結構マジな恋愛相談
今日は弁当を作ってきたので、侑希を誘って中庭で食べることにした。
春特有の暖かい日差しが気持ちいい。
俺の生姜焼きを横取りした侑希に訊いてみた。
「なぁ侑希」
「はい、侑希です」
「小さい頃の約束って、破ってしまうのは駄目なのか?」
「何言ってんだ、お前」
侑希は怪訝な表情を浮かべた。
「補足すると、幼稚園のときのだ」
「破れぬ誓いでも交わしてきたのか?」
「交わしてるなら、こんな事相談しないだろ」
破れぬ誓いって、破ったら破った方が死ぬってやつだったはずだ。
いや、そうじゃなくて。
「やっぱ、侑希も破ったら駄目って思うか?」
「難しいなぁ。具体的にどういう約束で、どういったシチュエーションなんだ?」
もっともな疑問だ。
意見を聞くにしても、全然情報が足りないか。
でも、侑希に“いずみちゃん”の話をしたくない。
絶対、からかってくる。
上手にそこだけは隠さないと。
「あくまでこれは、俺の妹の同級生の話なんだけどな……」
俺は侑希に、昔“いずみちゃん”とペニチュア畑で遊んだこと、別れるときにお互い結婚の約束をしたこと、そして今は別に“いずみちゃん”のことは好きではないことを、妹の同級生の体験談として話した。
話を聞いた侑希は、なぜか羨望の眼差しを送ってきた。
「なんだ、そのお前の自慢話は」
「俺じゃない。妹の同級生の話だ」
「じゃあ、そういうことにしておく。
なるほどな。それで約束を破るかの話に繋がるわけだ」
「そういうこと。で、侑希はどう思った」
かなり難しい問題だと思う。
これはその人物の倫理観が問われているのだ。
そこで、自分の考えが実際どうなのかを、他者の意見を聞いて判断したい。
そう考えたから、訊ねてみた。
侑希は悩んでいたが、やがておもむろに口を開いた。
「俺個人の意見として言わせてもらうけど、小さい頃の約束なんて無理して守んなくていいと思う」
「というと」
「約束なんてTPOで気づかずに破いてしまうもんだろ。
現に世の中にいる、永遠の愛を誓ったバカップルは半年程度で別れてるだろ。
約束ってその時の気分で交わしてしまうほど、薄っぺらいものなんだよ。
小さい頃の約束ならなおさらな。
だから、そこまで気兼ねしなくていいと思うけど」
意見を聞いておいてなんだが、侑希の考えはクズな大人の考えに近い気がする。
要するに、約束は意味をなさないということだ。
それは、人としてなんか駄目な気がする。
顔に出ていたのだろう。
侑希は慌てて訂正を入れてきた。
「勘違いしないでほしいけど、約束を故意に破っていいって言ってるんじゃないからな。
どんな約束でも、守った方がいいと思う」
「わかった。要は時と場合によるってことだな」
「そういうこと」
どうやら、堕ちるとこまでは堕ちてなかったらしい。
少し安心した。
「よかった。一瞬お前のことクソ野郎だと思ったわ」
「みくびってもらっちゃ困るな、このパーフェクトボーイを」
最後のキモい発言は完全にスルーして、俺は卵焼きを頬張った。
結婚という明らかに重要そうなワードが入っているから、守らなければいけないと思ってしまった。
でも、今の自分の気持ちを偽ってまで守る必要はないはずだ。
とても申し訳ないけど。
とにかく、“いずみちゃん”に会わないことには、何も始まらない。
冷静になった今、自分の昔話をしたことや悩んでいたことが恥ずかしくなった。
何を真剣に考えているんだ。
少しキモいぞ、俺。いや、めちゃくちゃキモい。
最高にナルシスト状態の侑希と同じくらいだぞ、これ。
「いや〜、嬉しいよ。絋汰ちゃんの初めての相手になれて」
「やめろ。その言い方やめろ。周囲の人に誤解される」
「えー、何〜?俺は絋汰の恋愛相談のこと言ってんだけど〜」
「さっきも言ったけど、妹の同級生の話だ。残念だけど俺じゃない」
「またまた〜。照れちゃって〜」
やっぱり、こいつは本当にキモい。
俺の童貞が侑希に奪われると考えるだけで、人生ゲームオーバー。
それに加えてこのウザさ。
女子はこれのどこがいいんだよ。
「侑希、今日って部活ある?」
「愚問だな。毎週火曜はないの知ってるくせに」
「いや、県予選近いから、あってもおかしくないと思ってさ」
「まぁ、しんちゃんならやりかねないけどな」
「しんちゃんって呼ぶな。仮にも顧問だろ」
「俺は愛称で呼んで仲良くなる男だ。ネーミングセンスも一流だからな」
「進藤先生をしんちゃんって呼ぶのがセンスあるなら、ミッキーマウスをクソネズミって呼ぶ方がセンスあるだろ」
「それ、ただの悪口だろ」
別にミッキーマウスは嫌いじゃないが、確かに今のは悪口だった。
心の中で謝っておく。
すまん、クソネズミ。




