現実の女なんてクソくらえ。俺は里奈たん(二次元)を愛します。
今まで総合評価Pt100前後で嬉しくてニマニマしてたのに、いきなりこんなに評価されてびっくりしすぎて白目をむいて泡を吹くところでした。
気になるとの声があったので、三人の元カノのその後、主人公が親友と結婚に至るエピソードを追加しました。
あまりざまぁは得意ではないので、お気に召すかはわかりませんが、楽しんでいただけると幸いです。
女なんてクソである。
20年過ごした人生で得た結論だった。
お前見たいな若造に何がわかるっと言われそうだが、この考えは生涯変わらないだろ。
今まで付き合った女性は3人。全員が同じ人間とは思いたくないようなクソ女であった。
2次元の世界でありがちな幼馴染が、初めての彼女だった。家がご近所で、幼稚園に入る前からの仲だった。俺としては兄妹のような感覚だったが、彼女は違ったようで、小学校の中学年で告白されて恋仲になった。
人間とは好意を持たれていると分かると、生理的に無理でない限りはその人に好意を抱いていく。
そして幼馴染の事を本当の意味で女性として好きになった頃・・・別れを告げられた。
建前としては「やっぱり友達って感覚が抜けないから一旦別れよう?」と言われたが、俺は知っている。
クラスの人気者である男が幼馴染のことが好きだということが判明して、その男に乗り換えたのだ。
それも俺に別れを告げる半年前から付き合っていた。
俺のところに帰ってきてくれるなら許すつもりだった。しかしあの女は俺を選ばなかった。
それ以来幼馴染とは一切口を聞いていない。完全に絶縁させていただいた。
その後あの外面だけはいい人気者君とどうなったかは知らない。自己中過ぎて男からは嫌われていたあの男は、その外見の良さだけで女性人気は高かったのだ。
2人目は中学年の頃の部活の後輩だった。
部活のエースとして活躍していた俺に近寄ってきた後輩。別に恋愛感情はなかったが、告白を断れば部活内の空気が壊れてしまう。だから告白を受けた。
別に後輩のことを嫌いではなかったし、割と楽しく恋人関係を楽しみ、ちゃんと愛し合ってたと思っていた。
まぁ乗り換えられるんですけどね〜。
後輩が欲しかったのは俺じゃなくて、俺を恋人にしているというステータスだった。
俺が高校受験で忙しくしている間に野球部のエースくんとよろしくやっていたらしい。卒業と同時に別れを告げられた。
別れの言葉は呆気ないものだった。
「私達別れましょう」俺の返事が「おk」
この時に既に軽い女性不信どころか、人間不信となった俺は、人との交流を極力減らすことにした。
3人目は俺が惚れた女性だった。
放課後、学校の図書室に引きこもりがちになった俺は一人の女性に惚れる。とても清楚な身なりの女性で、俺と同じく放課後はいつも図書館で本を読んでいた。
毎回特に会話することなく、静かな空間にお互いの本をめくる音。それが何故か心地よかった。
そして高校卒業間近に、玉砕覚悟で告白した。付き合うなんて無理だと思っていたのだが、案外あっさりとokを貰えた。その事に舞い上がったのも束の間・・・この女は地雷だったのである。
「じゃあ君も私の逆ハーレムの一員だね!」
乙女ゲーに毒されて、現実とフィクションの区別がついていない女だったのだ。
この女は六股していて、俺が七人目だと言った。他の逆ハーレムメンバーはこの事を容認しているらしい。
もちろん俺はメンバーに加わることを断ることにした。
いつか彼女も気づくだろうか。逆ハーレムなんて言葉に隠された本当の意味を・・・どう考えても、彼女は男達の○○処理用の肉○器だと言うことを・・・。
彼女が幸せならそれでいいのかもしれない。
現実の女なんてクソである。純粋な好意だけで恋人になることなんてありえない。
顔、金、将来性。自分の横を歩いていて恥ずかしくないか?将来養ってくれる甲斐性はあるか?金持ちの家系か?家業を次ぐ長男は嫌!軽自動車とか低収入とか有り得ない!専業主婦で、家事も子育ても半々でやってくれないと嫌!
