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怠惰なソクラテスはラブコメをしない  作者: 大河内美雅
第1章5月 俺は恋愛をしない
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Don’t forget this day

 本屋の後、冴子さんに連れられて雑貨店に行ったり、ゲーセンで遊んだり、楽しく休日を満喫していた。


 ただ、GUなどのファッション店に寄ったときは話が別だ。

 冴子さんが服を試着する度に一言感想を言う、というオプションが付いてくるからだ。


「絋汰君、これどうですか」


 冴子さんが試着したのは、清楚なワンピース。

 必死にコメントを考える。


「いいんじゃないですか」

「もっと具体的に」

「めっちゃ似合ってますよ」

「はぁ……次のデートまでに語彙力上げといて下さいね」


 カーテンを閉めて、冴子さんは元の服装に着替えた。


 今まで気づかなかったけど、女子の中では身長が高い方じゃないんだろうか。


「冴子さんって、身長いくつですか」

「百六十ですよ」

「それって女子の中では高い方なんですか」

「普通だと思いますよ。絋汰君こそ、男子の中では高い方なんじゃ」

「俺も普通ですよ。身長百七十はゴロゴロいますから」


 正直、百八十は欲しかった。

 侑希が百七十五あるのが悔しい。

 毎回少し見上げるのが屈辱的だ。

 それに百八十って数字なんかかっこいい気がするし。


 結局、冴子さんはワンピースを買わなかった。

「絋汰君のせいですよー」と言っていたので、俺に非があるらしい。

 語彙力向上する本買えばよかった。


「次はどこへ行きますか?」

「ちょっと休憩したいです。足が疲れたので」

「じゃあ、休憩しますか。近くにスタバもありますし」


 店内に入ると、いい具合に人がちらほらといた。


 これならゆっくりできそうだ。


 俺と冴子さんは奥の方のテーブル席に腰を下ろした。


「冴子さん……、お金渡すんでカプチーノ買ってきて下さい……」

「本当甘えん坊ですね」

「そういう冴子さんはコーヒーみたいに苦いですね」


 自分では上手いこと言ったつもりだったが、冴子さんは無視して買いに行ってくれた。

 

