見ててくれ
試合が終わった俺は水筒の水を喉に流し込んでいた。
「絋汰、勝ったか?」
タオルで汗を拭いながら、侑希が近づいてきた。
俺はフッと息を吐きながら、立ち上がった。
「無事、二回戦も突破」
「ってことはいよいよ……」
「松永先輩との勝負だ」
今まで以上に緊張している。
さっきから、心臓の鼓動が早くなるばかりだ。
「もちろん、勝ちにいくつもりだろ?」
「勝ちにいくに決まってるだろ。
今の俺の全力を松永先輩にぶつけるよ」
侑希は屈託なく笑うと、俺の背中をドンと叩いてきた。
「絋汰の下剋上、期待してるからな!」
「あんまり過度な期待はすんなよ。
あと、普通に痛いから叩くな」
「素っ気ないなぁ。
せっかく、生涯のパートナーが気合を入れてやってるのに」
「誰が生涯のパートナーだ。
お前がやってることはDVまがいの暴力行為だ」
俺は塩分チャージを口に入れた。
ゆっくり噛んで、塩分を補給する。
「でも、マジで頑張れよ」
「侑希もな。
なんやかんやでベスト16まで勝ち進んでるだろ」
「俺はそんな言葉もらわなくても大丈夫。
心技体全てが揃ってるからな」
イキり散らしながらも、しっかりと足がブルブル震えてる。
めちゃくちゃ緊張してるんだな。
「次の試合まで一時間あるから、俺はしっかり休んどく」
「俺はそろそろだから、いってくるわ」
侑希がタオルを渡してきた。
「俺のプレー、見ててくれよ」
「言われなくても見るわ」
侑希は朗らかに笑って、戦場へと足を踏み込んだ。
侑希は一年のときと比べて、めちゃくちゃ成長してる。
ヒーヒー言いながらも、先輩たちのスパルタ練習をこなしてきた。
そして、今ベスト16まで勝ち進めている。
ちゃんと、お前の努力の結末を見届けるよ。
結果、侑希は負けた。
侑希らしい豪快なプレーで攻め続けたが、2ゲーム取られてしまい、ベスト16で敗退となった。
ただ、果敢に挑戦し続ける姿に、感銘を受けた。
どんなに苦しい場面でも、粘り強く攻めの姿勢を崩さず、諦めない。
最後まで醜く足掻いて、侑希は美しく負けた。
「俺の試合、どうだった?」
侑希はダラダラと座り込んだ。
そうなるのも無理はない。
「侑希らしい豪快なプレーで、観ていて飽きなかったよ」
「そこで、良い試合、惜しかったとか言わないあたり絋汰らしいな。
そうか。俺らしく戦えてたか」
侑希が姿勢を正して、体育座りをした。
「来年はもっと強くなって、たくさん勝って、もっと楽しい試合をしたい」
決意したように来年の目標を侑希は口にした。
常に前向きな姿勢が侑希の良いところだ。
悔しい気持ちを早速目標に進むための力に変えて、弱音を吐きながらも少しずつ歩いていく。
俺には絶対にできない。
「眩しくて失明しそうだ」
「キラキラ光輝く真の陽キャだからな」
「陽キャでも陰キャでもない俺にはよく分からん。
中キャの俺は下剋上に挑んでみるよ」
そろそろ時間なので、俺はラケットを手にして立った。
「試合観てるからな」
「……分かった」
観られている以上、情けない試合はできない。
俺は指定されたコートへと向かった。
コートには既に松永先輩がいて、シャトルを上手にリフティングしていた。
「汐崎高校松永瑠衣君、同じく汐崎高校兎束絋汰君の試合を始めます」
審判に促されて、俺と松永先輩は握手をした。
「「よろしくお願いします」」
挨拶が終わって、俺と松永先輩は正面から向き合った。
何度も何度も練習で向き合ってきた相手。
それ以上に何度も何度も俺が強くなるように、丁寧に教えてくれた人。
正直、戦いたくない。
でも、それはできない。
今まで教えてもらったことが無駄になるし、俺には前回の自分を超えるという目標がある。
今は試合に集中して、松永先輩に強くなった自分を見てもらう。
そして、下剋上する。
それが、今俺がやれること。
「ファーストゲーム、ラヴオールプレイ」
松永先輩からのサーブで試合が始まった。
右前に打たれたサーブを正確にロブで返す。
松永先輩はスマッシュと見せかけてドロップを打ってきたが、これにも冷静にレシーブする。
俺のレシーブにジャンピングスマッシュの体勢で持ち込むと、松永先輩はプッシュに変えて前方に打ってきた。
反応するが、これが決まって先制される。
(真瀬先輩よりも何打ってくるかギリギリまで読めないな)
俺はふぅと一息ついて、すぐに切り替えた。
松永先輩はさっきよりも強くて速いサーブを打ってきて、レシーブミスをしてしまった。
立て続けに2点取られる。
大丈夫だから、落ち着け。
反応はできてる。
今度のサーブはしっかりとレシーブをした。
この返球に俺の重心の逆をついたスマッシュを打ってきて、俺は反応してレシーブで返す。
速いスピードでのラリーが続いて、しばらく膠着状態になる。
俺は松永先輩のドライブが横にずれたので、得意のヘアピンで相手のコートに落とした。
点が決まって、少し安堵する。
そして、再び気を引き締める。
(技術面ではほぼ互角だけど、戦術では真瀬先輩、フットワークでは俺に分があるな)
ギリギリまでショットを予測させない以上、俺はどのショットがきても返せるように、体勢を構えて正確に返すしかない。
俺は相手のコート左前にサーブを放った。
松永先輩はこれをヘアピンで返すと、俺はロブで後方に送る。
(ドロップ……いや、カット)
予測通り、カットが打たれて俺はプッシュで押し込む。
これに松永先輩はダッシュでレシーブをするが、俺はジャンピングスマッシュで同点に追いついた。
(頭と体両方フルスロットで動かし続ければいける……!)