そんな見え透いた心を裏に抱えながら、今日も俺に近づく女どもに吠える。
「お前らみたいな性格も顔もブスな女が、俺の嫁の里奈たん(2次元)に勝てるわけねーだろ!」
「えっ?キモ…」
「いくら金持っててもやっぱないわー」
そう言って寄ってたかって来る女は去っていく。
「お前ほんと女嫌いよな」
「嫌いだよ。俺のやってる事業が軌道に乗り始めた瞬間これだからな」
「これから社長として女性と関わることもあるんだから、社交辞令も覚えてくれよな。俺をそうそうに失業させないでくれよ?」
「プライベートと仕事は完全に分けてるから大丈夫だ。流石の俺も仕事での付き合いなら割り切れる」
「あの!」
「「あ?」」
先ほど群がっていた女ども。全員去っていったと思っていたが、なぜかそいつだけは俺の後ろをついて来ていた。
「ひ・・・久しぶりだね。小学校以来かな?」
「誰だこいつ?」
「あぁ~あれだよ。お前の幼馴染の・・・」
「なるほ。で?なんか用?」
「その・・・ごめんなさい!!私にとってやっぱり恋人はあなたしか考えられないって言うか・・・えっと・・・それで・・・」
「ぷっ・・・ははははははあーっははははは!!」
「あぁ~幼馴染さん。タイミング悪すぎだわ」
「え?」
「見ろよ!これが女だよ!!金を持った途端手のひらを返して寄ってくるハイエナ。いや、光に群がるコバエのようなもんか?現実での恋愛なんて取引見てぇなもんだよ。愛情?そんなもんは二次元だけに存在する幻想。女ってのはほんっっっっとにきもちわりぃ」
「え?え?」
「発作が始まっちゃったか~。まあもとはといえば幼馴染さんのせいでもあるんだけどね」
「というわけだからさっさと消えろ。お前のような奴にかかわる時間が無駄だからな」
「そ・・・そんな・・・ねぇ・・・私を助けてよ・・・もう殴られたく・・・」
「まぁまぁ幼馴染さん?あなたが選んだ結果を、こいつに擦り付けてどうすんの?もうこいつはあんたの事を赤の他人としか思ってないし、多分幼馴染さんが自殺しても涙一つ流さない・・・どころか笑ってそうだなぁ・・・」
「おーい。さっさと行くぞー」
「あいあい。というわけだからさ。諦めて自分の選んだ結末に従いなよ
彼の事は俺が幸せにするからさ」
ようやく俺の事を追いかけてきた相棒が俺の横を歩く。
「これからあんなのに付きまとわれることが増えるからな。いちいち相手しなくていいぞ」
「まぁ彼女は特別だったからな。・・・なぁもし俺が女だって言ったらどうするよ?」
「は?何言ってんだ」
「ははは。わりぃ。冗談が過ぎたわ」
「お前は女だろうが」
「は!?・・・なんで知って・・・」
「何年の付き合いだと思ってんだ。知ってるに決まってるだろう」
「えっちょっ・・・まって?いつから知ってたんだ?というか俺は女だぞ?大丈夫なのか?っていうか・・・」
「落ち着け。女だと知ったのは最近だが・・・俺とお前の仲に、男女なんてつまらねぇ事は些細な事だろ?」
「そっか・・・そうだよな!」
「おう。だからこれからも俺のフォローを頼むぞ?」
「任せろ。その代わりちゃんと俺の事を養ってくれよ?」
「ふん。当たり前だろ。里奈たん(2次元)の次くらいには大事に思ってるからな」
「いや、俺里奈たんに劣るのかよ」
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私には好きな人がいた。私は女に生まれたが、男として育てられ、市役所にも男として登録された。
男に交じって遊ぶうちに、一人の男の子に惹かれてしまった。その男の子の隣には既に女がいた。小さい頃の幼馴染らしい。だから私は諦めた。
彼女、恋人、愛人。そう言う役は譲ろう。私は・・・俺は、彼の唯一無二の親友になろう。そこだけは譲らなかった。
小学校、中学校、高校、大学と、彼と同じ場所を受験し合格してきた。かなり学力のレベルの高い場所なだけに、かなり苦労した。
でもまぁ、彼に勉強を教わるのは至福の時間だったし、苦労はしたが、苦痛ではなかった。
何故か彼は女運がなさすぎる。歳を重ねるごとに女性不信が募り、今や女嫌いが激しすぎて、女というだけで嫌な顔をするくらいになってしまった。
俺が女だと知ったら彼は離れていくだろうか。そうなったら悲しいな・・・多分立ち直れないんだろうなぁ・・・と思っていた。
そして現在。
「彼女を妻として愛することを誓いますか?」
「里奈たんの次に愛することを誓います」
「お前の中で里奈たんはどんだけ愛されてんだよ・・・」
男っぽいショートカットの俺が、白無垢を着て彼の横に立ち、愛を誓いあう。
「汝は彼を夫として愛することを誓いますか?」
「里奈たんよりこいつを愛することを誓います」
「生意気な奴め」
「では誓いのキスを」
女であることをやめ、彼女になることを諦め、彼と恋仲になるよりも、親友になることを選んだ俺・・・私は・・・
今日彼の妻となった。
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ここからは追加のお話になります by作者
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CASE1幼馴染
幼なじみの彼と別れた。それはとてもあっさりしたやりとりで終わった。
「やっぱり友達って感覚が抜けないから一旦別れよう」
