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怠惰なソクラテスはラブコメをしない  作者: 大河内美雅
第1章5月 俺は恋愛をしない
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10年ぶりの再会?

「ここ、私がバイトしてる店なんだ」


 女性に連れてこられたのは、駅前にある喫茶店。

 ガーデニングがされたおしゃれな内装だ。


 侑希は空気を読んだのかいつのまにか帰ってしまった。


 これも夢で見た光景だ。


「おごるから、好きなの頼んでいいよ」

「じゃあ、アイスコーヒーとモリモリデラックススペシャルジャンボパフェで」


 夢での俺はアイスコーヒーを頼んでいた気がする。

 あの夢がもし予知夢ならば、コーヒーを頼むべきだ。

 パフェの方は……単純に高かったからだ。


「えー、そのパフェ三千五百円もするじゃん。漫画七冊は買えるよ」

「好きなの頼んでいいって言ったの、そっちじゃないですか。

 悪いけど、俺遠慮しないんで」

「そんなんだと、女の子から嫌われちゃうよー」

「本気出せばモテるんで大丈夫です。

 で、あなた誰ですか?」


 改めて目の前の相手を見る。

 

 こんな美人、会っていたら絶対覚えてる。


「ひどいなー。最近手紙出したのに」


 言葉が出なかった。

 何か口に出すべきなのだろうが、声が出ない。

 驚きと疑惑、ほんの少しの嬉しさが混じったような、そんな感情だった。


 ここ最近、俺に手紙を出した人物は一人しかいない。


「もしかして……、“いずみちゃん”……?」

「ほんと鈍いね。今になって気づくなんて」


 そう言って相手は笑った。

 確かにこの笑顔はどこか見覚えがある。


 今、目の前に“いずみちゃん”がいる。

 幼い頃、結婚の約束をした女の子。

 夢でも記憶の中でもなく、今この瞬間にいる。


 しかし、まだ実感が湧かなかった。

 これがまぎれもない現実なのは分かっているけど、脳が状況を理解していない。

 いや、理解できていない。


 急すぎる。何もかも。


 初めは“いずみちゃん”と会っていることに奇妙な感覚がしたが、いくつかの矛盾する点に気づいた。


「って、違うでしょ。

 仮に“いずみちゃん”だとしたら、矛盾しまくってる」

「例えば?」

「第一に俺と同じ高校なら、この時間帯で制服着てないのはおかしくないですか」


 相手の女性の格好は肩が少し出る白いセーターにレディースのパンツ。

 いつも目にしてるブレザーではない。


「あぁ、それね。

 だって私大学生だし」

「はぁ?」

「本当だよ。弥生町にある立派な大学」


 ますます意味が分からない。

 高校生ではなく、大学生だと。


「そうですか。

 じゃあ、どうやって手紙出したんですか?」

「私、高校は汐崎高校だったからね。そこらへんのコネ使えばできるよ」

「……。何で、手紙に今も同じ高校だと嘘を?」

「んー、特に理由はないかなぁ。その時の気分?」


 頭がどうにかなっちゃいそうだ。

 脳の処理全然追いついていない。


 とりあえず再び口を開いた。


「そして第二に。

 俺に会いに来てほしいんじゃなかったんですか。

 何故、そっちから会いに来たんですか」

「へー、そういうこと書いたんだ、()()()

「絶対、手紙の主あなたじゃないでしょ」


 誤魔化す気もさらさらないようだ。

 悪戯(いたずら)っ子みたいな笑みを浮かべた。


「ピンポーン。大正解。

 察しの通り、私は“いずみちゃん”じゃないよ」

「あんまり、思春期の男子を揶揄(からか)わないほうがいいですよ」

「おっと、私に反抗期の矛先向けるのはごめんだよ」


 イライラしたが、怒っては相手の思うツボだ。

 俺はちょうど運ばれてきたパフェを一口食べた。


 うん、めちゃくちゃ美味しい。


「現役大学生で高校は汐崎高校だったのは事実だよ。

 こう見えて理工学部なんだ」

「つまり俺の天敵ってことですね」

「だから、矛先をしまって」

「理系を倒すために俺は文系の道選んだんで、それは少し厳しいです」


 女性はハハッと軽快に笑った。

 その様子を見ながら、俺はものすごい事に気づいてしまった。


「そういえば、何で“いずみちゃん”のことも手紙のことも知ってるんですか。

 俺、話したのは侑希と琥珀くらいなのに」


 まさかこの二人が漏らした……なんてことはないだろう。

 二人とも口が固いし、知らない人に言ったりはしないはずだ。


「それは言えないかなー。でも、その二人からは聞いてないよ」


 もう少し問い詰めようと思ったが、相手の目に強い意志を感じたので無駄だと悟った。

 絶対に教えない、そんな強い意志だ。


「その様子だと、“いずみちゃん”が誰なのかも知ってそうですね。

 現に()()()って言ってましたし」


 ダメ元で言ってみた。

 万が一の可能性もあるからだ。


 しかし……。

「それも言えない。

 “いずみちゃん”は『私を見つけて会いに来て』って絋汰君に伝えたんでしょ?

 なら、絋汰君自力で探さないと意味がない」


 やはり、無理だった。

 期待はしてなかったから、あまり落ち込んでないけど。


 この女性のいう通りだ。

 “いずみちゃん”が俺に頼んだのなら、俺が自力で答えを見つけないと意味がない。

 他人に協力してもらうにしても、頼りにしすぎるとそれは約束を反故にしてるのと同じだ。


 もちろん、会いに行かないっていう行動もとれる。

 でも、そうできないほど好奇心が勝ってしまった。

 好奇心はいつだって行動の原動力になってくれる。


「分かりました。

 時間がかかると思うけど、じっくり考えて見つけたいと思います」

「それが一番だよ。

 答えは教えれないけど、私も少しは協力するよ」

「ヒントをくれるってことですか」

「あまり期待はしないで。私がいるのはそのためじゃないから」


 そう言われても、多分俺は期待してしまうと思う。

 ヒントがどんな些細な事でも、それが“いずみちゃん”に繋がるのなら。


 アイスコーヒーを飲む。甘いパフェと交互に飲むといいバランスになる。

 それにしても、全然パフェが減らない。


 多すぎだろ、これ。


 段々と状況が飲めてきたからか、だいぶ冷静になれた。


「そういえば、あなた名前なんて言うんですか?

 そっちだけ名前知ってるのはフェアじゃない気がする」

「あぁ、まだ名乗ってなかったけ。

 私は井ノ原(いのはら)久美子(くみこ)。井戸の井と野原の原に久しく美しい子の久美子。

 久美子さんって呼んで」

「井ノ原久美子さんですね……。多分覚えました」

「絶対覚えて!今後もよろしくする仲だから」


 何か含みのある言い方だ。

 いずれにしても、久美子さんとはほどほどの関係がいいかもしれない。


「そうですね。

 相談したいときに訪ねてくるかもしれません」

「そうそう。

 本当に困った事でもちっちゃな悩みでも私聴くからさ」


 怪しい。怪しすぎる。

 俺のこと色々知ってる上に、美人がこういう事言ってくると、宗教勧誘にしか思えない。

 もしかしたら、これから変な壺買わされるかも。


「警察沙汰にはなりたくないな……」


 聞かれないようにボソッと呟いた。

 隠すようにパフェを一口。

 そろそろ飽きてきたのに、まだ半分近く残ってる。


 こうなったら……。


 俺は得体のしれない久美子さんの顔を、真剣に見て言った。


「調子乗りました…。

 久美子さんもどうぞ食べてください」

 


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