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怠惰なソクラテスはラブコメをしない  作者: 大河内美雅
第2章6月 冷静な先輩は揺るがない
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無駄なこと

「大会お疲れ様でした」


 シングルスの日程が全て終了して、部員は体育館の隅の方に集まっていた。

 過密日程で試合を行ったせいか、みんな疲労の色を隠せていない。


「結果、真瀬がシングルスで優勝。

 インターハイへ進める三枠のうち、見事一つを勝ち取ってくれた。

 今一度、優勝した真瀬に拍手!」


 進藤先生に促されて、割れるような音量で拍手をする。

 一部の部員が、「真瀬琉珸は汐崎の誇りぃ!」と発狂していた。


 お祭り騒ぎと言っても過言じゃない。

 それほどまでに、盛り上がっていた。






 シングルス決勝は、明衣江高校一年の望月玲君と真瀬先輩のゲームだった。

 お互い既にインターハイ出場は決めたものの、県優勝をかけて白熱した試合を見せた。

 戦いは3ゲーム目までもつれ込んだが、最後は真瀬先輩のジャンピングスマッシュが決まって、真瀬先輩が優勝した。


 県大会の決勝戦に相応しい、最高峰の戦いだった。


「では、優勝した真瀬から一言」


 真瀬先輩は立ち上がって、俺たちの顔を見回した。


「有言実行と言いたいところだけど、八月の全国での舞台が本番だと思ってる。

 全員倒すって言った以上、インターハイでも優勝するつもりです」

「だそうだ。

 本当に全員倒すのかどうか、俺たちは見届けてやろう」


 ありがとな、と進藤先生は真瀬先輩を座らせた。


「最後に県大会と部活を振り返って、松永から」


 進藤先生は場を松永先輩に譲った。

 任された松永先輩は部員の前に出ると、深呼吸をしてから口を開いた。


「まずは、本当にお疲れ様。

 この場にいる全員が疲れたと思うし、身も心もクタクタだと思う。

 だから、言いたいこと一つだけ言って終わるよ」


 そう前置きをして続ける。


「真剣に練習に取り組んで得たものは絶対力になるから、今回結果が思うようなものじゃなくても切り替えて、また練習に励んでいこう。

 俺が言いたいのは、それだけ」


 優しく笑うと、松永先輩は頭を下げた。

 パチパチと丁寧な拍手が松永先輩を包み込んだ。


「三年生は真瀬のインターハイが終わるまでは、部に残ってサポートとか下級生の指導をしてくれ。

 インターハイが終わり次第、送別会はやる予定だから。

 そこで正式に引退してもらう」


 進藤先生の呼びかけに三年生の先輩方が頷いた。

 進藤先生は満足そうな顔をすると、最後に締め括った。


「俺たちは真瀬という男が爪痕残した事だし、会場に礼をして帰るか」


 こうして、インターハイ県大会は幕を下ろした。






「絋汰、じゃあな。

 しっかり休んで元気に登校しろよ」

「侑希もな。

 疲れ溜まってるはずだから、ちゃんと寝ろよ」


 仲睦まじい夫婦のような会話をして、駅前で俺と侑希は別れた。

 Suicaで改札口を抜けて、新習志野行きの電車に乗る。

 

 車内には休日にも関わらず、社会人の姿が多かった。

 対照的に遊びに出かけた中学生や高校生の姿は見えない。


 俺は人混みの中でドアに寄りかかっていた。


「しかし、瑠衣も可哀想だよなー」


 聞き覚えのある単語が聞こえてきたので、その方へ視線を向ける。

 俺から少し離れた位置でバド部の三年生の先輩が二人席に座っていた。


「本当だよなー。

 あんなふざけた試合やるくらいなら瑠衣が進んだ方が良かったよな」

「あれほど、無意味な勝利もないよな。

 瑠衣の最後の大会を潰してまで、やりたかった試合があれ。

 瑠衣が勝ってたら、明衣江の望月君ともいい試合ができたし、何なら勝てた」

「そういえば、女子は三木谷が優勝、一年生の風祭って子が優勝したらしいぜ。

 絋汰と違って、風祭って子は結果残してすごいよなぁ」

「結局、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 気づけば、電車は新習志野駅に着いた。

 着いた瞬間に俺は走り出していた。


 駄目だ。

 もう限界だ。


「おかえり、お兄ーー」


 琥珀の出迎えも無視して、自分の部屋に入った。

 リュックサックを投げ捨てて、その場に倒れ込む。


「そんなの…………言われなくても分かってるっ!」


 俺が松永先輩の夢を終わらせたこと。

 なのに、俺が無様に負けたこと。

 全部、全部、全部分かってる。


「出てもない先輩(あいつら)に言われる筋合いはーーーー」


 言葉を続けようとして、途切れてしまった。


 違う、事実を言っただけだ。

 何もできず、無様に負けた俺よりも松永先輩が進んだ方が良かった。

 そんな事実を言われて、言い返せる訳がない。


 強くなって成長したつもりでいた。

 でも、実態は何も成長もせず、弱いままで尊敬する先輩の夢を潰しただけだ。

 こうなるくらいなら、松永先輩に負けるどころか、大会に出なければよかった。


 松永先輩の想いの強さは知ってたはずだ。

 中途半端で来年もある俺がイキって戦うこと自体がおかしい。


「本当に何も分かってるないんだなっ!!(お前)は!!」


 無意味な勝利。

 無意味な試合。

 無意味な努力。

 

 俺は全てにおいて無意味なことをした。

 なのに、その無意味なことは俺の自己満を膨大にさせていく。

 俺の自己満のせいで、本当に意味のあることを終わらせた。


 スマートフォンがピロンと鳴った。

 画面を見てみると美桜からで、『優勝したよー!』とトロフィーの写真と共に送られてきた。


「はは……優勝か……。

 すごいな…………」


 俺は笑って、泣き始める。

 ベッドの布団を強く握り締めた。


「俺の努力は……全て無駄だったんだ!!」


 奥歯を強く噛んで、布団を全力で叩く。


 努力は報われないどころか、俺の身勝手な足りない努力に満足したせいで他人の夢を潰した。

 俺はーーーーーー


「俺は……俺が大嫌いだ……!」






 

 

 

 


 

 

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