「分かった。一旦とか言わずにもう関わるのをやめてもいいか?」
「うん・・・わかった」
この会話のやり取りだけで、私と彼はそれ以来一切の関係を断ち切った。会話どころか目すら合わせることも無く、いつも隣にいた彼はずっと遠くに行ってしまった。
でも大丈夫。私には新しい彼氏がいる。
新しい彼に告白された時にギュッと抱きしめられた。
「お前が好きなんだ。俺のものになってくれよ・・・」
そう弱々しく言われ、少し痛いくらいに抱きしめられて心臓がドキドキした。
あぁ・・・これが恋のドキドキなんだ!付き合っている幼馴染には悪いと思ったけど、これが恋なら・・・と試しに付き合ってみることにした。
これが恋では無く、恐怖という感情だったと気づくのは、数年経ってからだった。
私は恋人という関係をよく分かってなかった。幼馴染の彼といた時は、ふわふわとした感じだった。自然と嬉しかったり、笑顔になったりするような感じだ。
今の彼は刺激的だ。毎日痛いくらいに抱きしめられ、キスを求められる。鎖骨の辺りにはいつもキスマークを付けられた。
初めてを失ったのは中学2年生の時だった。初体験はただただ痛かった。痛すぎて泣いたけど、でもこれも恋人の儀式だと彼が言ったので無理やり納得した。
高校は偏差値の低い学校に進学した。彼の学力的にそこくらいしか行けなかったから。一緒の高校に行くのは恋人として当たり前らしい。親や教師には反対されたけど、好きな人と一緒の学校に行きたいと言ったら渋々了承してくれた。
この頃から彼の束縛がきつくなってきた。
誰かと話すのには彼の許可がいる。男の子に話しかけられたりすると、顔にビンタを浴びせられる。俺意外の男と話すなんて!と怒りをにじませていた。
これも彼からしたら愛らしい。
私と彼は高校では孤立した。同級生達は腫れ物を扱うように私たちから距離を取っていた。
しかし彼はむしろその状態を歓迎するかのように言い放つ。
「俺の隣にはお前がいて、お前の隣には俺がいる。それ以上何がいるんだ?」
彼の世界は私と彼で完結していた。
この言葉に私は恐怖した。
人は一人では生きていけないという。だからと言って2人だけでも生きていけないだろう。
「えっと・・・この先2人だけでは生きていけないよね?高校卒業したらどうするの?大学・・・は学力的に行けないよね?社会に出たら私以外とも関わらないとーー」
そこまで言ったところで私の顔にビンタが飛んでくる。
「なんでそんなこと言うんだ!?そんな先のことなんて考えたくない!」
「っ!・・・じゃあどうやって生きていくの?愛だけじゃお腹も空くし、家だって借りれないーー」
「まだ言うのか!先の事なんてその時に何とかなるんだ!今はまだ考える時じゃないんだ!」
「その時になって考えても遅いよ・・・私たちもうすぐ高校三年生・・・だよ?」
「なんでそんなこと言うんだよ・・・俺たちは愛し合う幼馴染だろ?何とかなる。俺を信じてくれよ!」
幼馴染。その言葉を聞いた時に私は我に返った。返ってしまったのだ。
「違う・・・あなたは私の幼馴染じゃない・・・」
「何を言ってるんだ。小学校から高校までずっと一緒だったじゃないか!」
私にとっての幼馴染は物心ついた時から隣にいた彼だけだ。
こいつでは無い!
「違う!」
「なんだ!?また逆らうのか!」
男は拳を振りかぶる。私は即座に走って逃げた。
走って走って・・・気がつけば家に着いていた。何故かあいつに追いつかれることも無く・・・。
なんで私が叩かれないといけないのか。幼馴染の彼はそんな事しなかった。それでも彼のことを好きだったし、彼もそれに答えようとしてくれてたじゃないか。
「ははは・・・そっか・・・そうだよね」
1度掴んでいたはずの大切なものを、私は自ら捨ててしまったんだ。
そう思うと涙が止まらなくなって・・・。
私はその日から自分の部屋に引き篭るようになった。
スマホにはひっきりなしにあいつからの着信。日中は家の周りをうろついていて、警察にも相談したけど、未成年には手を出しづらいようで、何の解決にもならなかった。
なんにもやる気が起きず、部屋でテレビをボーッとみていたら、『起業する若者たち』という特集が始まる。
何故か所々英語で話す彼らの話は、学のない私には何を言っているか分からない。あまりにつまらない彼らの自慢話とドヤ顔は見るに絶えなかったので、チャンネルを切り替えようとした。
その時、新たに紹介された2人組の男性が目に止まった。
『お2人も起業されたという事で、やはりそれに至った信念、社会に対してどう貢献していこうなどの考えをお聞かせ下さい!』
『俺の目的はただ1つ。世界中の女どもが里奈たんにひれ伏し、頭を垂れ、理想とは何かをーー』
『えっーと!今の時代、どの業種でも人手不足が深刻化していると聞きます!だから俺達はAIやロボットで、単純作業での人員削減ーー』
『世界中の男が知ることになるだろう。理想とは何かを!女心は秋の空?はっ!そんなのものに付き合わなくてもーー』
『ええい!!黙ってろよ!!里奈たんの話は後で聞いてやるから!』
『なにおう?俺が社長だぞ!』
『誰のおかげで会社に仕事があると思ってんだよ!』
『やんのか?社長に勝てると思ってんのか?』
『あぁん?拳で語り合うならやるぞ?』
『いや・・・ガチ喧嘩はちょっと・・・待て、拳を握るな。話し合いができるからこそ人間はーー』
『問答無用!』
