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怠惰なソクラテスはラブコメをしない  作者: 大河内美雅
第1章5月 俺は恋愛をしない
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ノトーリアスBIGはニコニコ話す

 すっかり夜に包まれた幕張の街は煌びやかだった。


 そんな街並みを疲弊した男が一人歩くというのは、なんとも妙な気分だ。

 まるで人生を放棄した中年みたいで、嫌だなぁなどと思ってしまった。


 幕張海浜公園を抜けて、海浜幕張駅の看板が見えてきた。

 途中でベンチに座っている、金髪の後頭部お団子を見かけたが気のせいだろう。


「待ってー、コウー」


 美桜の声が聞こえたと同時に、背中に軽い衝撃を受けた。


「コウ、ひどいよー。無視するなんてー」

「すまん、不審者かと」

「なんか私、110番対象になってる!?」


 変なリアクションを取りながら、隣に並んでくる。


 こういうことをするから周囲が誤解するのだ。


 少し距離を空けるため、早歩きをする。

 なぜか、美桜も俺のスピードに合わせて歩いてくる。

 なんか、こういうスタンドがいた気がする。


「美桜、もしかしてお前……。ノトーリアスBIGだったのか」

「のとーりあすびっぐ?何それ」

「お前……、五部を見ていないのか……?

 人として、日本人として恥ずかしくないのか!いや、お前はもう日本人ではない!」

「日本人だし!日本人濃度百二十パーセントあるし!」

「いや、お前はスタンドだ。日本人の皮を被った、自立型のアホなスタンドだ」


 結局は、美桜と並んで帰ってしまっている。

 俺はアホではないので、大人しく従うことにした。


 プラットホームで五分くらい電車を待ち、新習志野へ向かう電車に乗った。

 電車内は帰宅するサラリーマンや学生などが多く、朝よりも混雑していた。


 俺と美桜はそのため、ドアの近くで固まっていた。


「さすがに人多いよな。人混みってゴミのくせに嫌なことしてくる」

「コウ、人混みのごみって粗大ゴミのゴミじゃないからね。コウって実は馬鹿なの?」

「特大ブーメランだな。アホの申し子に、馬鹿と言われてもねぇ」

「もしかして、私ってアホだと思われてる?」

「アホ以外の何者でもないだろ」

「アホって言った方がアホなんだし」

「ってことは、今アホって言った美桜は、結局アホなんだな」


 その時、急ブレーキがかかったのか、車体が大きく揺れた。

 バドミントンで鍛えているはずなのに、俺はバランスを崩してしまう。

 そして、その勢いで美桜にぶつかってしまった。

 なんとかバランスを戻そうと奮闘した。


「悪い、大丈夫か」


 一応謝っておく。

 と、そこで気づいてしまう。


 現在の俺と美桜の状況を説明するとこうだ。

 美桜はドア側に追い詰められて、俺は美桜の顔の横に手をついている。

 こんなシチュエーションをなんと呼ぶのか、その方向に疎い俺でも知っている。


 壁ドンってやつだ。


「それワザと?」

「あいにく、俺には壁に向かってドスコイかます趣味はないな」

「それ、趣味じゃなくて奇行って言うと思う」


 いつまでも、この窮屈な状態を維持するわけにもいかないので、俺は体勢を元通りにした。

 念のためもう一度謝る。


「とにかく、迷惑かけてすまんな」

「べ、別にいいけど」


 美桜の顔が赤くなっている。

 どこか居心地の悪さを感じて、俺はスマートフォンをいじることにした。


「コウはさ」

「うん?」

「ゴールデンウィークは何か予定ある?」

「あるよ」

「どんな」

「ひ、み、つ♬」


 ちょっと可愛く誤魔化したら、お腹を全力でつねられた。


「真面目に聞いてるんだけどー」

「痛い、痛い。部活です。インターハイに向けての」

「でも、オフの日もあるでしょ」

「その日は友達と遊びに行くんだよ」

「友達って、誰?」

「な、い、しょ♡」


 つねる力が強くなった。

 こいつ、さっきの全力じゃなかったのかよ。


「委員会の友達でございます。一緒に本を買いに行こうかと」


 そこでようやく、つねりの刑から解放された。


「そっかぁ、暇な日ないんだね。ちょっと残念」


 ちょっととは言ったものの、美桜は本当に残念そうな顔をしている。

 本人はそのことに気づいているのだろうか。

 ここは指摘しない方がいいだろう。


「ごめんな。俺や琥珀と何かしたいなら、また別の機会に誘ってくれ。多分OKするから」

「そこは絶対って言ってよ!?でも、ありがとう」


 犬みたいなやつだ。コロコロと表情を変える。

 その笑顔を見て、少し安心した。


 それから、新幕張駅で降りて、部活の話をしたり漫画やアニメの話をしていると、それぞれの自宅に着いた。


「じゃあ、また明日」

「あぁ」


 美桜は手を振って、自分の家へと帰っていった。

 それを見届けてから、俺も帰宅。


「あっ、おかえり。お兄ちゃん」


 琥珀が駆け寄ってくる。

 毎度毎度、ありがたいことだ。


「ただいま」


 今日はどっと疲れた。


 全く、長い一日だった。



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