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第三話

「おっじゃましまーす!!」


扉を蹴破り、ズカズカと無駄に豪華な癖に品の良い執務室に入ると首もとに剣を向けられる。


「……どういう了見でしょうか、怪物」

「何、お前らの主に用があるんだよ。灰妖精」


そのために、お前らは邪魔だ。


剣を向けてくる灰妖精――土妖精の劣化種の腹に拳を叩き込み気絶させて払いのけると氷の矢が飛んでくる。手の甲を当てて矢を破壊すると斜め下から雷妖精が逆手に持ったナイフを振り抜く。


ナイフを掌で掴み握り潰し、後ろに跳んで逃げようとする雷妖精――風妖精の劣化種の腹に蹴りを打ち込み真後ろの壁に叩きつける。


奥にいる氷妖精――水妖精の劣化種が再び氷の矢を放ってくる。


「《百鬼夜行・巻き蛇》」


仕方ないな、見せてやるよ。


影の中から呼び出した黒い蛇は俺の身体に巻き付くと飛来する氷の矢をその口で食らう。


再び矢を装填し始めたところで蛇の口から氷の矢が放たれ氷妖精の腹に突き刺さる。


「うっ……!」


踞る氷妖精の顎を蹴りあげて気絶させると奥の扉が開きメイド服を着た妖精たちが現れる。


「さて、これくらいで良いか?糞野郎」

「ああ、これくらいで構わない」


ちっ……相変わらず腹のたつ男だ。


品の良い椅子に座る『妖精使い』がメイド妖精たちを退かせるとニヤニヤと俺を見つめてくる。


「それが《百鬼夜行》……最恐にして最悪の『使徒』の一匹か」

「知っているか」

「ああ。国壊し、災禍、妖精の汚点、邪悪……おおよそ悪名高く、それでいて事実である最悪の使徒だからね、当然さ。……それで、僕に何かようかな」

「こいつを見てくれ」


影の中から引っ張り出した少女を『妖精使い』の前に置く。


『妖精使い』も目を見開いて驚いているな。流石にこれは見慣れてないか。


「これは珍しい。半妖精だね」

「半妖精……?何だそれは?」

「ああ、君は俗世との交流を大半絶っていたから分からないか」


……ムカつく言い方だが、事実だ。俺は生まれてから十数年、妖精も含め殆んど接する事はなかったからな。


「半妖精というのはごく稀に人間から生まれる妖精の力を持った人間の事だよ」

「……そんな力、人間の身体が持てる筈がない」


『妖精使い』の言葉を真っ向から否定する。


妖精は他の生物よりも遥かに上質かつ膨大な魔力を保有している。


だが、逆に言えばそれだけの魔力を精製し貯蔵できる肉体をしていると言うことにもなる。人間の脆弱な体では魔力に身体が喰われる。


「持つんだよね、それが。それが何か分かるかい?」

「……まさか、人間と妖精のハーフか」

「説明の手間が省けて助かるよ」


人間と妖精の体は殆んど変わらない。そのため、極めて低い確率だが人間との間に子が産まれる事がある。更にごく稀に人間の身体に妖精の魔力を持つ者や妖精の体に人間の魔力を持つ者が現れる事がある。


だが、そういった子は忌み子とされ七歳になる前に死ぬ。人間の体は妖精の魔力に耐えきれず、妖精の体は人間の魔力だと必要に足る魔力を得られずに。


この娘の年齢は十六からプラマイ一歳程度。死ぬ時期をとうに過ぎている。


「彼女の名前はアイリーゼ・フォン・シークェン。この国の伯爵トリスタン・フォン・シークェンの三女だ。聖妖精とのハーフで、人間の体なのに妖精の体の特性を得た稀少な半妖精だよ」

「ちっ……『妖精の弓』トリスタンの娘か」

「おや、珍しい。人間嫌いの君が彼の知っているのか?」

「……あいつの領地に住んでいた時期があって、あいつが俺を討伐しに来た際に殺しあっただけだ。だが、何故お前はこの小娘の名を知っている」


……おおよその検討はついてるがな。不愉快な話、この男が俺が学園の守護隊を壊滅させて来ても驚いた様子を見せてなかったし予想できる。


「それは、この学園の新入生兼奴隷としてトリスタン卿が僕に彼女を売ったからだよ。彼女の母親は高位の聖妖精でね、非常に素晴らしい母胎だったから喉から手が出るほどに欲しかったんだ」


屑野郎は笑顔でふざけた事を抜かし、


「本来なら雇ったゴロツキたちに徹底的に汚させて深い絶望と諦念を抱いたところで僕が救いの手を差し伸べる事で唯一の味方だと信じさせ、そのあとの授業で従順な奴隷にするつもりだったんだ。まあ、君が彼らを壊滅させたせいで予定より早くなってしまったよ。でも、この感じだとまだ汚してないようだね。馬車を襲わせるタイミングが早すぎたかな。ああ、安心して良いよ。汚れを知らないガキを従順にする手法を僕は持ってるから」


……『妖精使い』め。それがどれだけおぞましい事かを知らずによくもまあ、当たり前のように言える。


「……ゴミ屑が。俺をこの学園に呼んだのは俺を奴隷にするためか?」


「まさか。君のような生きとし生けるものにとって災厄そのもの。君を呼んだのは単に学園の負担を軽くするためだよ。この学園に来る未契約の妖精何て高位の妖精ばかりでさ、貢ぎ物の経費がかなりかかるんだ。その点、君はそこら辺の経費が無くて良いからね」


