黄昏の出会い
五月八日
不思議な夢を見た。
知らない女性だ。
綺麗な茶髪はウェーブをかけていて、朗らかに笑っている。
美人だ、と俺は思った。
何だろう。
知らないはずなのに、どこかで会ったことがあるような気がする。
おしゃれな喫茶店だ。
俺はコーヒーを飲みながら、真剣な表情で相手と話している。
どんな話をしているのか分からない。
やがて女性は口を開いた。
よほど衝撃的な内容だったらしい。
俺は固まって動けていない。
何だこれはーーーーーー。
そこで目が覚めた。
今のは、今のは何だ。
「何だったんだ、今の夢」
部屋を見渡すが、そこにはいつもと同じ朝が広がっていた。
GW明けの学校は非常に憂鬱だ。
夢から現実へと強制的に引き戻す。
部活動がなく、休みを謳歌していた生徒にとってはたまったもんじゃないはずだ。
お土産として買ってきた本は好評だったらしく、琥珀は「タイムマシン作ってみたい!」なんてはしゃいでいた。
気に入ってくれたのは嬉しい。
それは俺に本選びのセンスがあるということだからだ。
やる気がないまま、授業と部活をやり過ごした。
もうすぐインターハイ予選も近いのに、やる気がないのはかなりヤバい。
どうにかして、ボルテージをあげていかないと。
「なぁ、今日駅近のマック行かね?」
下校中、侑希が誘ってきた。
断る理由もないので、すぐ返事をする。
「行こう。小腹空いてるし」
「ナイス。俺、ナゲットが無性に食べたくなったんだよな」
「食べすぎて太んなよ」
注意しつつも、俺も何を食べるか考える。
ここは無難にポテトか?
いや、シェイクもありだな。
でも、体重増えそうなんだよなぁ。
一人で真剣に悩んでいた。
そのせいで、俺は前から歩いてきた通行人にぶつかってしまい、反動で相手が倒れた。
「すみません、大丈夫ですか」
謝罪をしながら、転んだ女性に手を差し出した。
女性は「大丈夫」と手を取って立ち上がった。
「本当にすみません」
もう一度謝って、相手の女性の顔を見て、心臓が止まりそうになった。
ウェーブをかけた茶髪にくっきり二重まぶたの瞳。
俺はこの美人を知っている。
会ったこともないし、見たこともないけど知っている。
今朝、夢で出演したばかりだ。
女性の方は俺の顔を見て驚きの表情を浮かべた後、意味深に微笑んだ。
「どうしたんだ、絋汰」
「いや、ちょっとな」
適当に相槌を打つ。
そして、そのまま侑希と一緒に通り過ぎようとする。
「待って!」
右手首をつかまれた。
誰がつかんだかは瞬時に察した。
「なんですか」
動揺したせいか口調が少しキツくなってしまった。
女性は複雑な表情をしたが、やがて元の優しそうな笑みに戻した。
「お……、兎束絋汰君だよね?
少し話さない?」