニヤリと口角を上げた。
望みをかなえる……さて、こいつが言っていることは本当なのだろうか。魔族が巧妙に人間を騙すのを私は痛い程知っている。そしてこいつはいかにも胡散臭い。でもこのままここにいてももうすぐ死ぬんだし、それに死んだところで………。
「連れてけ」
「よし」
男はにこやかに笑って指を軽く動かす仕草をした。すると、私の手首にはまっていた手錠は呆気なく取れて地面に落ち、男は私にすっと手を差し出した。
「じゃあ俺の城に行こうか」
私はペタンと手に触れる。すると次の瞬間、あっという間に景色が切り替わり、そこはすでに魔界の、大きな城の前だった。
「ここは……」
「だから、俺の城だよ」
男の後ろをそのままついて歩く。大きな門が開く、中には多くの魔族たちが待ち構えていた。
「「おかえりなさいませ、主様」」
侍女や執事の格好をした魔族たちが一斉に男へ跪いた。
私もそれに続いて中に入るとその瞬間、まるで彼らのようすが変わった。
まるで息を飲むような、私を見て、なにか本能的に感じ取ったかのようにーーーーー
彼らは私の姿を見てから一瞬で、さらに深く、深くひれ伏した。彼らがそんな風にする意味が分からなかった。
「キーラ」
男がそう呼ぶと、さきほどまでひれ伏していたものが、男のすぐ近くまで一瞬で移動した。赤く短い整った髪をしている。
「はい、ご主人様」
「こいつを部屋に案内しろ。分かっていると思うが俺の客人だ。丁重に扱え」
「御意」
「お客様、お部屋にご案内いたします。どうぞこちらへ」
キーラと呼ばれていたその女性の姿をした魔族は、そういって私に来るように促す。
「私は、なにをすればいい」
男の方を振り返る。
「暫く休むといい。ずっと牢にいたんだろ?
勿論、君に危害加えないから安心しろ」
そういって笑う。
信用できるわけではないが確かに疲労はたまっているようだ。私は一度頷いた。
「なぁ、俺はザルバスっていうんだが、お前の名前は?」
「……イリス」
「これからよろしくな、イリス」
一体これから私はどうなるのだろうか。
でも、もうどうでもいい。どうでも……




