プロローグ『だれか俺の話を聞いてくれ』
魔族の王が人間の王国に戦争を仕掛け、100年が過ぎた今日。
焼け落ちる魔王城の王室にて、この世界の歴史を変える一戦が終わろうとしていた。
「ふざけるな!!この我輩が、魔王が負けるなど、、ありえない...あってはならない」
無駄にだだっ広い一室に絶叫がこだまする。血走らせた目でこちらを睨みつけながら血に塗れた王はそう叫んだ。全身を切り裂かれ立ち上がれないはずのそれは諦めず反撃しようと床を這う。しかし距離は一向に縮まらない。
「残念だがここで終わりだ魔王、大人しく地獄に落ちろ」
それに答える勇者――つまり俺は冷淡に魔王の叫びを拒絶する。とはいえ定番すぎただろうか、安っぽいセリフだったかもしれないなんて思いながら、俺は魔王を確実に仕留めるために距離を縮める。
「言い残すことはあるか?」
剣先をイモムシのように蠢く魔王の首筋にあてがいお決まりのセリフを吐く。
負けを悟った魔王は、それでも怒りを抑えることなく
「..........たとえここで終わろうと、いつか必ず貴様に復讐してやる」
と打倒勇者を宣言した。
それに対し俺は呆れた笑いをこぼしながら
「そりゃどうも、楽しみにして待ってるよ」
と挑発でかえす。
今度はカッコつけすぎたか?いや、勇者ならこれくらい余裕を持っているものなのだろうか......やはり主人公は難しい、俺には荷が重すぎる。王国から託されたマントがやけに重く感じた。
突如としてこの世界に呼び出され、魔王討伐の使命を与えられたあの日から一度も勇者としての自覚は芽生えずにいた、ただひたすらに元の世界に守ろうと奮闘した記憶だけがあるが、結局その目標もある出来事により簡単に散った。そして今、巡り巡って異世界召喚の元凶となった魔王に八つ当たりしている。
「我輩は....我輩の...我輩がぁ――――」」
最後の言葉に対する侮辱の言葉を受けてかどうか、うずくまっていた魔王が急に叫びだした。その表情は悲痛、憤怒、激昂に変化しながらただ何かを必死に見つめていた
「もうそういうのいいからさ....」
これまでの理不尽な旅路を思い出し、気分が悪くなってしまった俺はすべてを終わらせようと剣を振りかざす。
決着を悟ったその時、ふいに魔王の指が動いた。魔王の背後から大きな闇の塊が俺に勢いよく襲いかかる。どうやら最後っ屁のようだ――が、振り抜いた剣でそのまま受け流し攻撃をそらした。標的を見失った黒い塊は勢いのまま後方の柱にぶつかり瓦礫を散らす。まともに喰らえば致命傷だったことがその様子から窺える。
「....っなぜ、今更、、」
「ん?」
どうやら今の攻撃は魔王にとっても想定外のようだ、よくわからないがぶっちゃけどうでもいい、
俺は驚いた表情を浮かべる魔王に更に近づき、顔を覗き込みながら、できるだけ優しい口調で話す。
「大人しく死ねよ、お前にはこのあと役割があるんだからさ」
「役割だと?一体何の話をしt...?」
俺は魔王の返答えを待たずに今度こそ剣を喉奥に突き刺した。しばらくジタバタとしていたが、やがて体から力が抜け、ぐったりとしてきた。今まで倒してきた魔物と何も変わらない、いまいち手応えのない感触がした。血を吐き白目をむく魔王の顔になんの感情もわかない。せっかく長年の使命を果たしたというのに、感動することもなかった。所詮ただの八つ当たりだ、こんなものだろう。
「これでひとまずは終わり....で、いいんだよな?」
いまいちしまらないセリフを吐きながらハンカチを取り出す。長年の時を得てパターン化した動きで戦友の血を拭うと錆を知らない剣は瞬く間に銀色の光を取り戻す。
「そしてこれから......もう一仕事頼むぜ、相棒」
主張の激しい剣を構え直し、魔王の体の解体に取り掛かる。
翼をもぎ、四肢を切断し心臓を取り出す。
そうやって両腕、両足、胴体、心臓、翼、頭部、角、の7つに魔王の遺体を分けた。
全ては俺の物語のために――
全ては俺の存在のために――
全ては俺の主人公のために――
ある程度下ごしらえを終えた後、
俺は重苦しかったマントを脱ぎ捨て、血塗れの魔王の服に腕を通した。




