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怠惰なソクラテスはラブコメをしない  作者: 大河内美雅
第2章6月 冷静な先輩は揺るがない
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二人の終わり

 もっと速く。

 もっと強く。

 もっと鋭く。


 3ゲーム目に入っても、松永先輩はプレーのレベルが落ちなかった。

 俺のショット一つ一つに冷静に対処して、確実に返してくる。


 松永先輩のレシーブに俺は打つ寸前で面を変えた。

 軌道が変わって前方に落ちていくが、松永先輩はこれをヘアピンで狙ってくる。

 叩いて決めようとしたが、シャトルはネットに沿って落ちてしまった。


 3ー4。


 (完全に松永先輩のペースだな)


 離されないよう喰らいついてはいるが、思うようなプレーができない。

 スマッシュで打ち込みたくても、強制的にドライブなどを打たされる。


「スマッシュ速かったら、多少強引でも入る」


 真瀬先輩の言葉が蘇る。

 無理矢理にでもねじ込みにいこう。


 松永先輩はコートギリギリにサーブを打ってきた。

 腕を伸ばして反応し、プレーを限定させるようにレシーブする。

 打たれたスマッシュに対して、安定したサーブで返し続ける。


 (もっと速く、強く、鋭く、正確に……!)


 懸命に脚を動かして、ラリーのスピードに乗っていく。


 俺はスマッシュしづらい返球を強引にスマッシュして返した。

 松永先輩は瞬時に反応して返そうとするが、届かずに俺は点を取った。


 気のせいかもしれないけど、松永先輩の反応速度が落ちてきた。

 やっぱり、フットワークでは負けてない。


 果敢に攻め続ける。

 スマッシュを打っては防がれて、打っては防がれてを繰り返した。

 

 カットを打って、松永先輩を前に揺さぶった。

 レシーブで返したことにより重心が前に来ていたので、高くて速いロブを後方に繰り出す。

 ジャンププッシュで上手く対応されたので、ヘアピンで白旗ギリギリを狙う。

 

 そのとき、ヘアピンで返そうとした松永先輩は足を捻ってしまった。

 

「クソっ!何で!」


 松永先輩が苛立ちの声を出す。

 ネット越しで様子を見た。


 足が腫れて赤くなっていた。


 嘘だろ……。


 俺は言葉を失う。


 全力で戦うどころか、試合が続行できるか怪しい。


 そんな…………


「大丈夫ですか?」


 審判が松永先輩に駆け寄った。

 松永先輩は捻った足首をブラブラすると立ち上がった。


「大丈夫です。

 続けられます」

「でも、痛がってるようにーーーー」

「問題ないです。

 やらしてください」


 松永先輩の真剣な表情を見て、審判は「次痛めたら棄権」と言って元に戻った。


「絋汰、構わずやってほしい」


 松永先輩は迷っていた俺に釘を刺した。

 腑抜けたプレーは許されないと瞬時に察する。


「分かりました」


 俺はシャトルを上げて、全力でサーブを打った。


 両者譲らぬラリーの応酬が続いた。

 怪我をしたにも関わらず、松永先輩は威力のあるスマッシュをたくさん打ってきた。

 俺は瞬時にレシーブで返して、プレーの自由を制限していく。


 今までやってきたどの試合よりも疲れてる。


 でも、それ以上に今までやったどの試合よりも脚は動き続けてる。


「戦術を意識すれば格上ともやれるよ」

「トリックショットは直前まで読ませないよう、複数のショットが打てる体勢に」

「もう少し脱力して、インパクトの瞬間だけ強くしないと」


 この一年、ずっと教わってばっかだった。


 何の得もないのに時間を割いてまで、丁寧に教えてくれた。

 一つのプレーが終わるたびにアドバイスをくれた。

 悩んでることがあったら、良いプレーができる改善策を一緒に考えてくれた。


 今でも教えてもらったことでこうして点を取れている。

 こうして、戦えてる。


 本当に感謝しかない。

 

 俺がタイミングをずらしたトリックショットを打ち、松永先輩はこれを正確にレシーブで返す。

 ヘアピンで決めようとするが、ロブで高く返されてしまう。


 本当にこれまで、ありがとうございました。

 ……すみません。


 全力で床を蹴って高く跳んでラケットを当たる瞬間に強く振った。

 放たれたショットに松永先輩は反応したが、シャトルはラインギリギリで床に落ちた。


「マッチワンバイ、兎束絋汰」


 17ー21。

 23ー21。

 28ー26。


 勝った……。

 松永先輩に勝った……。


「「ありがとうございました」」


 試合後の礼をしてコートを後にする。


 …………………………………。


 俺は素直に勝利を喜べなかった。

 

 前回の自分を超えた。

 下剋上をして、確実に自分が成長したと実感できた。


 でも……。


 俺の手で松永先輩の最後を終わらせてしまった。


「絋汰」


 松永先輩が呼びかけてきた。

 俺は複雑な心境で松永先輩の言葉を待つ。


「いい試合だったよ」

「…………松永先輩」


 松永先輩は歩み寄ってくると、ポンと肩を叩いた。


「次の試合も頑張って」

「……はい!」


 俺に返事を聞くと、松永先輩は優しく笑って去っていった。


 本当に優しい人だ。


 俺のことを考えて、言いたいことがたくさんあったのに言わないでくれた。

 今はただ、目の前の試合に集中しろって伝えてくれた。


「色々考えるのは……後にしよう」


 次はベスト8。

 あと、二回勝ったらインターハイ。

 全国出場も見えてきた。


「絋汰ーーー!」


 侑希が猛スピードで背中に抱きついてきた。

 重い上に汗臭かったが、引き剥がさなかった。


「お前、すげぇよ!

 松永先輩に勝っちゃうなんて!」

「松永先輩途中で足怪我しちゃったし……運が良かっただけだ」

「運も実力のうち。

 とにかく、お前やってることヤバいからな!?」

「その言葉、褒め言葉で使ってる奴初めて見た」


 侑希は俺から離れると、ふーって息をついた。


「もう少し祝いたいけど、まだこれで終わりじゃないからな。

 また三十分後に絋汰は試合だしな」


 そうだ。

 松永先輩の分まで、俺が優勝したい。


 きっと不可能じゃないはずだ。


「ベスト8に進んだ絋汰と真瀬先輩は、部総出で応援するから任せとけ!」

「誇れるプレーをするよ」


 そして、勝ちたい。






「マッチワンバイ、明衣江高校、望月玲(もちづきれい)

「「ありがとうございました」」


 準々決勝はあっという間に終わった。


 10ー21。

 11ー21。


 恥じないプレーを意識したのに、何もできずねじ伏せられた。


 情けないプレーをした。


「負けた人の方が楽しめそうだったな……」


 黒髪の一年生の望月君は試合が終わった後、ボソッと呟いた。






 俺のシングルスが終わった。



 

 



 

 


 

 

 

 

 


 

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