 ドーナツの甘い香りが鼻孔を刺激する。

 途端に腹が空いてきた。

 つまんないこと言ってないで、ドーナツも頼めばよかった。


 ピロンとスマートフォンが着信を告げた。

 侑希からだ。『今からデートしようぜ』とのこと。

 華麗な既読スルーをかまして、買ったばかりの漫画を読むことにした。


 スタンドバトルが盛り上がっているところで、冴子さんが戻ってきた。


「絋汰君、はいこれ」

「ありがとう、冴子さん」


 カプチーノを受け取って、再び漫画に視線を落とす。

 すると、冴子さんに漫画を没収されてしまった。


「冴子さんも読みたかったんですか」

「違いますよ。何読んでるのか気になって」


 そう言って漫画の背表紙を見た。


「ジョジョですか。私、五部までは読みました」

「意外ですね。てっきり、少年系の漫画は読まないと思ってました」


 漫画を読んでいる冴子さんが上手く想像できない。

 それより、古典文学を読んでいる姿がイメージしやすい。

 『天守物語』とかそういった感じの。


「私の新たな一面を知れて嬉しいですか」

「そんな情報じゃ、俺は満足しませんよ」

「じゃあ、私のスリーサイズ聞きたいですか?」

「鼻血ぶーするのでやめて下さい」


 冴子さんの体をチラッと見る。


 何がとは言わないけど、大きくはないけど小さくもない。

 至って普通だ。

 ただ、スタイルのよさは服の上からでも十分に伝わってくる。


 自分がやましい事をしているのを自覚し、誤魔化すようにカプチーノを飲んだ。


「絋汰君って、今好きな人いますか?」


 唐突な恋愛の質問をされたせいで、カプチーノが喉の変なところに入ってしまった。

 ゴホゴホと勢いよく咳き込む。


 どうしたんだ、いきなり。


 心配してくれたのか、冴子さんが大丈夫ですかと、優しく背中をさすってくれた。

 お陰で少し落ち着いた。


「いませんよ。どうしてそんなことを」

「ちょっと気になっただけです。いるのかなぁと」

「いたら冴子さんと買い物なんかしませんよ。

 俺、そんなに不誠実に見えます?」

「50%くらいは」


 つまり、半分は不誠実ということになる。

 こっちは誠実120%でやってるのに、悲しい限りだ。


「じゃあ、彼女は欲しいんですか?」

「冴子さん、もしかして口説こうとしてる?」

「してませんよ。少し気になっただけです」

「欲しいけど欲しくないですね」

「どういうこと?」


 なんか構文みたいな答えになってしまった。

 俺は少し考えてから自分の考えを口にした。


「もし仮に俺に好きな人がいたとして、俺は多分友達や他人などの関係のまま過ごしていくと思う」

「つまり、仲を進展させないってことですか?」

「そうですね。今の心地よい関係を変えたくないんです。

 友達のまま他人のままでいて十分なら、恋人とかの関係に進展しなくてもいいんじゃないかってことです」


 一通り話してみたが、冴子さんはあまり納得していないようだ。

 視線をコーヒーに落としていた。


「それだと、好きな人が他の誰かの恋人になってしまいますよ。

 それでもいいんですか?」

「悲しいけど諦めると思います。

 成功するかどうか分からない告白より、今の関係性を壊さないようにしたいんです。

 壊れたものは同じようには復元できませんから」


 カプチーノを一口飲んで、俺は続けた。


「それにもし恋人ができても、いずれくる別れで傷つくくらいならいない方がいいと思う」


 親父がそうだった。

 最愛のお母さんを亡くして、しばらくの間哀しみのあまり抜け殻のようになっていた。

 幸せや希望が一気に絶望になったのだ。


 哀しみ、そして張り裂けるほど痛いくらいなら恋人は作らない方がいい。

 愛せば愛すほど別れるのが辛いだけだ。


「っていうのが詳しい理由です。あくまで俺の意見なんで」

「うん。絋汰君がめちゃくちゃこじれてるってことだけは分かりました」

「男子なんてみんなこじれっ子ですよ」


 思春期の男子ならわかるはず。

 アイデンティティを求めるゆえにこじれてしまうことを。

 現に中二病というものがこの世にはある。


「でも、人を好きになるってとっても素敵なんですよ、絋汰君」

「どう素敵なんですか」


 ちっちっちと生意気に人差し指を振りながら、冴子さんは言った。


「好きな人ができたその日から、世界が違って見えるんですね。

 それはとても素敵だと思います」


 今はいないが昔には好きな人がいた。


 “いずみちゃん”だ。


 “いずみちゃん”と遊んでたときの俺はそうだったのだろうか。

 あのときの俺はこの世界しかないと盲信し、無意識のうちに他の可能性を排除していた。

 変わらないことを強く望んでいた。

 それほどまでに“いずみちゃん”が見せてくれた世界は違って見えたんだろうか。


 それに、この話どこかで聞いたことがある。


「恋は老眼ってやつですね」

「盲目ですよ。絋汰君って本当に文系なんですか」

「俺はN100系なんで、ちょっと違いますね」

「全然面白くないですよ。フォローした方がいいですか?」

「今後もぜひよろしくお願いします」

「この人、うざいな〜」


 冴子さんがニコッと笑った。







 少しお茶をして、俺たちは駅に向かっていた。

 冴子さんいわく、「やりたいことは全てできたので、今日はこの辺で」とのこと。


「今日はありがとう。

 また学校で、絋汰君」

「うん、さよなら」


 改札口で別れて、俺は新習志野駅へ向かう電車に乗った。

 歩きすぎたせいか、足がとても疲れてしまった。


 電車の振動に揺られながら、ふと考える。


 なぜ、冴子さんはあんな話をしたのか。

 どこかで聴いたことがあると思ったら、昔同じようなことを“いずみちゃん”に言われたのだ。


 確か、出会ってまだそんな経ってないときだ。


「こーちゃん、好きな人いる?」

「いないよ。急にどうしたの?」

「好きな人がいると景色が違って見えるの!こーちゃんもそうなのかなぁって」


 今日、冴子さんが言ったこととほとんど同じだ。

 何か引っかかる。


 もしかして、冴子さんは“いずみちゃん”なのか。

 昔言ったことを言って、思い出させようとした?


 いや、まさかと俺は思う。

 そんな可能性は低いし、第一もしそうなら、手紙の『会いに来て、本当の私を』の意味が分からない。


 俺は疲れてるんだ。

 最近いろいろあったから。


 帰りに唐揚げだけ買って帰ろうと俺は思った。






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