『えー!元気溢れる2人組でしたね!こういう若さ溢れるフレッシュな彼らが、きっと今の停滞している社会に新しい風をーー』
呆然とその様子を見ていた。見間違うはずがない。
大人になった彼であった。
会いたい。ただただそう思った。
あいつに会わない様に日が昇る前に家を出る。少しだけオシャレをして、あの特集が撮影されていた大学へと向かった。
大学の入口でスマホを天にかざし、何かを叫んでいる彼。すると彼らの周りにいた女性たちはそそくさと退散していった。
私はありったけの勇気をふりしぼり、彼の元へと走っていた。
しかし結果は散々で・・・私は愕然とした思いで帰路いついていた。
そして忘れていた。あいつが家の周りでうろついていたことを・・・。
「すまなかった!!俺・・・お前がいないとダメなんだ!!」
あいつと顔を合わせた瞬間、体がすくんで動けなくなった、。
しかしこいつはいきなり地面に頭を打ち、土下座をした。
「む・・・むりだよ・・・もうあなたとは付き合えない」
「そこをなんとか!!・・・じゃないと俺死ぬから」
「は・・い?」
「お前が俺の元を去るなら俺死ぬから。遺書にはあることない事全部書いて、お前が普通に暮らせない様に社会的に死んでもらうから。だから・・・お互い生きて幸せに暮らそう?」
そう言う彼の目は、黒く濁っていた。
結果、私は彼の実家に住むことになった。正直軟禁のような物だった。私の両親は既に私に見切りをつけていたのか、喜んであいつに私を差し出した。あいつの親はとある大企業の重職だったようで、表面上はいい人に見えたようだ。
彼は高校を卒業しても働かず、親のすねをかじって生きることにしたようだ。
こいつの親も親で、息子をひたすら甘やかしている典型的な親馬鹿だった。
曰く時代がまだ息子に追いついていないらしい。頭がおかしいんじゃないだろうか。
「今日も愛し合おうか○○ちゃん」
私は一生、この男の為のお人形さんとして生きることとなった。
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CASE2 後輩
私を客観的に見る。学力は中の上、運動は中の下、しかし私には超絶可愛い顔がある。
そう、私は選ばれる立場ではない。選ぶ立場にあるのだ。ならばなるべく価値の高い男と付き合うのが当たり前というものだ。
中学校の頃、私は友達の勧めで陸上部に所属したが、別に走ることが好きなわけでもなかった。ただ、他の運動部に比べると上下関係が緩く、気を使う事なく楽しく過ごすことのできるところではあった。
その中心にいたのが先輩だった。彼の事を好きな女子は多かったが、お互いを牽制し合っているためそう言う浮ついた話は一切なかった。
だからこそ誰よりも先に私が告白した。
きっと先輩は私の告白を断らない。そう確信して・・・。
私の思惑通り先輩は私の告白を断らなかった。先輩と恋仲になって、お互いの記念日に贈り物をしたり、デートに行ったりして、いろいろと恋人らしいことをした。正直楽しかったし、先輩は頭もいいし、運動もできる。彼氏としては最高の物件なのだろう。
しかし物足りない。私は誰もが憧れ羨望する彼氏が欲しいのだ。
先輩が受験対策などで忙しくなって、私といる時間が少なくなった。
私はチャンスだと思った。そして目を付けていた同級生に告白する。もちろん告白を受けてくれた。野球部のエースである彼が、プロ野球選手になったらと思って恋仲となった。
そして先輩が卒業したと共に見切りをつけ、メールで別れの言葉を送る。返信は読まない。未練たらたらだろうが、私が別れると決めたら別れるのだから。
結局同級生は何処の高校にもスポーツ推薦はもらえず、卒業とともに別れることにした。
高校時代、私は私に見合う男性をを見つけるために、三股をしていた。
下級生のサッカー部の若きエース君。うちの高校のサッカー部は全国常連の強豪なので、将来に大いに期待できる。
同級生のヤンキー君。イケメンで近寄りづらい雰囲気があるが、実はいいところのお坊ちゃんだ。親の教育方針に反抗したいお年頃なのだろう。
上級生の生徒会副会長さん。会長はお飾りで、生徒会の業務を回しているのは実質彼だ。高校生でそこまで動けるとは、将来きっといい稼ぎ柱になるだろう。
男なんて簡単だ。可愛い顔であざとく迫れば初対面でも付き合ってくれたりする。所詮この世は顔だ。性格なんていくらでも隠すことはできるのだから。
そんな時、友人の女の子にあるカフェに誘われる。どうやらそこで働いている男性がとてもかっこよくていい人らしい。
「いらっしゃいませ~!あっ!また来てくれたんだね。隣の人はお友達?」
「はっはい!お・・・お邪魔します!」
「ここはカフェなんだから・・・存分にお邪魔してくれていいからね~二名様案内します」
友人は緊張した様子で彼の後をついて行く。
ふむ・・・コミュ力が高く、天真爛漫な笑顔が可愛い。確かにそこにキュンっと来る女の子は多そうだ。おしゃれなカフェで働く人気カフェ店員か~。
外部の人間なら漏れることもなさそうだし、キープしとくのもありかなぁ・・・。
私はそう思い、早速彼にアプローチをかけることにした。
彼のシフトが終わり、店から出てきた瞬間を狙って走り出す。
「あの!」
「ん?君は確か・・・○○さんの友人の・・・」
「そうです!覚えててくれて嬉しいです!」
