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第六話 久しぶりの再会

「うう……ヤベえよ、どうすればいいんだ……」

 警察に嘘の証言をしたのがばれたら、絶対に怪しまれてしまう。

 いや、俺が火を点けた訳じゃないんだけど、小湊とは全然連絡も取ってないのになぜ現場に居たのかと訊かれたら……どう、答えればいいんだ?

「そうだ、大野に会うって話はどうしよう?」

 お袋には大野に会うって言って家を出たんだが、もしお袋が大野に電話でもしてそれを確認したら嘘だって事がバレちまう。

 あいつに口裏合わせをたのむか……いや、バレたらそれも怪しまれちゃうし……。


「ああ、もう何て馬鹿な真似を」

 あの時、小湊の家になんか行かなきゃよかった。

 くそ、あいつがどんな形で死ぬか確認したいなんて、リスキーな行動をしたせいで……。

「月末までもう日がないが……」

 三千万なんて払えるわけはないし、もう警察に言うしか……でも、警察に駆け込んだら俺まで逮捕されてしまう。

 そしたら、死刑になるのか……?

 い、嫌だそんなの……俺はまだ死にたく……あっ。


(あの五人も同じ気持ちだったのか……?)

 死にたくない。それなのに殺されてしまった。

 で、でもあいつらは俺をイジメていたんだ。俺は何もしてないのに、トロイだのバカだの言いたい放題言った挙句に、暴力まで加えていた。

 そんなの死んで当然……でも、小湊の奥さんと子供は何も……。

「う、うう……」

 駄目だ。考えれば考えるほど罪悪感で押しつぶされそうになってしまい、気が狂いそうになってしまった。

 落ち着け……大丈夫だ。俺は実際に手は出してないんだ。

 きっと死刑には……ならないよな?


 深呼吸を繰り返して、パソコンを起動させてネットを見ることにする。

 残りの三人は宮野と藤原と島口……。

 三人の近況はどうなっているのかとネットで調べてみることにした。

「SǸSのアカウントは……駄目だ、見つからないな」

 実名で検索をかけても、あいつらのアカウントはヒットしていないので、近況を知るすべはなかった。

 電話番号を知っているけど、俺の方からいきなりかけたら怪しまれるし……大野なら知っているだろうか?

 あいつもこの三人とは親しかったわけじゃないから、聞いても知らないだろう。


「やっぱり、どうにもならないんだろうか」

 三人が殺されようが俺には関係ない。

 もう俺は依頼を取り下げているんだから、仮にあのおっさんが実行しても、無関係のはずだ。

「和彦」

「な、なに?」

「悪いけど、買い物に行ってきてくれる? 夕飯に使うお醤油とお塩もなくなっちゃって」

「買い物? あ、ああ。わかった。行ってくるよ」

「そう。顔色悪いけど、大丈夫?」

「平気だよ」

 気分転換にはちょうど良いと思い、お袋に頼まれた買い物に行くことにした。


「はあ……えっと、お醤油と塩だったか……」

 近くのスーパーに行き、お袋に頼まれた醤油と塩を籠に入れていく。

 平日のこんな時間に出歩くのはどうかと思ったが、特に気にすることもなかったか。

「――っ!」

 背後に視線を感じたので、咄嗟に後ろを振り向く。

 気のせいか……くそ、警察が俺をマークしていたりしないだろうな。

 店内に警官はいないけど、私服で紛れている可能性もある。

 くそ、これじゃ外にでも出歩けないじゃないか。


 ドンっ!

「あっ、す、すみません」

「いえ、こちらこそ……あ……」

 何て疑心暗鬼になりながら、店内を歩いていると、若い女性客にぶつかってしまった。

 まずいな、気を付けないと……。

「あの」

「はい?」

「えっと……田町君だよね?」

「ん? はい……えっと……」

 女性が突然、俺の名前を呼んだのでびっくりしてしまったが、この人は……。


「し、島口さん?」

「うん。ひ、久しぶり……」

 そうだ。俺と同じクラスだった島口睦美だ。

 俺があいつに殺害を依頼した……ま、まさかこんなところで会うなんて。

「か、買い物?」

「うん」

 スーパーに来ているんだから当たり前だが、彼女の顔を見ると、気がおかしくなりそうでとても見られそうにない。

 というか、美人になったな……長い黒髪におとなしそうな雰囲気の女性で、お淑やかな美人になっていた。

 どうせ、彼氏がいるか結婚しているかだろうけど、私服でここにいるって事は結婚して主婦でもしているのか?


「じゃあ、これで」

「あ、待って」

「ん?」

 島口が俺のもとから去ろうとしたので、咄嗟に呼び止める。

(いや、どうしろって言うんだよ)

 お前を殺そうとしている奴がいるとでもいえば良いのか?

 しかし、そんなことをすれば……。

「あ、いや……はは、今、どうしているのかなって」

「え? ああ、うん……ちょっと訳あって実家に居てね。田町君は?」

「お、俺も実家でさ。はは、今、就職活動中っていうか……」

 就職活動なんかしてないんだけど、無職っていうのはやっぱり言いづらい……。


「そうなんだ。私、今日は仕事休みでね。くす、田町君も元気そうだね」

「へ? ああ……そうだな」

 くすっと優しく微笑んでそういってくれた島口を見て、ドキッとしてしまい、思わず視線をそらしてしまう。

 やばい、こんなかわいかったかな……中学のときから可愛い部類にはあったと思うけど、今は前にもましてお淑やかになっているというか……大人になっているのかな?

「あのさ。最近、その……変な事件多いから、気を付けた方が良いかなって思って」

「変な事件……あ……」

 そう言うと、島口もすぐに察したのか、険しい表情を見せる。

 まさか島口の殺害依頼をしたなんて言えないので、今はこれが精いっぱいだった。


「うん……私の家にもね。実は警察が来たんだ」

「島口の家にも? 実は俺もさ」

「そうなんだ。あと、マスコミも来たんだよ。私、駒木さんとは結構仲良かったし」

 ああ、そういえば、中学の時は一緒に居た気がするな。

「本当、怖いよね……警察の話だと、変質者の犯行じゃないかって言うんだけど……」

 駒木だけだったらそうかもしれないが、久保山や小湊はそれでは説明がつかない。

 俺が殺せって言ったんだ……くそ、どうして、あんな軽率な事を。


「お互い気をつけようね」

「ああ。うん、島口も気を付けて。なんかあったら、すぐに警察に言った方が良いな」

「うん、ありがとう」

 と言った後、お互い別れ、レジへと向かう。

 元気と言えば元気だったが、何となく覇気がなかったので、何かあったんだろうが……。


 訳ありっぽい雰囲気を感じたが、あんな状態の島口を死なせてしまうのはどうかと思うようになってしまい、胸が更に痛くなってきてしまったのであった。


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