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勇者ー暁の歌姫(ポエマー)ーの冒険譚

作者: ボカ

初投稿です。

今後も不定期ですが短編中心に書いていく予定です。

よろしくお願いいたします。

そこは、落ち着いた雰囲気に満ちた空間。

人為的に作られながらも、どこか自然を想起させる。

人々が集い、そして、去る。まさに「一期一会」···


「····い、····お。おい、タキオっ、いい加減に戻って来い!」


「ん?···ぁあ、クリムか~。」


呼び掛けと同時に、ビシッ!っと頭を叩かれて現実に戻る。


「なんだよ~。せっかく良いポエムが生まれそうだったのに!」


「···はぁ~。また、ポエムか。貴族の女じゃないんだからよ。んで、今日は、どんな内容なんだ?」


「あは~!気になる?なんだよ、クリムもポエム好き····ぐぼぁ」


クリムへ嬉しそうに輝く笑顔を向けた瞬間、クリムが僕を引き寄せ、敵の攻撃の盾にする。俗に言う肉壁だ···


「お、おま···。さすがに死ぬぞ!何てことしやがる!とぉりゃ!」


「···おっと!いやいや、フロアボスの部屋でポエムなんて作り始めるお前の方が悪いだろ!」


壁際まで吹き飛ばされた僕は、立ち上がるとすぐにクリムヘ剣撃を加えるが、クリムに攻撃は通らない。

攻撃対象が違うだろ!等と叫びながら僕の剣を避け続ける。ウザイ!僕のポエム作成時間を奪ったことは、万死に値する!


突きから、袈裟懸けに切り下げ、切り上げる。横に薙ぎ払い、縦に切り下ろす。強化された肉体が振るう剣からは、真空波が発出するも、クリムはその全てを見切り、最小限の動きで避けていく····。

その直後だった。


「グガァ····」


大きな断末魔と共に、ズズン!と地面が揺れる。


「···へ?」


「はい、お疲れ様。おっ、何かドロップしたね!」


断末魔の直前に僕が放った突きを横に躱したクリムは、僕の肩をポンポンと叩くと、現れた宝箱へ向かう。


「へ?え?何、どういうこと?」


「ぉお~!見ろよタキオ!これ。青の魔石だぜ!しかもこの大きさ!うひょ~、これ売ったら大金持ちだぜ!」


宝箱を開けたクリムが、なにやら、一抱えもありそうなキラキラと青く輝く石を持って小躍りしている···。


フロアボス自滅?


「うっしゃ!地上に戻るか!早く来いよ、タキオ。ギルド戻ったら大宴会だ!」


状況を理解できない僕を呼びながら、帰還の腕輪に魔力を通し始めるクリム。


いや、ちょっと待て、1人で1週間かけて歩きで地上へ戻るのは嫌だ!


「ちょ、展開早すぎ!待ってよ、クリム~」


僕が慌ててクリムの腕につかまると同時に、空間にノイズが走り、ちょっとした浮遊感の後に、地上に降り立つ。






「もぐもぐ··でもさ···もぐもぐもぐもぐ···置いて帰ろうとするのは···もぐもぐ···酷くない?」


「····タキオ様、食べるか喋るかどちらかになさって下さいね。それから、食事中に片肘立てるのもよろしくありません。いくら冒険者とはいえど、はしたないですよ?」


カウターに肩肘を着いて、骨付き肉にかじりつきながら、ボヤいている僕。


あれから、ギルドで帰還と青の魔石の売却手続きを終えた僕たち『暁の歌姫(ポエマー)』は、知り合いの冒険者やパトロンに声を掛け、行きつけのレストランを借りきっての宴会を始めた。


美味しい料理に旨い酒。

各々にパートナーを連れて参加している皆の談笑。

そして始まる男どもの筋肉自慢···。

和気藹々とした雰囲気に包まれる中、片隅のバーカウンターだけ、モヤモヤとした雰囲気を醸し出していた···。


「ごめんなさい。でもさ、マリエラさん。僕の気持ちもわかるでしょ?せっかく良い歌が出てきそうだったのに、現実に引き戻されて、戦うの楽しみにしてたフロアボスも自滅しちゃうなんてさ!がっかりも良いところだよ~」


「えぇ····。創作の邪魔をされたのに腹を立てるのはわかりますが···。···ボスは自滅ではなく、タキオ様の攻撃で倒れたのでは?」


バーカウンターの向こうで、グラスを磨きながら僕の愚痴を聞いてくれるのはバーメイドのマリエラさんだ。

長いプラチナブロンドの髪をアップにまとめ、光の加減で七色に煌めく瞳をお持ちの美人さん。

妖艶な笑顔で男性客を虜にするこの店のオーナーでもある。僕の予想では貴族の縁者だと思う···。


「え~!僕はあのアホ(クリム)しか攻撃してないからね?···しかも、全部避けやがるし!」


その時の事を思い出したのか、タキオは「やっぱりあそこで三段突きか?」などと言いながら、虚空に向かい、腕を付き出したりしている···


『ふぅ~。タキオ様も相変わらずね···。ご自身の強さを全く自覚されてないわ···。エミニエル·グラッサ』


タキオが腕を付き出す直前、マリエラはグラスを置くと、口の中で呪文を唱える。

『不可視の障壁』だ。

瞬時に半径3メートルほどの不可視のドーム型障壁が張られる。


『ぅぐ、き、厳しい。このままだと全ての魔力が持って行かれる!話題を変えないといけないわ!』


タキオには見えていないが、タキオが腕を振る度に、真空波が発生し、障壁にヒビが入る。その度にマリエラが修復を試みるも修復速度よりもタキオの攻撃が上回っている···。レストランの崩壊防止はマリエラの腕に掛かっていた。