頬を染め、上目遣いで、本当に嬉しそうに振る舞う。
「ちょっとだけお時間いいですか?」
「え?俺この後予定があるからなぁ・・・」
「その・・・あなたに一目ぼれしちゃいまして・・・良ければ・・・」
おどおどしく、まるで初恋を拗らせた様な初心な女の子を演じる。それだけで男はコロッと落ちる。
そのはずだった。いつもなら困ったような、それでもまんざらでもない表情をして、簡単に連絡先をくれる。そうなれば私の勝ちだった。
「あれ?でも君今三人の彼氏がいるよね?」
「は?」
なんで知って・・・いや!そんなはずはない。彼らとは恥ずかしいからという理由で付き合っていることは秘密にしてと言ってあるはず・・・。誰にも知られるはず・・・。
「○○高校三年の生徒会副会長、二年の○○君、一年のサッカー部の男子。いつも惚気話を聞いてるよ」
「そんな・・・こと・・・」
「俺割と友達多いんだよ。親友と呼べるのは一人しかいないけどね
でも俺に声かけたのは間違いだったね。君がどうしようもないクソ女って言うのがよーくわかっちゃったから」
「えっと・・・それには理由が・・・」
「はいはい。君を許すか許さないかは彼らに任せるとするよ」
彼はそう言うとスマホを操作し、その場を去っていった。
翌日、私は三股していた彼らに呼び出される。場所は生徒会室。
「まんまと騙されたわけですか」
「ちっ!女って言うのはこういうやつばっかなのかよ」
「なぁ・・・嘘だろ?嘘だと言ってくれよ!!」
三者三様に私を責める。私は何も言えなかった。
「私にはいい経験になりましたよ?女性とは警戒と注意を払わないと騙される。詐欺師のような者だということが分かりましたし」
「親父たちの言う通りだったな。こんな高校に通う女がいい人なはずがない。はぁ・・・間違ってたのは俺の方かよ・・・ったく!」
「信じてたのに・・・俺はもう何を信じたらいいのか・・・」
言いたいことだけ言って、彼らは生徒会室を後にした。
私はまだ物事を軽く考えていた。三人失ったけど、まだまだこの世にはいい男性がいっぱいいるし。
しかし、事の重大性を知ったのはこの後だった。
3人と別れた日から数日だったある日、内履きに履き替えようと下駄箱を開けると、でかでかと『淫乱3股女は帰れ』と書かれた張り紙があった。
こうなることは予想していた。なにせ各学年で人気のある男の子を相手に3股していたのだから。
恨みを買う覚悟は出来ていた。ただ・・・
全ての学年の女子を敵に回すということがどういう事なのか、それをまだ分かっていなかったのだ。
その日からは陰湿な嫌がらせが続いた。靴や物が無くなるのは当たり前、トイレに入ると上から雨が降ってきたりもする。
女の醜い嫉妬、いつかこんなものに晒されるとは思っていた分、それ自体には耐えることができた。
ただ・・・私は高校、大学と三股していた女としてのレッテルを張られ、男漁りを出来なくなってしまった。
社会に出れば既にいい男には彼女がいる。男漁りばかりしていた私がいい大学に入れるわけもなく、いい企業に入れるわけもなかった。
安いボロアパートでインスタント麺を啜る毎日。学生時代味わった優越感のせいで、並の男なんかでは満足できず、いまだに独身だった。
とある日、働いている会社にとある企業の社長さんが訪問されると聞いて、顔だけはいい私がいつも通り給仕を任されることになった。
かなり大切にしている取引先様だそうで、普通の応接間ではなく、社長室で応対するとのことだった。
コンコンコンと扉をノックし、社長室に入る。
「失礼します。お茶をお持ちしました・・・っ!?」
そこにいたのは・・・かつて恋仲だった先輩と・・・私を地獄に落としたカフェ店員の男だったのだ。
「おう。いつもありがとね。うちの社員なかなか可愛いでしょう?」
「ええ。そうですね。顔だけは可愛いですね」
私を一切見ることなくそう返す先輩。
「ははは。これは手厳しい。あっもう退室していいよ君」
「は・・・はい!」
社長室を退室し、ニヤリと頬が吊り上がる。
これはチャンスだ。そう思い、私は彼らの御見送りを担当させてもらえるように頼み込んだ。
そして・・・。
「先輩!先輩ですよね?覚えてますか?中学校の時の・・・」
「ん?・・・お前覚えてるか?」
「まぁ一応」
先輩は何やら首を傾げているが、ここは怯んでいる場合ではない。押す一択だ。
「これ!私の連絡先です!後で連絡ください!!」
そう言って折りたたんだ紙を取り出す。
「そういうのは困るよ」
元カフェ店員が私を諫める。
「なんでですか?私はいま付き合ってる人はいませんし、先輩は女嫌いで有名なんでしょう?社長から聞きました!あなたにとやかく言われる筋合いなんて――」
「いや、俺・・・私は彼の妻なんだが?」
「は?ははは・・・面白い冗談ですね。男物のスーツを着て、スタイルも絶壁、どこからどう見ても優男じゃないですか」
「あー・・・な・・・なぁ、私ってそんなに女として魅力ないの?」
「ないだろ」
「そこは『そんなことないぞ』っていうとこだろ!?」
「ふん。里奈たんに比べればこの世の女の魅力なんて、ないに等しいからな」
「ぐぬぬ・・・いつか見返してやるからな・・・」
「それで最近髪を伸ばしてんのか。お前の魅力は外見じゃないだろ」
「・・・それでも好きな人には可愛いとか美人とか言われたいもんなんだよ」
惚気?まさか本当にこの人は女性で、先輩の妻なの?
