第一章1『理不尽な展開は駄作』
「あなたには異世界行って世界を救ってもらいますが、あなたに渡せる能力はありません」
それが俺が死んでとばされたなにもない空間ではじめて聞いた言葉だった。
――どういう事だよ?
と見えない存在に問いかけようとするが声が出ない、何かがおかしいと思い口元に手を当てるが口がない、何なら手もないし足も何も無い。
一通り自分の体を俯瞰したところで、やっと自分自身の身体が存在ていないことに気付いた。意識体として精神だけがこの場所に呼び出されたようだった。
そんな俺を気にする様子はなく声の主は続ける。
「本来、異世界には10人の勇者を送り込む予定でした。そのため我々は10人分の神器、もといチート能力しか用意していなかったのです。」
理解できなかった、それが俺とどんな関係があるというのだろうか
「ところが、すべて終わったあとに11人目の魂がこの空間に迷い込んでしまいました...それがあなたです。」
どうやら俺はこの声の主に間違えてつれてこられたようだ。
――ならなおさら能力あたえるべきなんじゃないのか?
――テンプレはどうした?
声にならない声でとりあえず抗議してみる。
「私達も迷いましたが、話し合いの結果あなたにも異世界に行ってもらうことにしたのです。」
どうやら俺の声は届いていないらしい、それとも無視しているだけなのか?
ただ一方的に話されてあまりいい気はしない。
「でも仕方ないですよね..そもそも生き返られる事自体が奇跡みたいなものですし、それに文句を言われても...ねぇ?」
わかるだろと言わんばかりの態度にさすがの俺もいらっときた。
これまで異世界転生モノの小説に憧れ早5年、ずっと夢見てきた異世界転生がまさかこんな理不尽な展開とは...これがもし小説なら稀に見る駄作以外の何物でもないぞ⁉️
「そういうことですので、あなたにはこのまま異世界で生き延びてもらいます。流石に可哀想なので、厄災除けの加護を気持ち程度ですが付与して差し上げましょう」
―――っふざけるな!!
――だいたい何なんだよお前は、勝手に間違えたくせに仕方ないだって?
――世界救って貰う立場でそりゃないだろ。――不公平だ。――搾取しやがって。――何様のつもりだ?
どんどん不平不満が溢れてくる。止まらない。
「そもそも手続きがめんどくさくてですね.....今から用意しても間に合わないんですよ」
――勝手なことばっか言いやがって、――誰がそんなこと頼んだっていうんだよ
――そもそもそんな状態で異世界で生き延びられるわけねえだろうが
実はなんとなくこうなった原因には気づいている。何なら自分が悪い自覚もある。ただもう止まらない。
――この人殺しが――いいかげんにしろよ
――なんで現実で辛い思いしてこっちでまで苦しまなきゃいけないんだよ
止まってくれない。きっと認めたくないのだろうと考える冷静な自分もいる。
それでも相手には届かない届いてくれない聞かれたくない。
だからやめてくれ現実を押し付けるのは何も考えたくない辛いのは嫌だやめてくれだから...。
「だいたいあなたも悪いんですよ?だってこんな自体になった一番の原因は――――――あなたが自殺したことなんですから.....」
――――――
―――――..
―――――.........ごめんなさい
これはきっと命を粗末にした罰なのだろう
自分だけつらい現実から逃げてしまった罪の重さをこれからずっと背負わなくてはならないのだと気づいた
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「......気持ち悪い」
草むらで目が覚めた、どうやらまた気絶していたらしい。あたりは暗闇に包まれており、よく目を凝らさないと何も見えないほどだ。夜鳥の鳴き声がしていることから夜なんだろうなとぼんやり考える。
このままいてもどうにもならないのでとりあえず歩くことにした。
結局あの後はろくに反論する機会も与えられないまま、厄介払いするように異世界へと飛ばされた。
誰もいない、動物一匹も姿を表さない森林で目が覚めた俺は、案の定異世界でのんびりライフなんて送れるはずもなく、何なら3日間経ってもこの森を抜け出せないでいる。
何も持たされなかった俺は飲まず食わずで森をさまようことになり異世界生活三日目の現在に至る
『あなたが自殺したことが原因なんですから』
あの声に言われた言葉が頭の中を反芻する。
確かに俺が生きてきた17年間は決して褒められるものではなかった。母が死に、期待を裏切り、親父に殴られ、無気力に生きた。友達すらいなかった。だが、それだけで俺がこんな仕打ちを受けていることに納得ができなかった。誰だって全ての人間に誇れるほど日々を潔白に生きることなんてできていないはずだ。なんなら俺よりもずっと後ろめたい事があるやつや、自分の人生に妥協したやつがいるだろう。それなのになぜ俺だけが.....
