プロローグ
プロローグ
大切な人を傷つけてしまった。
謝罪をしても、なお罪悪感が残ってしまう。
いや、そもそも謝罪をしたところで、それは無駄なことだ。
自分のした行動が帳消しになるわけでもない上、相手に失礼だとさえ感じる。
言葉ではなく行動で、傷つけてしまった人たちに誠意を示すべきだ。
絋汰は言った。一つの幸せは多くの不幸の上に成り立っていて、全員が幸せになることは不可能だ、と。
初めて聴いた時は酷い考えだなぁとしか思わなかったけど、今ならその本当の意味が分かる。
「新婦様。お時間です」
私を呼ぶ声がして、私は思考の海から戻った。
振り返ると、先ほどウェディングドレスを着させてくれたスタッフが笑顔で立っていた。
私は礼を言い、ブライズルームを退出した。
一人で歩くことに、少し胸がつまりそうになったが、ぐっと堪えて、笑顔を作る。
泣くのは別に、式が終了した後でいい。
今はとにかく、笑って絋汰のもとへと向かわなければならない。
そうやって、笑顔を作ろうとしているうちに、美しい装飾が施された扉の前へと来た。
扉の向こう側からは、結婚行進曲のメロディーが流れているのが、音漏れで分かる。
私はスタッフの顔を見た。スタッフは笑って目配せをした。
どうやら、扉を開けるという意味らしい。
心拍数が信じられないくらいに上昇する。
心臓が口から出そうだ。
どうして、こんなにドキドキしてしまうのか。
「では、行きますよ」
スタッフの声がしたかと思うと、扉が開かれた。輝かしい照明に目が眩む。
扉の向こうに側には、バージンロードが広がっている。
本来なら、父親と一緒に歩くのだが、私は一人で歩かなければならない。
ー絋汰。今、行くからねー
愛する人のもとへ、着実な一歩を踏み出した。