「タ、タキオ様。本日の戦いの場ではどのような(ポエム)を思い描かれたのですか?」


苦し紛れに、タキオが一番興味を示す話題を振る。


「あっ、やっぱり気になります?凄く良い感じなんだよ!ダンジョン34階層のフロアボスの部屋に入った瞬間に降りてきたんだ!」


虚空に腕を振るっていたときの顰めっ面からは一転、キラキラとした笑顔でマリエラを見るタキオ。

一方、その笑顔を見たマリエラは、魔力の消費が止まりホッとしたのも束の間、これから始まる事を想像して、一瞬だけ、にこやかな笑顔に影がさす···


「未完成なんだけど、聞いてくれる?傑作の断片!いくよ!『一期一会』カモン!


緑溢れる牧場

そこに佇むは火の加護あるトカゲ

四方を囲むは煌く白石の壁

シンとして張りつめた気配破る人影

····」


リュートでポロロン···と始まり、愛について美辞麗句で語るのがポエム···。そう、この世界のポエムとはそのような物····目の前で繰り広げられるのはなんなのか···


足で四つ打ちのリズムを取り、ゥオ、イェなどと奇声を上げながら、3本指を立てた右手を振り上げて、早口で叫びだす····


「それを見て叫ぶは火トカゲ

ダンジョン潜り1週間 冒険者は気だるげ

早く地上に戻り風呂に入りたげ

やる気があるのは1人だけ

僕はさっさと終わらせて帰るだけ····」


····目の前で繰り広げられる()()を無心で見つめるマリエラ。

何度聞いても理解できない···そんな世界があることを教えてくれたタキオの(ポエム)···。


以前、この歌のポイントとして、リリックの韻、パンチラインの存在感、フローの美しさと教わった。

文字数や最後の文節の詠みをあわせ、美しいメロディーと言葉で聴く人を天に昇らせる···こちらの世界のポエムと同じはずだが···それに照らし合わせると、駄作だ···。

主題が明確ではなく、韻の踏みかたも甘い。というか、語尾しかあっていない。タキオ様が1週間のダンジョン生活に飽き飽きしていることしか伝わってこないのだ···。作成途中とのことなので、これから落ちがあるかもしれないが····。

もしくは、異世界の(ポエム)は価値観が違うのかもしれない。


「ok!歌っていて、続きが降りてきたんだ!最後までいくよ!


とどめを刺すは僕の運命(さだめ)

トカゲのメスは僕を崇め

多くのボスは葬られ

先に進む僕に幸あれ

そうさ僕らは

一度きりの出会いが運命(さだめ)

イエ、ウオ····」


····漸く終わったらしい。落ちは来なかった。


歌いきった満足感に浸るタキオに、そっと冷たいおしぼりを渡すマリエラ···。その口は、何かを絞り出そうと開いたり閉じたりしているが、言葉にはならないようだ。


「ふう、ありがとうマリエラさん。スッキリしたよ!いや~、色々考えながらダンジョン潜ってたんだけど、今回はフロアボスの部屋に入って、あの部屋の空気感を感じた瞬間に言葉が溢れてきたンだよ~」


おしぼりを広げ、上気した顔に当てて気持ち良さそうなタキオ。


「そうだ!せっかく完成したし、向こうで皆に聞いて貰おうかな!」


満面の笑顔で席を立とうとするタキオに、慌てて声を掛ける。


「····た、タキオ様。素晴らしい歌だとは思いますが、私以外の前では歌われない事をお勧めします···時代が追い付いていません····」





「····い、····お。おい、タキオ!戻ってきてくれ!今回は、ヤバイんだよ!お~い、タキオ!」


「いくぜ魔王 聞くぜ遺言 最後の光 タキオの気合い

······うん?なんだよクリム、せっかく良い(ポエム)が降りてきたのに····グハッ」


現実に戻ったタキオをオレンジ色の光線が襲う。


「いってぇな~。クリム!良い加減しろよ!」


タキオの繰り出す剣閃を際どく避けるクリム···そして、訪れる断末魔···


「あれ?魔王、自滅?」





それから幾年か先の事。とある大陸のとある町では、奇声を上げながら早口で歌い上げる勇者暁の歌姫(ポエマー)の物語が流行り、それは長い時間を掛けて、大陸中に広がっていったのだった。


fin







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