それからは、俺と松永先輩は点を取り合っていった。
松永先輩はショットを使い分けてこっちを揺さぶっていき、確実に点を取ってくる。
俺も予測して脚を動かし続けるが、予測ミスしたり、レシーブで返した後に理不尽なスマッシュを叩き込まれて、次第に点差が離れていった。
松永先輩が俺のレシーブをクリアで奥に追い込んだ。
俺は間に合って相手コートに返したが、冷静にプッシュで押されて決められてしまった。
17ー21。
善戦したが、1ゲーム目を取られてしまった。
「クソっ。1ゲーム目取りたかった……!」
1ゲーム目を取った方は、次のゲームを取れば勝ちなので心に余裕ができる。
逆に、取られた方は焦ってしまうので、ミスが多くなる可能性が高くなる。
早くも窮地に立たせれた。
(ここで焦るのが一番駄目だ。
冷静に分析し続けて、落ち着いて揺さぶっていかないと)
水分休憩が終わって、試合は松永先輩からのサーブで再開した。
松永先輩は1ゲーム目と同様に、読ませてないようにプレーをしている。
だから、俺はラリーのスピードを上げた。
相手のショットに速くレシーブで返す。
速く返すことで、相手の考える時間を減らして、プレーの幅を狭くさせる。
そのお陰か、松永先輩のプレーが読みやすくなっていた。
今まで引き出しが三つ以上あったのが、二択に絞り込めている。
俺のスマッシュにヘアピンで返してくると、俺もヘアピンで返した。
これをロブで後方に送られて、走りって追いつきクリアで高く返す。
(スマッシュ!)
松永先輩はドロップを打つフェイクをして、スマッシュを打ってきたが、そのスマッシュに反応して白旗ギリギリに二度目のヘアピンで点を取った。
14-13。
この試合初めてリードした。
(このまま、突き放す……)
試合の展開は速く激しくなった。
俺は揺さぶりながら、スマッシュやヘアピンで点を重ねていく。
一方で、松永先輩も堅実なプレーで守りつつ、点差が広がらないように猛追していく。
(この人、プレーに適応して修繕するのが早すぎる)
急に速くしたラリーにも合わせて、今までの読めませないプレーをやめた。
それどころか、やめたことにより、今まで以上に体力を削ってくるプレーが増えた。
状況に応じた最適なショットを選択して、確実に俺を翻弄してくる。
けど……
(俺だって、相手を騙すことに関しては負けてない)
松永先輩が角度ゼロのところから、スマッシュを入れてきた。
これをヘアピンで返すと、松永先輩は落ち着いてロブで高くロブで撃ち返す。
俺は空いてる左側に打つと見せかけて、右に強烈なスマッシュを放った。
逆を突かれた松永先輩は反応できず、シャトルは床に落ちた。
23ー21。
もう少しで追いつかれそうだったが、何とか2ゲーム目を奪った。
これで、残すは3ゲーム目のみになる。
「今までで一番ゾクゾクする……」
松永先輩がポロッと言葉をこぼした。
楽しさを顔に出して俺を見てくる。
勝ってみなよ。
明らかにその目はそう言ってた。
勝ってみせます。
俺も目でそう返答した。
ベスト8をかけた松永先輩との戦い。
ボルテージは最高潮。
勝敗が決まる最終ゲームが幕を開ける。




