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怠惰なソクラテスはラブコメをしない  作者: 大河内美雅
第1章5月 俺は恋愛をしない
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本選び

 海浜豊砂駅の南口に着くと、約束通り冴子さんが自販機の前で待っていた。


 自販機を睨んでるあたり、何を買うのか悩んでいるのだろう。


 こっそり近づいて声をかけることにした。


「俺は無難にお茶ですけどね」

「ひゃっ」


 冴子さんがびっくりして振り向いた拍子に、冴子さんのポシェットが顔に直撃した。


 なかなか良いスウィングだ。

 これなら、甲子園も夢じゃない。

 というか、普通に痛い。


「なんだ〜、紘汰君かぁ。

 なら、よかった」

「冴子さんは殴れてハッピーなんでしょうけど、俺は全然よくないです」


 この際、急に声をかけたことは黙っておこう。

 完全に俺が悪い。


「それよりお茶買いますか?

 私はもうレモンティー買ったので」

「今の暴力で、物欲が無くなったので大丈夫です」

「そこは普通、『冴子さんのお陰で喉が潤ったぜ!』って言うところですよ」

「そんな台詞、結婚詐欺師か侑希しか言いませんよ」


 結局、俺は喉が渇いていたので緑茶を購入した。

 そして、そのまま水分補給。


「……」


 改めて冴子さんの全身を見る。

 冴子さんの服装は(えり)が大きい白のブラウスに花柄の紺のロングスカート。

 その清楚な装いはかなり似合っている。


「絋汰君、私の服装について何か感想は?」

「すげー似合ってると思います。

 なんか、大学生みたいです」

「よかった。悩んだ甲斐がありました」


 急に相手が異性だということを意識してしまった。

 出かける前に琥珀に変なこと言われたせいかもしれない。

 100%そうだ。


「行きますか」


 俺と冴子さんは歩き始めた。

 気まずくなるのは嫌だったので、さりげなく歩調を合わせながら、さりげなく話しかけた。


「俺、この辺詳しくないんですけど、冴子さん来たことありますか?」

「あんまり。でっかいイオンがあるってことぐらいしか知りませんね」

「まぁ、流石に本屋の一つや二つ、あると思いますけど」

「本屋がないイオンってあるんでしょうか?」

「本屋がないイオンなんて、卵がないオムライスと一緒ですよ」

「それはただのライスです」


 今度、卵がないオムライス作ってみよう。

 5分で作れそうだ。







 GW(ゴールデンウィーク)ということもあってか、人混みがすごかった。

 家族連れや友人同士、恋人などそれぞれ休日を謳歌しているようだ。

 人混みはあまり得意じゃないので、少し憂鬱な気分になった。


「本屋は一階にあるそうです」


 スマートフォンのマップを見ながら歩いていき、はぐれることなく本屋にたどり着いた。

 本屋特有の紙のいい匂いがした。


 こりゃあ、一日中滞在できるぞ。


「俺は適当に欲しい本探してきます」

「では、私も」


 ここで一旦、それぞれ自由行動となり、俺は漫画コーナーへ向かった。

 すぐさまジョジョコーナーの棚を発見する。


「確か十五巻からだったよな……」


 ようやくヴァレンタイン大統領が動き出して、面白くなってきたところだ。

 まだ途中だけど、1番好きな五部を超えるかもしれない。


 俺は十五巻と十六巻を手に取った。


 漫画だけだと冴子に馬鹿にされそうな気がしたので、次は新刊コーナーに足を運んだ。

 本屋大賞にノミネートされた作品や、著名な作家の最新作が綺麗に積まれている。


 俺はその中の一冊に目が止まった。


 “血の天使 萱野美槻”


 前にニュースで新人賞を受賞したと話題になっていた小説だ。

 五歳児が次々と殺されるやつ。


 こういう本格ミステリーは好きなので、俺は試しに冒頭だけ読んでみることにした。


 物語は直子という女性が五歳となる娘が亡くなったことをきっかけに、行方不明になるところから始まる。

 その後、別の家庭の五歳児が隅田川で遺体として発見され、遺族と直子の夫、刑事、天使と呼ばれる謎の少女を中心に物語が展開していく。

 誰が殺した、なぜ殺したなどを探っていき、次々と明らかになる真実も魅力的だが、登場人物の心情表現がリアリティがあって感情移入しやすい。

 