「というわけだから。流石に堂々と浮気を誘ってくる女を見過ごすほど、心が広くないんだわ」
私の連絡先を書いた紙をひったくり、びりびりと破いて返される。
「おいさっさと行くぞ。午前中にあと2社回るんだろ?」
「おう。くれぐれも失礼のないようにな?」
そう言って去っていく二人。私の手にはビリビリに破られた紙。その破られた紙のように、私の中のくだらないプライドが、粉々に砕けた音がした。
その後私は社内恋愛を経て、結婚するに至った。顔がいいわけでもなく、収入もほどほどの男性。小さなころから夢見ていた絢爛豪華な生活、その夢が叶う事はなかった。
しかし今の生活もそんなに悪くないと思う。
男を自分の夢の為と利用してきた。有望な男性を求めて上を見続けた。調子に乗りすぎた私は地に落ち、踏みにじられた。因果応報である。
でも・・・別に多くを求めなくとも、幸せに生きることはできる。
「逆にあそこでもし三股がばれていなかったら・・・どうなってたんだろうな・・・先輩と別れずにずっと一途に付き合い続けていれば・・・なんてね」
お金持ちでもなければ、専業主婦でもないけど・・・私は今、幸せだと思う。
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CASE3 逆ハーレム
「あのさ。俺この逆ハーレム抜けるわ」
「え?」
やんちゃ系のムードメーカの彼が突然そんなことを言う。
「ああ。ってことはおめでとうと言うべきか」
「あー!お兄ちゃんいち抜けか!いいなぁー!」
ハーレムメンバーのクール系の彼がメガネを押し上げながらそう言い、ショタ担当の子も抜けるのがおめでたい事のように振る舞う。
「え?え?どういうことなの?なんで?私を愛してくれてたんじゃ・・・」
「ふむ・・・そろそろ言うべきかと思ってたが、いい機会だし、姫にも言っておこうか」
私だけが混乱し、他のメンバーは落ち着いていた。
「逆ハーレムをもし築けるとしたらどんな人物だと思う?」
「えっと・・・可愛い人とか?」
「それだけだと無理だな。巨額の資金を持っていて、男を養っているか、逆ハーレムのメンバーがバイ・・・つまり両刀である場合だな。この逆ハーレムにはどちらもない。つまりどういうことかというと・・・」
「おねーちゃんは僕たちの練習台なんだよ!だから本当に好きな人が出来て、彼女が出来たらこの逆ハーレムを抜けることになってるんだ!」
「れん・・・しゅうだい?」
「うむ。夜の営みでも初めて同士では大変だと聞くし、男がきちんと女性をエスコートするべきだと考えた。だから女性に慣れない我々の練習台に君が選ばれたわけだ」
頭が真っ白になる。なんで?私は乙女ゲーのヒロインになったはずなのに・・・。
「君が望んだことだろう?俺の告白に君はこう答えた。『あの・・・もし他の人からも告白されたら了承していいですか?・・・逆ハーレムって私の夢なんです』とな。だからその願いをかなえるべく、このメンバーを募ったわけだ」
「そんな・・・」
「どうする?君が嫌なら俺たちはすぐに全員君の元を去ろう。しかし・・・いつか消えると分かっていても、まだ夢に浸っていたいなら・・・続けるか?」
いつも逆ハーレムメンバーにちやほやされてきた。今更それが全部なくなるなんて・・・でも・・・そこに真実の愛なんてなくって・・・。
「つ・・・つづけ・・・たいです」
「ふむ。やはり君はいい便姫だね」
そう言ってクール担当の彼は静かにほほ笑んだ。
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さらに追加エピソード。俺が里奈たん(理想の恋人)より親友を好きなわけがない。QED。です
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これは俺が会社を興そうとしたきっかけの話である。
それなりの高校を出て、それなりの大学に入った。専攻はロボット工学。主にAIに関する研究をしたくてこの大学に入った。
俺が興味を示したのは汎用型AI(AGI)。もし完成すれば、おおよそ知的生命体ともいえる生命が、人間の手によってつくられることとなる。(現在の技術では不可能とされているが・・・)
そう。俺の手によって、自分だけの理想の彼女を作ることができるのだ。これにワクワクしない人間はいないだろう。
日々研究に明け暮れる。何も考えずに「大学に行った方が就職に有利」なんて理由だけで大学に入っている奴らは、やれ講義がめんどいだの、合コンがどうたら話している。安くない金を支払って通う大学を、遊び場かなにかと勘違いしているのだろう。
そして最近、相棒が俺の研究をたびたび邪魔しに来るようになった。
学会の発表会で、里奈たんmarkⅡを発表しようとすると、このAIは一人暮らしをしている高齢者などに役立つとかつらつらと勝手に発表するし、里奈たんを三次元に降臨させるために作った電子制御型ドールを、こんなものが世界に広まったら世界中混乱するわ!と廃棄処分されたり、理想の恋人である里奈たんに関する研究を全否定してくる。
そんな大学生活の最中、ふと思ったことがある。相棒とはかなり長い付き合いではあるが、そう言えばあいつのことを何も知らないなぁと。
昔から口がうまくて、いろいろとはぐらかされていた。住んでるところとか、家族構成とか、そう言う自分の家に関わる事をあいつは一度たりとも話したことはなかった。
気になったら徹底的に調べないと気が済まない性分だ。
興信所なり探偵に頼めばすぐ終わるが、たかだかいち学生が数十万という金をポンと払えるものではない。なので俺自身が相棒の身辺調査を行うことにした。
