10年ぶりの再会?
「ここ、私がバイトしてる店なんだ」
女性に連れてこられたのは、駅前にある喫茶店。
ガーデニングがされたおしゃれな内装だ。
侑希は空気を読んだのかいつのまにか帰ってしまった。
これも夢で見た光景だ。
「おごるから、好きなの頼んでいいよ」
「じゃあ、アイスコーヒーとモリモリデラックススペシャルジャンボパフェで」
夢での俺はアイスコーヒーを頼んでいた気がする。
あの夢がもし予知夢ならば、コーヒーを頼むべきだ。
パフェの方は……単純に高かったからだ。
「えー、そのパフェ三千五百円もするじゃん。漫画七冊は買えるよ」
「好きなの頼んでいいって言ったの、そっちじゃないですか。
悪いけど、俺遠慮しないんで」
「そんなんだと、女の子から嫌われちゃうよー」
「本気出せばモテるんで大丈夫です。
で、あなた誰ですか?」
改めて目の前の相手を見る。
こんな美人、会っていたら絶対覚えてる。
「ひどいなー。最近手紙出したのに」
言葉が出なかった。
何か口に出すべきなのだろうが、声が出ない。
驚きと疑惑、ほんの少しの嬉しさが混じったような、そんな感情だった。
ここ最近、俺に手紙を出した人物は一人しかいない。
「もしかして……、“いずみちゃん”……?」
「ほんと鈍いね。今になって気づくなんて」
そう言って相手は笑った。
確かにこの笑顔はどこか見覚えがある。
今、目の前に“いずみちゃん”がいる。
幼い頃、結婚の約束をした女の子。
夢でも記憶の中でもなく、今この瞬間にいる。
しかし、まだ実感が湧かなかった。
これがまぎれもない現実なのは分かっているけど、脳が状況を理解していない。
いや、理解できていない。
急すぎる。何もかも。
初めは“いずみちゃん”と会っていることに奇妙な感覚がしたが、いくつかの矛盾する点に気づいた。
「って、違うでしょ。
仮に“いずみちゃん”だとしたら、矛盾しまくってる」
「例えば?」
「第一に俺と同じ高校なら、この時間帯で制服着てないのはおかしくないですか」
相手の女性の格好は肩が少し出る白いセーターにレディースのパンツ。
いつも目にしてるブレザーではない。
「あぁ、それね。
だって私大学生だし」
「はぁ?」
「本当だよ。弥生町にある立派な大学」
ますます意味が分からない。
高校生ではなく、大学生だと。
「そうですか。
じゃあ、どうやって手紙出したんですか?」
「私、高校は汐崎高校だったからね。そこらへんのコネ使えばできるよ」
「……。何で、手紙に今も同じ高校だと嘘を?」
「んー、特に理由はないかなぁ。その時の気分?」
頭がどうにかなっちゃいそうだ。
脳の処理全然追いついていない。
とりあえず再び口を開いた。
「そして第二に。
俺に会いに来てほしいんじゃなかったんですか。
何故、そっちから会いに来たんですか」
「へー、そういうこと書いたんだ、あの人」
「絶対、手紙の主あなたじゃないでしょ」
誤魔化す気もさらさらないようだ。
悪戯っ子みたいな笑みを浮かべた。
「ピンポーン。大正解。
察しの通り、私は“いずみちゃん”じゃないよ」
「あんまり、思春期の男子を揶揄わないほうがいいですよ」
「おっと、私に反抗期の矛先向けるのはごめんだよ」
イライラしたが、怒っては相手の思うツボだ。
俺はちょうど運ばれてきたパフェを一口食べた。
うん、めちゃくちゃ美味しい。
「現役大学生で高校は汐崎高校だったのは事実だよ。
こう見えて理工学部なんだ」
「つまり俺の天敵ってことですね」
「だから、矛先をしまって」
「理系を倒すために俺は文系の道選んだんで、それは少し厳しいです」
女性はハハッと軽快に笑った。
その様子を見ながら、俺はものすごい事に気づいてしまった。
「そういえば、何で“いずみちゃん”のことも手紙のことも知ってるんですか。
俺、話したのは侑希と琥珀くらいなのに」
まさかこの二人が漏らした……なんてことはないだろう。
二人とも口が固いし、知らない人に言ったりはしないはずだ。
「それは言えないかなー。でも、その二人からは聞いてないよ」
もう少し問い詰めようと思ったが、相手の目に強い意志を感じたので無駄だと悟った。
絶対に教えない、そんな強い意志だ。
「その様子だと、“いずみちゃん”が誰なのかも知ってそうですね。
現にあの人って言ってましたし」
ダメ元で言ってみた。
万が一の可能性もあるからだ。
しかし……。
「それも言えない。
“いずみちゃん”は『私を見つけて会いに来て』って絋汰君に伝えたんでしょ?
なら、絋汰君自力で探さないと意味がない」
やはり、無理だった。
期待はしてなかったから、あまり落ち込んでないけど。
この女性のいう通りだ。
“いずみちゃん”が俺に頼んだのなら、俺が自力で答えを見つけないと意味がない。
他人に協力してもらうにしても、頼りにしすぎるとそれは約束を反故にしてるのと同じだ。
もちろん、会いに行かないっていう行動もとれる。
でも、そうできないほど好奇心が勝ってしまった。
好奇心はいつだって行動の原動力になってくれる。
「分かりました。
時間がかかると思うけど、じっくり考えて見つけたいと思います」
「それが一番だよ。
答えは教えれないけど、私も少しは協力するよ」
「ヒントをくれるってことですか」
「あまり期待はしないで。私がいるのはそのためじゃないから」
そう言われても、多分俺は期待してしまうと思う。
ヒントがどんな些細な事でも、それが“いずみちゃん”に繋がるのなら。
アイスコーヒーを飲む。甘いパフェと交互に飲むといいバランスになる。
それにしても、全然パフェが減らない。
多すぎだろ、これ。
段々と状況が飲めてきたからか、だいぶ冷静になれた。
「そういえば、あなた名前なんて言うんですか?
そっちだけ名前知ってるのはフェアじゃない気がする」
「あぁ、まだ名乗ってなかったけ。
私は井ノ原久美子。井戸の井と野原の原に久しく美しい子の久美子。
久美子さんって呼んで」
「井ノ原久美子さんですね……。多分覚えました」
「絶対覚えて!今後もよろしくする仲だから」
何か含みのある言い方だ。
いずれにしても、久美子さんとはほどほどの関係がいいかもしれない。
「そうですね。
相談したいときに訪ねてくるかもしれません」
「そうそう。
本当に困った事でもちっちゃな悩みでも私聴くからさ」
怪しい。怪しすぎる。
俺のこと色々知ってる上に、美人がこういう事言ってくると、宗教勧誘にしか思えない。
もしかしたら、これから変な壺買わされるかも。
「警察沙汰にはなりたくないな……」
聞かれないようにボソッと呟いた。
隠すようにパフェを一口。
そろそろ飽きてきたのに、まだ半分近く残ってる。
こうなったら……。
俺は得体のしれない久美子さんの顔を、真剣に見て言った。
「調子乗りました…。
久美子さんもどうぞ食べてください」