「ふん……邪悪が。お前の事だ、その高位の妖精たちだって手駒にして好き勝手遊んでも良いペットにしたいのだろう」

「まさか。そこは彼女らの自由意思を尊重するよ」

「……奪いかねないのがお前だ、金、権力、暴力、様々な手段で欲しい妖精を手に入れてきたお前だからな」

「それは褒め言葉として受け取ったおこう」


『妖精使い』の悪名は人拐いどもを尋問した際に嫌というほど聞かされたからな。特に、男の妖精は稀少だから俺を拐い、この男に高値で売り付けようとした連中もいたからな。


「それにしても……良いからだをしているよね。胸はそれなりにあって形も良いし、肌も白くてきめ細かくて艶も良い。美しい虹色の瞳はそそるものがあるし、トリスタン卿の話だと純情でウブな性格をした少女。うーん、これが女に堕ちたらどんな姿になるかな」


「……おい」


「あ、君も楽しみたい?良いよ、子供が一人産まれたらタダで貸してあげる。聖妖精は『土妖精』系統の妖精に次ぐ体の頑丈さだからね、巨体で有名な巨妖精との間に子を作らせた事もあるくらいだし、大半の手法に耐えれる筈だからどんな性癖でも子を作れる筈だよ。あ、その時に産ませた子供は僕が貰うよ。聖妖精と君との間に出来た子供なんだ、それはそれは素晴らしい母胎になる筈だ――」


「いい加減にしろ、外道」


少女の身体を精査するように触れる外道を大振りの蹴りで真後ろの壁に叩きつける。


よくもまあここまでクズ発言ができるものだ。人間を助ける何て不愉快極まりない行為を感情の赴くままにしてしまった程だ。


……汚すという行為がどれだけされた対象の心を傷つけるのか、それを理解した上で言っているのが質が悪い。更に、妖精たちをコレクション感覚で手に入れるやり方も気にくわない。


拷問、殺人と普通の人間に非難されても可笑しくないこの俺が言うのも何だが、こいつのあり方は俺以上に醜悪だ。


「お前は確か、高位の妖精たちに貢ぎ物をしていると言っていたな」

「ああ、そうだよ」


ちっ、わりと本気で蹴ったのに無傷かよ。何百という妖精を囲っているこいつの事だ、使える魔力源も膨大だろうし防御に使えば俺の蹴りを無傷で防ぐか。


陥没した壁から抜け出した『妖精使い』に質問し、肯定を得る。


「この娘に手を出すな。手を出したら……どうなるか分かっているよな」


俺の怒りに呼応し影が姿を変えていく。それを見た『妖精使い』は恐怖で少し顔を歪め、


「はは……流石に《百鬼夜行》と生きる死を相手にするのは難しいかな。わかった、彼女の管理は君に任せるよ。部屋も同じになるよう手配しておこう。あ、少しくらい味見しても」


「殺されたいのか?」


「わかったわかった。それじゃあ用事も済んだ事だし、彼女の寮の部屋まで案内をさせるよ」


『妖精使い』が手を叩くと扉の奥から狐の耳を持つ獣妖精が出てくる。


「彼らを案内させて。ああ、この娘は君が持ってあげてね」

「畏まりました」


『妖精使い』に深く礼をした獣妖精は小娘を持ち上げる。


「ついてきて下さい、アース様。いえ、ラース様とお呼びした方が良いでしょうか」

「どっちでも構わん。あんたの名前は?」

「ツバキです」


短く告げて獣妖精の後をついていく。


それにしても……人気がないな。外で俺を探している守護隊を除いて殆んどない。


「今は春休み中ですので人は殆んど出払ってますよ」


心を読んだか。


「はい」

「……そういえば、獣妖精の中には心を読める者もいたな」


そいつらは獣妖精の中でも一握りの妖精……王族以外は使えなかった筈だが……ま、そういうことなんだろう。


「何故あんなのに付き従っているんだ?」

「……昔、盗賊に襲われた際に彼に助けて貰いまして。その礼と感謝のために私は彼と契約を結びました」

「ふーん……」


まあ、それもあいつが仕組んだ事なんだろうけど、それは言わないでおくか。聞いてるだろうけど。


「それにしても……主人から聞いた情報と食い違ってますね。貴方なら、人間を確実に見放すと思っていました」

「あいつの好き勝手にされるのが気にくわない。それだけだ」

「……もし、主人と敵対したら、どうしますか」

「殺す。本気で魔法を使うな」


あんなつまらないものを使わないとあのを殺す事はできない。……不愉快な話だがな。


「……なるほど、そうですか。ここが部屋ですね」

「おお、ありが――へ?」


いやー、えっと、その……どゆこと?


寮と思わしき部屋を開けて奥の方を覗くと、


「……ふえっ!?」


太陽の光を浴びて煌めく銀髪を結わえている、着替え中の少女がいた。


「あー……後は頼みました」

「えっ?」


あ、察して逃げやがったなツバキ!?しかも、丁寧に俺に小娘を押し付けて!仕事をこなした上で俺に押し付けやがった!


「……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ふべしっ!?」


近くに置かれていた本棚が投げつけられ、咄嗟に小娘を床に下ろすと同時に顔に本棚が直撃する。


流石に……本棚は魔力の防御でも完全に衝撃を……逃がせねぇよ……。

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