もう半ば開き直っていた。そんなこんなで3日たった今でも神に対する怒りは収まらず、毎日のように恨み言を吐いていた。
「こんな状態でどうしろっていうんだよ、俺が何をしたっていうんだよ」
どうせなら女神の一人でも付けてくれればいいのに、何なら駄女神でもいい、そんなことを考えながら水や食料を求めて道なき道を歩き続ける。四肢はしびれ疲労がたまり限界だった。実際に何度も気絶しては起きてを繰り返えしている。それでも動けているのは奇跡のようなものだが、怒りによる気力でなんとか立ち上がっているだけに過ぎなかった。
ただ、それももう限界が来てしまいついには動かなくなった。疲労感や空腹感に責め立てられ死を覚悟する。どうせ一度死んでいるんだ...もう一回死ぬことなんてわけないはずだ。半ば諦めて周りを見渡す。
ふと、目の端で光を捉えたのでその方向を見る。
「水だ!!」
泉があった。水が月光を反射し、その存在感をこれでもかと主張する。2日ぶりの水に体の細胞たちが沸き立つ。気がつけば動かなかった足が水を求め動き出していた。
弱々しい足取りで一歩、また一歩と進んでいく、確実に前へと進んでおり、このままいけば泉にたどり着き水にありつける――はずだった
暗闇に潜む何かに足を取られてその一歩は宙を舞う、受け身も取れず顔から前に倒れた
「!?ううわああぁ」
転けるだけならまだ良かった、、だが道だと思い込んでいたその先は続いておらず虚無が広がっていた。
――風を感じる
いつぞや体験したバンジージャンプで落下する際に感じる風が表面を貼っていくような感覚を思い出しながらそのまま崖を転げ落ちていく...
顔面を硬い岩に何度も何度も打ち付けて、最後は地面に頭から叩きつけられた。幸い枝がクッションになり衝撃はいくらかましになったものの、ぼろぼろになり動くことができなかった。
――死にたくない
「しにたふあい」
気づいたときには口に出ていた。ただ、ろれつが回らない。
「しにたうない、しにだく...ないよぉ」
喋るたびに口の中に血の味が広がる、それが鼻血のせいなのか口を切ったのかはわからないほど顔面がぐちゃぐちゃになっていた。涙が、泣いていないのにボロボロとこぼれ落ちる。
ごぼごぼと、溢れる血の隙間から漏れる呟きが、ひどくみっともなかった。
その呟きには、現実世界への憎しみや、理不尽な運命への憎悪、そして自分への失望が含まれていた。
現実世界ではあれほど死を望み、気力を振り絞ってやっと死ねたのに...いざこの世界で死のうと思っても、それでも必死に死ぬことを拒絶してしまう自分に嫌気が差す。そんなもうどうにもならない感情を抱え、俺は顔をゆっくりと上げる。血が邪魔をしてよく見えない目をこすり、死を拒む身体を奮い立たせた。希望も何も無い先を見つめる。
―――そこには祠が建っていた。
古めかしくどこか神々しさをまとったそれは、オレの心を一瞬にして掴んだ。
―――壊さなきゃいけない
俺は急にそんなことを思った。
何故かそうしないと物語が始まらない気がした。




