英雄の血
ここは人間領の辺境にある小さな村。
朝早くにも関わらず剣と剣を打ち合わせる甲高い音が響き渡っていた。
「おい、ニック!今日こそ俺がお前に勝つ!!」
「なーに言ってんだ、エン。お前じゃ無理だ」
兄弟のように育ってきた2人だが、
今年で18歳になる。2人は15歳の成人の儀から今まで毎日のように勝負している。ちなみに1000勝999引き分け。
「だー、ダメだ。」
「くそっ。あと少しなのに。」
2人は大の字になり息を切らしてお互いに恨みつらみを言い合っていた。
1000勝1000引き分け。2人にとって記念すべき日?だが村ではいつものように変わらぬ1日が流れるだろうと2人は心のどこかで思っていた。
「おーーい!エン!ニック!道場開く時間になるから雑巾掛けしろーー!!」
エンの父親は道場主であり、火剣流と旋風流の師範である。母親はエンが小さい頃に病気で亡くなってしまい男手1つで育てていた。ニックは赤子の時に道場前に手紙と共に捨てられていた、いわゆる捨て子というやつだった。エンとニックは毎朝、試合というなの喧嘩をした後、道場を手伝っているのである。
「クソ親父。雑用ばっかやらせやがって。もっと稽古時間増やせっての。」
「エン。文句言うなよ。これでも俺らは師事する立場だからな。」
雑巾がけを終わらすと2人は胴着の洗濯、ご飯を食べ道場にやってきた。
道場は小さいながら30人が素振りしても余裕があるくらいには広く入って正面には2本の剣が飾られていた。師範いわく、英雄の剣だそうだ。
「おいリック。俺いつかあの剣に選ばれたいな」
「ばーか、エンごときが選ばれるわけないだろ。あの剣は師範のずっと昔の祖先が見つけてきたんだが、誰一人鞘から抜けなかったらしいからなー。」
「親父が酒飲みながら話してたのを聞いたんだけどよ、あれ実はめっちゃ昔の英雄が使ってた「武器」らしいぜ!」
「ばーか、あれだろ1000年前の戦争の話だろ?
そんな昔のもんがこの時代まで残るわけないだろが。残ってて錆びつきすぎて誰も抜けないって間抜けな話なら信じるけどな??」
師範に言い付けられていた瞑想というなの口喧嘩をしながら2人は今日もいつものように平穏な日を過ごしていく 否 過ごしていけると思っていた。
【どがーーーーーーーーん】
突然の爆発音と共に村の警報が鳴った。
「おいリック!なんだ今の!」
「知るか!!とりあえず外出んぞ!」
と叫んでる2人の元にゴロゴロと転がってきた人物を見て2人の声が重なる。
「「師範!!!」」
「エンとリックか。早く逃げろ。少しでも時間を稼ぐ。」
血を吐きながらものすごい剣幕でまくし立てる師範に2人は返事もできず固まってしまった。
「キャハハ!おいおい逃げんなよ人間!さっきの反応見る限り知ってんだろ??この村にある英雄の血を出せ!」
昔から読んでいた英雄譚から飛び出てきた悪魔のような男が高笑いをしながら道場に入り込んできた。
「そんなもん知らん!!この村には何もない!出ていけ!!!」
師範は何とか体勢を整え剣を正眼に構える。
そのまま2人に向かってもう1度叫んだ
「エン!リック!早く逃げろ!」
2人はやっと動くようになった身体を何とか動かし外に出ようとするが、
「おい!エン!何してんだよ!」
エンは思うように足が動かず転んでしまう。それに気づいたリックも戻って肩を貸そうとするが、
「おいおい。まさかそいつらかぁ??情報じゃ1人って話だったがどっちかわからねえからなぁ。とりあえず両方ぶっ殺せばいいかなぁ??」
今まで浴びた事のない殺気を向けられリックもエンもまたしても動けなくなってしまう。その時
「お前の相手はわしだろ!!」
と切りかかった師範の剣は揺らめきながら奴の体を斜めに切り裂く。
《火剣流一の型 陽炎》
エンとリックはその太刀筋を見つめていた。決まった。とそう思っていた。
【がきんっ】
「キャハハ!!上位魔族には普通のなまくら武器なんて効かねえぞ??そんなのも知らねえのか田舎者は。キャハハハハ」
【どごんっ】音と共に師範が吹き飛んできた。
「親父いいいい!!」
「師範ん!!!」
2人は絶望した目の前の圧倒的暴力に。
土煙の中から血だらけの師範の姿が。右腕も変な方向に曲がっていて片目も閉じている。もう見えていないのかもしれない。
「2人ともすまない。他の村人はみんな避難済みだ。いろいろ言いたいことも伝えなきゃいけないこともあるんだけどな、とりあえずそこの2本の剣、エンは赤い剣を、リックは緑の剣を、それぞれ持っていけお前らならいつか使いこなせる。あとはこの手紙だ。母さんからエンへ、リックへの手紙も両親からある。お前らなら本当の意味で人類の光になれるよ。なんたって2人とも俺の自慢の弟子で自慢の息子だ。」
そう言って師範は折れた剣で奴に切りかかった。
エンとリックは一瞬放心しかけたが、唇をぎゅっと噛み剣を背負い外に出た。
後ろから剣戟の音が聞こえる中、2人は走った。
涙を流しながら悔しさを虚しさを恐怖を胸に。
そして村の裏門で待っていてくれた村人の馬車に乗り近くの1番大きな都市に逃げ延びるのだった。