そうだ、本屋に行こう
五月五日
三日、四日と中々ハードな部活を終えて、迎えたこどもの日。
俺は爆睡していた。
今は午後一時半。
実に一日の半分を無駄にしたものだ。
でも、それと引き換えにしても、春の心地よい眠りは価値のあるものだった。
春眠、暁を覚えずとはの事かもしれない。
琥珀と自分の分のチャーハンを作って、脳死で口に運んでいった。
「お兄ちゃん、今日の夜ご飯は唐揚げがいい」
「そうか。じゃあ、帰りにスーパー寄って買ってくるよ」
「ん?今日、どこか出かけるの?」
「ちょっとな。もしかしたら、帰りが遅くなるかもしれない」
本を買いに行くだけだから、時間はかからないと思うが、冴子さんのことだ。
十中八九それだけでは終わらない気がする。
夕飯を外で取ることも視野に入れなければ。
「へー、相手は?」
「高校の友達だ」
「嘘だー。友達とどっか行く時はいつも、『侑希と行ってくるー』とか『蒼生とデートしてくる♪』とか友達の名前出すじゃん」
琥珀はこういう時、結構勘が鋭い。
よく人を見ているというか。
しかし、冴子さんは俺の友達に違いないので、別に嘘はついていない。
「嘘じゃない。友達と本屋で買い物だ」
「なら名前言ってみてよー。さんっ、はいっ!」
「ごちそうさまでした」
琥珀の掛け声を完全にスルーして、食器をシンクに入れた。
特にやましいことはないのだが、なんか冴子さんの名前を出すのは面倒なことになる気がする。
「ねー、お兄ちゃん。今日の相手、女性なんでしょ。
恥ずかしがんなくていいからさぁ」
「名前は出さないけど、まぁそうだよ。女性の友達と出かけるんだ」
「いっけないんだー、いっけないんだー。美桜さんにチクっちゃおっと」
「なんで美桜にチクるんだ」
俺が疑問を口にすると、琥珀は明からさまなため息をついた。
もしかして、美桜はそんなに俺とどこか遊びに行きたかったのだろうか。
絶対そうだ。
「まだまだ先は長いよ、美桜さん」
「そうかぁ?また、どっちも部活ない日に遊びに行けばいいだろ」
「……。お兄ちゃんは一回ラブコメを知った方がいいよ」
「俺は断然、ラブコメよりもミステリーだけどな」
よくわからない生き物だ。女子というのは。
二人分の食器を洗って、身支度を整えると、時刻は二時半になっていた。
「お兄ちゃん、そろそろ行くの?」
琥珀がわざわざ見送りに来てくれた。
こいつ新妻力高いな。
「あぁ、行ってくるよ」
「いちゃいちゃするのは構わないけど、たまには私とも遊んでほしいなぁ」
少しだけ拗ねているらしい。
顔がちょっとむくれている。
琥珀を蔑ろにしたつもりはないのだが。
反抗期?反抗期なら俺ではなく、父親にしてほしい。
多分、一週間はへこむな。
「ベリーアンダスタンド。いつかな」
少し機嫌を直した琥珀に「いってらっしゃい」と見送られて、待ち合わせ場所を目指した。