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私は砂のように消えていく魔王の姿を、地べたに座り込んで眺めていた。もうほとんど体力は残っていないし、身体中には無数の傷が残っている。
私は剣を支えに何とか立ち上がり、そのまま境界へ向けて歩いた。
ーーー視線。
人間界に帰ってきて、最初に目に入ったのは村人たちからの痛々しいほどの視線だった。まるで嫌悪するような、忌々しいものを見るような、そんな目。魔王を倒したのだから、少しは歓迎されるかもしれないと甘い妄想を抱いていた自分を殺してしまいたい。
私はもう、半ば諦めていた。悟ってしまっていた。
仲間の裏切りを。
実際王城につく前に、私は衛兵に捕らえられた。
「余計な抵抗はするなよ、どこへいったって、お前の味方なんていないんだからな。」
そう言い捨てた後、ガチャン、と錆び付いた鉄の牢が閉められた。
「……剣は」
「あ?」
「剣はいいのか、取り上げなくて」
男は笑って言った。
「もうすぐ処刑されるお前を哀れに思って、勇者様方がお許しなさったのだ。ありがたく思うんだな」
男がそこを出て、また扉を閉めると、陽光はほとんど届かなくなった。真っ暗で、牢屋の外にあるランプが仄かに私を照らしている。
剣を取らないことを許した……すなわち、処刑の前に自殺してもいいということか。相変わらずだな、あいつらは。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇
私は凄まじい喉の乾きを感じて、目を覚ました。
もう数日たった気がする。この前の男が、泥水のように汚れてジャリジャリとした水を寄越してくれていたので、なんとか生きてはいた。しかし極度の空腹に、砂が張り付いて傷んだ喉。それに加えて……
私は手錠の着いた手で、服をめくり、胸元の奇妙な紋様をみる。
「う"っっ!」
その途端、心臓が、全身が締め付けられるような痛みが私を襲った。目を閉じ歯を食い縛って必死に痛みに耐える。額から汗が流れ落ちた。しばらくして、痛みは段々引いていき、私はその場で壁に寄りかかり、ふぅ、と深呼吸した。
『これから楽に生きられると思うな。お前を必ず滅ぼしてやる』
恐らくこれのことだったのだろう。日に日に回数を増している。もしかしたら処刑される前に、この呪いで死ぬかもしれない。
私は、腰につけた剣を見つめた。何度も何度も魔族や魔物の首を切り、私と戦場を共にした私の相棒。
私は剣を引き抜くと、その刀身を優しく撫でた。この剣は漆黒であやゆる光を反射しない。この私の惨めな姿も見せつけてくれないのだ。
「今回で終わる……」
小さく呟いて、私はその剣を首の前に突き立て、目をつむった。
…………おかしい。
目を開けると、知らない男が自殺しようとした私の手を抑えていた。
男は黒い頭髪と整った顔立ちをしていて、私の方をじっと見つめている。
「……誰」
「こんばんは、お嬢さん」
男は妖艶な笑みを浮かべてそういった。
それがその男との奇妙な出会いのはじまりだった。