 最初だけと思ったが、気づけばページをどんどんめくっていた。


「無銭読破は私が逮捕しますよ」


 急に声をかけられたので、びっくりして振り返るとすでに本を買った冴子さんが立っていた。

 俺はほっと一息ついた。


「なんだ、冴子さんか。心臓に悪いので驚かせないでください」

「人の振り見て我が振り直せですよ、絋汰君」

「やられたらやり返すの間違いでは?」


 俺は『血の天使』を買うことにして、漫画と一緒に持った。


 俺の金の一部が茅乃先輩のところにいくのは気に食わないが、まぁいいだろう。

 次会ったときにコーラでも(おご)ってもらおう。


「『血の天使』ですか。

 タイトルから人が死ぬっていうことだけはわかります」

「虐殺ですよ、虐殺。絶対、茅乃先輩ってドSでドMだ。

 じゃないと、こんなの執筆できない」


 そう言って、俺は今のが失言であることに気づいてしまった。

 慌てて誤魔化そうとするが、間に合わなかった。


「茅乃先輩って委員長ですよね。

 へ〜、なるほど。萱野美槻って委員長なんだ」

「今の嘘なんで忘れてください」

「嘘ってことは、絋汰君は委員長で変な妄想してたってことですか?」

「やっぱ、本当です。まごうことなき真実です」


 これ以上否定すると、冴子さんに兎束絋汰は変な妄想癖があると誤解されてしまう。

 その誤解が、うっかり誰かに漏れてしまったら大変だ。

 侑希以上の変態として軽蔑され、蚊未満の存在として生きていくことになる。


「くれぐれも茅乃先輩にはご内密に」

「了解です。2人だけの秘密ってことで」


 これで噂が広まるなんてことはないと思う。

 もし、広まったなら……。

 そのときは冴子さんに焼肉おごってもらおう。


「他言したら、焼肉おごってもらいますからね」

「私、寿司がいいです」

「こういうとき、焼肉派と寿司派でもめるんだよなぁ」


 俺はこのまま会計しようと思ったが、ふとある考えが脳裏をよぎった。


「冴子さんはどんな本プレゼントされたら嬉しいですか?」

「もしかして、私に貢ぐんですか?ありがとう」

「残念。妹にですよ」


 俺は基本、どこかへ出かけるときは、必ず琥珀にお土産を買って帰る。

 これは、琥珀が遊びに行くたびにキーホルダーなどをくれるため、そのお返しとして。


「さすが絋汰君。シスコンゴリラですね」

「だから、ゴリラではないです」

「そうですか……。

 紘汰君の妹さんは何か好きなものとかありますか?」


 琥珀の好きなもの、か。

 確か、最近科学系のバトルアニメにハマってた気がする。

 ひょっとして、これいいかも。


「最近、あいつ科学系バトルアニメにハマってるんですよ。

 科学関連の本ならいいかもしれない」

「科学ですか。そういえば、本屋内に科学コーナーがありましたよ」


 冴子がその場所へ案内してくれた。

 冴子さんの言う通り、本棚には科学に関する本が大量に並べられていた。


「これなら、あいつが喜ぶ本もありそうだな」


 ゆっくりと吟味して選んだ。

 適当に選べばそれですむのだが、そんな妥協は俺が許さない。


 俺は厳選に厳選を重ねた。


「ん?これは……」


 その本のタイトルは『眠れなくなるほど面白い。アニメの科学』というもの。

 少し読んでみたけど、面白かった。

 タイムマシンを実際に作るには?とかドッペルゲンガーの仕組みなど、俺でも読みたくなるテーマばかりだ。


「冴子さん、俺これにします」

「いいんじゃないですか。

 不眠症になるリスクありますよ」

「そのときは麻酔をぶち込むまでです」


 その本を加えて、レジへ会計しにいった。

 五千円分の図書カードで会計を済まして、俺と冴子さんは本屋を出た。


「さて、帰りますか」

「な訳ないでしょう」


 流れで帰ろうとしたら、冴子さんが服の袖を掴んできた。


 何だろう、この笑み。

 目が全然笑ってない。


 俺は大人しく従うことにした。


「夜はまだこれからですよ、絋汰君」

「その台詞って夕方に言うと、全く色気を感じませんね」


 面倒くさいから帰りたい訳じゃない。

 歩くのが疲れただけ。

 筋肉痛がなければ、余裕なんだけど。

 それに、俺ももう少し冴子さんと話したい。


「で、どこへ行きますか」

「どこでもです。

 ぶらりぶらりと気の向くままに」


 要するにノープランということだ。

 これは本当に帰るのが夜になるかもしれない。


 でも、全く嫌じゃなかった。


 

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