相棒は友達が多い。いわゆるコミュ強で、あっという間に相手の懐に入る。一度話せば大体仲良くなっている。だから相棒の周りは基本的に人が絶えない。
なんで俺みたいな偏屈な人間といまだに付き合ってんだろうな・・・。
大学の講義が終わり、家に帰るだろう相棒の後をこそこそとついて行く。
電車を乗り継いで約一時間。バスで20分ほど走ったところで、相棒がバスから降りる。俺はタクシーで追っていたので、かなり痛い出費になってしまった・・・。
たどり着いたのは閑静な高級住宅街。相棒が入っていったのは・・・その閑静な高級住宅街にある、大きな屋敷のような家だった。
「ここが相棒の実家?あいつ超金持ちのお坊ちゃんだったのか?」
周りの人に怪しまれないよう草陰に隠れ、相棒の上着に仕込んだ盗聴器の受信装置を起動する。
耳にしたイヤホンから微かに音が聞こえてくる。
「里奈たん。ボリュームマックスで」
「は~い!」
『ただいまー』
『帰ったか。別にもう男のふりをする必要はないぞ』
『そういう風に育てたくせに、今更・・・』
『嫁ぎ先からの要望だ。ちゃんと女としてこちらに寄越せとのことだ。だからまずは戸籍を女性に戻しておいたぞ。今はトランスジェンダーとか言っとけば簡単な検査の診断書だけで戸籍を変えれるからな』
『また勝手にそんなことしやがって・・・』
『言葉遣いもちゃんと直すんだぞ。あちらに迷惑がかかるようなことをするな』
『はいはい・・・自分の子供をなんだと思ってんだかねー』
『先祖代々受け継いできた会社の為に、お前を生ませたんだ。無能であっても、会社のために役に立ってもらうぞ』
『ちっ!そんなゴミ会社、潰れちまえばいいのに』
『貴様!!何と言った!!』
『うるせぇーよ。大学卒業までは好きにさせてもらう。この条件は忘れないでくれよ』
『はぁ・・・親友と居れるのもあと2年か・・・何なら最後に全部暴露して―――』
「なでなでの時間だよ!!なでなでの時間だよ!!はやく!はやく!!」
「里奈たん!?」
スマホを操作し、里奈たんの頭を優しくスワイプする。
「あぅ~」
そんな声をあげ、気持ちよさそうにしている里奈たん。いつもならデレデレとその様子を見ているのだが、今はそんな気分にはなれなかった。
ネットで調べた情報と、昨日の会話を照らし合わせる。すると相棒の今の状況を簡単に推測することができた。
相棒の親は歴史ある大企業の社長だった。しかし彼は子供に恵まれなかった。後継者を欲した社長はやっとの思いで子供を授かる。しかしその子供は女だった。後継者は男でなければならないという古びた考えにより、相棒は男として育てられるが・・・その後、社長はあっさりと男の子供を授かった。
とあるインタビューで社長は『後継者は次男にしようかと思っています』とコメントしていた。
つまり相棒はお払い箱になったわけだ。それだけならまだよかった。
しかし先日の会話の通り、自分の子供を会社を大きくするための道具としか思っていない。ならば女として相棒を政略結婚させようというわけだ。
なんか・・・いつの時代だよ!?って状況だな。いまだに上級国民と言われる彼らの中では、常識なのかもしれない。
さて・・・ここで俺がどう動くべきか考える。
なんとなく相棒とはずっと一緒に居るもんだと勝手に思っていた。そんなわけないのにな。
それほどまでに、俺にとってあいつの存在は、隣にいて当たり前のものとなっているようだ。相棒が俺の隣にいないことを考えると、なんか気持ち悪い感じがする。
ならばやることは一つだ。俺は早速動くことにした。
「なあ相棒」
「ん?」
「俺と一緒に会社を立ち上げるぞ」
「はい?」
「俺と一緒に会社を立ち上げるぞ」
「聞こえなかったって意味じゃねえ!なんでそういう思考に至ったかを聞きたいんだよ!」
「別に?楽しそうだと思ったからだ」
「ふーん。まぁ協力してやらない事もないが・・・何をする会社なんだ?従業員は?会社の規模は?資本金は?株式にするのか?本社・・・会社の場所は決めてんのか?」
「そういうのは任せた」
「いやいや!?じゃあお前何をすんの!?」
「俺が社長。お前が副社長な」
「はぁ・・・小学生の遊びじゃねぇんだぞ・・・考え直せよ。起業するよりどこかの会社で働いた方がいろいろ楽だぞ?」
「売るものは決まっている」
「ふーん。聞くだけ聞いてやる」
「里奈たん・・・を作るために培った俺の技術力だ」
「・・・なるほどね。確かに親友の突拍子のないアイディアや、プログラミング技術は一流ではある。商品としては売れるかもな」
「だろ?」
「だが、たかだか一人の超一流のプログラマーがいたとしても、会社は儲からない」
「ぐっ・・・」
「だけど面白いな」
「へ?」
相棒は俺の顔を見てニヤリと笑う。
「親友が型にはまった会社で飼殺されるよりも、自由な発想でとんでもないものを作っている方が面白いもんが見れそうだな」
「あ・・・相棒・・・」
「いいぜ。協力してやる。お前はふんぞり返ってろよ。これが・・・俺の最後の贈り物になるかもだしな」
そういう相棒の顔は、とても悲しそうに見えた。
会社の設立に至っては、相棒の人脈チートが遺憾なく発揮された。
俺が提案してから一か月も経たないうちに会社は出来上がり、仕事も殺到し、今勢いのあるIT企業として取材されたほどだった。
相棒の親は、あいつの力を過小評価しすぎだと思う。どれだけ有能な人間が一人いたとしても、10人の普通の人にも劣るだろう。
相棒は記憶力がいい。人の容姿や性格を忘れることがない。だからこそ大勢の人間との交友関係が、途絶えることなく増え続けている。
