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怠惰なソクラテスはラブコメをしない  作者: 大河内美雅
第1章5月 俺は恋愛をしない
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結構マジな恋愛相談

 今日は弁当を作ってきたので、侑希を誘って中庭で食べることにした。

 春特有の暖かい日差しが気持ちいい。


 俺の生姜焼きを横取りした侑希に訊いてみた。


「なぁ侑希」

「はい、侑希です」

「小さい頃の約束って、破ってしまうのは駄目なのか?」

「何言ってんだ、お前」


 侑希は怪訝な表情を浮かべた。


「補足すると、幼稚園のときのだ」

「破れぬ誓いでも交わしてきたのか?」

「交わしてるなら、こんな事相談しないだろ」


 破れぬ誓いって、破ったら破った方が死ぬってやつだったはずだ。

 いや、そうじゃなくて。


「やっぱ、侑希も破ったら駄目って思うか?」

「難しいなぁ。具体的にどういう約束で、どういったシチュエーションなんだ?」


 もっともな疑問だ。

 意見を聞くにしても、全然情報が足りないか。


 でも、侑希に“いずみちゃん”の話をしたくない。

 絶対、からかってくる。

 上手にそこだけは隠さないと。


「あくまでこれは、俺の妹の同級生の話なんだけどな……」


 俺は侑希に、昔“いずみちゃん”とペニチュア畑で遊んだこと、別れるときにお互い結婚の約束をしたこと、そして今は別に“いずみちゃん”のことは好きではないことを、妹の同級生の体験談として話した。


 話を聞いた侑希は、なぜか羨望の眼差しを送ってきた。


「なんだ、そのお前の自慢話は」

「俺じゃない。妹の同級生の話だ」

「じゃあ、そういうことにしておく。

 なるほどな。それで約束を破るかの話に繋がるわけだ」

「そういうこと。で、侑希はどう思った」


 かなり難しい問題だと思う。

 これはその人物の倫理観が問われているのだ。

 そこで、自分の考えが実際どうなのかを、他者の意見を聞いて判断したい。

 そう考えたから、訊ねてみた。


 侑希は悩んでいたが、やがておもむろに口を開いた。


「俺個人の意見として言わせてもらうけど、小さい頃の約束なんて無理して守んなくていいと思う」

「というと」

「約束なんてTPOで気づかずに破いてしまうもんだろ。

 現に世の中にいる、永遠の愛を誓ったバカップルは半年程度で別れてるだろ。

 約束ってその時の気分で交わしてしまうほど、薄っぺらいものなんだよ。

 小さい頃の約束ならなおさらな。

 だから、そこまで気兼ねしなくていいと思うけど」


 意見を聞いておいてなんだが、侑希の考えはクズな大人の考えに近い気がする。

 要するに、約束は意味をなさないということだ。

 それは、人としてなんか駄目な気がする。


 顔に出ていたのだろう。

 侑希は慌てて訂正を入れてきた。


「勘違いしないでほしいけど、約束を故意に破っていいって言ってるんじゃないからな。

 どんな約束でも、守った方がいいと思う」

「わかった。要は時と場合によるってことだな」

「そういうこと」


 どうやら、堕ちるとこまでは堕ちてなかったらしい。

 少し安心した。


「よかった。一瞬お前のことクソ野郎だと思ったわ」

「みくびってもらっちゃ困るな、このパーフェクトボーイを」


 最後のキモい発言は完全にスルーして、俺は卵焼きを頬張った。


 結婚という明らかに重要そうなワードが入っているから、守らなければいけないと思ってしまった。

 でも、今の自分の気持ちを偽ってまで守る必要はないはずだ。

 とても申し訳ないけど。


 とにかく、“いずみちゃん”に会わないことには、何も始まらない。


 冷静になった今、自分の昔話をしたことや悩んでいたことが恥ずかしくなった。


 何を真剣に考えているんだ。

 少しキモいぞ、俺。いや、めちゃくちゃキモい。

 最高にナルシスト状態の侑希と同じくらいだぞ、これ。


「いや〜、嬉しいよ。絋汰ちゃんの初めての相手になれて」

「やめろ。その言い方やめろ。周囲の人に誤解される」

「えー、何〜?俺は絋汰の恋愛相談のこと言ってんだけど〜」

「さっきも言ったけど、妹の同級生の話だ。残念だけど俺じゃない」

「またまた〜。照れちゃって〜」


 やっぱり、こいつは本当にキモい。

 俺の童貞が侑希に奪われると考えるだけで、人生ゲームオーバー。

 それに加えてこのウザさ。

 女子はこれのどこがいいんだよ。


「侑希、今日って部活ある?」

「愚問だな。毎週火曜はないの知ってるくせに」

「いや、県予選近いから、あってもおかしくないと思ってさ」

「まぁ、しんちゃんならやりかねないけどな」

「しんちゃんって呼ぶな。仮にも顧問だろ」

「俺は愛称で呼んで仲良くなる男だ。ネーミングセンスも一流だからな」

「進藤先生をしんちゃんって呼ぶのがセンスあるなら、ミッキーマウスをクソネズミって呼ぶ方がセンスあるだろ」

「それ、ただの悪口だろ」


 別にミッキーマウスは嫌いじゃないが、確かに今のは悪口だった。

 心の中で謝っておく。


 すまん、クソネズミ。

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