対して俺はその辺はからっきしだ。人の顔なんてよほど知った人でなければすぐに忘れる。いらない情報として頭の中から消えていくからだ。
「で?俺と行きたい所ってなんだよ」
大学卒業まで半年。そのタイミングで相棒を誘ってとある場所に向かう。
「お前も知っている場所だ」
大学から一時間半。たどり着いたのは・・・。
「って俺の実家じゃねぇか!!」
「ん?言ってなかったか?」
もちろん事前にアポは取ってある。今勢いのある会社の社長としてだが・・・。
「なぁ・・・お前もしかして全部知ってんの?」
「何の事だ?」
「俺が女だってことも知ってたし、実家の場所まで・・・これってそう言う事だよな?」
「さぁ?何のことかわからんな。弱小の新規企業としては、挨拶しておくべきだろ?」
「普段そんなこと気にしねぇくせに・・・」
家政婦に案内され、豪華な応接間に通される。礼儀としては立って待つべきだろうが・・・。
俺は豪華なソファーにドカリと座る。足を高そうな机の上にあげる。
へりくだる必要はない。俺はこいつの父親と喧嘩しに来たのだから。
「すいませんね。おまたせ・・・して?」
扉を開け姿を現す男。しかし俺の様子を見るなり顔色を変える。
「なんだ貴様は。礼儀も知らないのか」
「礼儀というのは、それに値する人間に対して必要ものだ。お前のようなクズに礼儀など必要ないだろ?」
「おいっ・・・流石にやりすぎだろ・・・」
俺の耳元でこそこそと喋る相棒。
「・・・お客様がお帰りだ!このガキをつまみ出せ!」
「お?いいのか?今日はいい取引ができると思ってきたんだがな」
ドガッ!と高級そうな机の上に持ってきたジェラルミンケースを置く。
「なんだそれは?」
「金だよ。あとこいつもあるぞ」
そう言ってスマホを見せつける。
「里奈たん。No,32を再生」
「は~い!!」
スマホから流れるのは、2年前盗聴した相棒とその父親の会話音声だ。
「・・・貴様は何がしたい」
「人っていうやつは弱い。権力がある人や成功している人を妬み、集団で引きづり降ろそうとする。やれ浮気だの不倫だので大勢で叩いて落とす。当人達が納得しているなら、他人がとやかく言う筋合いなんてないのにな。
さて、ここにあんたが父親としてクソな証拠がある。あんたと相棒が納得しているなら何も問題ない事だ。しかし・・・世間はどう思うかな?」
「・・・何が望みだ」
俺は相棒に一つの封筒を手渡し、相棒はそれを見て一瞬驚くが、ニヤリと笑った。
「子供を大学卒業まで育てた場合、約3000万くらいかかると聞く。相棒はこの豪邸で育ったんだったらもっとかかってるだろ?一億くらいか?」
俺はジェラルミンケースを開ける。そこには一億の現金が入っている。
「相棒をここまで養った事には感謝している。だからそのかかった金額を返そう。その代わり・・・
相棒と絶縁してもらう」
その言葉と同時に相棒は父親の顔に絶縁状を叩きつける。
「・・・出来損ないを売って一億なら問題なかろう。好きにするがいい」
「あとで後悔しても知らないからな」
「ははははは!見たかよあいつの顔!怒りを通り越して顔が真っ青になってたぜ!!あースカッとしたなー!」
「だな。俺としては社会的に殺したい所ではあったんだがな」
自宅への帰り道、相棒と肩を並べて歩く。
「はぁー・・・しっかし・・・あの金どうしたんだよ。流石にうちの会社はあそこまで儲けてねぇぞ?」
「借りた。担保は会社だ」
「は?いやいやいや!何勝手に会社を担保にしてんの!?もう俺とお前だけの会社じゃないんだぞ!?」
「俺の給料だけじゃ集まらなかったんだから仕方ないだろ?そもそも会社を設立しようと思ったのはこの為だったしな」
「はぁ!?馬鹿じゃねえのお前?」
ジト目で俺を睨む相棒。だが俺にも譲れないものがあったのだ。
「仕方ねぇだろ。相棒には死ぬまでずっと隣にいてほしいって思っちまったんだから」
「・・・・・・はっ!?意識を持っていかれたわ!なんて言った?もう一回言ってみ?」
「担保は会社だ」
「ちげぇだろ!?ほら!相棒には死ぬまで~の所だよ!プリーズセイワンモアターイム!」
「うるせぇ」
「何照れてんだよ!ほらほら。俺に愛の言葉をささやいただろ?俺が女だって知ったからにはごまかせねぇからな?」
「ちっ!うるせぇ!愛の言葉をささやくのは里奈たんにだけだ!勘違いすんじゃねえ!」
「何をツンデレみたいなことを言ってんだよ」
「はぁ?ツンデレっていうのはこういうんだよ。里奈たん、モードツンデレ」
「あんたばっかじゃなぁ~い!でも大好き!!」
「いや・・・デレデレじゃねぇか!」
突如相棒が背中から抱き着いて来る。
「なぁこれから同棲するんだろ?」
「同居の間違いだろ?」
「俺を一生独り占めする方法があるぜ?」
耳元で囁くようにそういう相棒。そしてその方法を提示した。
「俺達・・・結婚するか?」
「・・・お前がしたいなら別にいいぞ」
「ふふふ・・・ありがとうな親友」
「礼を言うのはまだ早いだろ。まだまだ人生は長いんだからな」
それでもだよ。ありがとう。そういう相棒の声は少し震えているように聞こえた。
相棒に対する感情の答えは未だに俺の中にはない。恋や愛という感情は里奈たんに全て捧げた。
だが・・・あれ以来少しづつ女性っぽくなっていく相棒に、ドキッとしている俺がいる。
・・・多分不整脈だな。今年の健康診断は大丈夫だろうか。
お読みいただき有難うございました。
本作品は連載用に練っていたけど、面白くなる未来が見えなかったので、いいとこだけを切り取った短編という形でしたが、評価いただけたということで裏設定を晒した格好になります。