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第二話

雑多。本当に五月蝿くて反吐が出そうだ。


アルベシウネ国立学園がある街『クロスフィールド』に来てみたがこれほどまでに雑多かつ五月蝿い街は始めてだ。


「おい、お前!この僕と契約し――」

「五月蝿い。さっさと失せろ」

「ヒィィ!」


それと、馬鹿が当たり前のように湧くから不愉快極まりない。


デブの糞ガキを殺気で追い返し、小さくため息をつく。


それと、やっぱりこの翼は目立つよな。基本四種の妖精や他の少数妖精たちにはない稀少な羽だから馬鹿が湧く事にも繋がるし。


『殺さなくて良いのか?』

「人間どもにとって同族を殺されるのは何よりも我慢ならない事だ、ここで殺すのは止めておいた方が得策だ」

『ククッ……人間に対して容赦がないな』

「当たり前だ」


俺は妖精、人間に対しても妖精に対しても基本的に厳しい。


……だが、この街には良いところもあるがな。


街の脇道に目を向ければ、そこには浮浪者が寝転がり、陰湿な魔力が漂う空間が広がっている。


人間どもの陰鬱な魔力は心地が良い。死体があれば上々だが、まあ別に構わないか。いざとなれば作れば良いだけだし。


「……ん?」

『……どうかしたか?』

「……死の臭いだ。良いものが見れるかもしれん」


今隣を通りすぎた男の身体に特有の腐乱臭がした。


世界最悪の妖精であり、この世で最も死に近い妖精である俺らは『死の臭い』――生物を殺した際に発生しこびりつく魔力を関知する事ができる。

直接生物を殺せば、死の臭いは累積していき、より濃く、より濃密な死の臭いとなっていく。


今通り過ぎていった人間の身体から発していたのはかなり濃密かつ人間の魔力が多い――何百と殺してきた人間の類いか。人間の中には殺し屋なる殺人を専門とする職業がある以上そういった普通じゃない人間なんだろう。


『追うか?』

「ああ」


何せ、そっちの方が――遥かに面白いからな。


影が揺らめくと同時に俺は気配を消し人間の間を縫うように追いかける。


死の臭いが濃密だから追うこと自体は非常に簡単だ。追いかけてどうしようか、殺すか拷問するか……真っ当な人間じゃないんだ、様々な遊び方がある。


男が路地裏に入りすぐ近くの建物の扉を開けて中に入っていく。俺もそれについていく。


扉を開けると同時に奥から矢が飛来する。視覚が反応するよりも勘で察知して身体を逸らして躱す。


ふうん……面白い歓迎の仕方だな。


バッグを影に下ろして影に沈めていると部屋の中から人間どもが現れる。


人数は十人以上か。まあそこら辺はどうだって良いか。全員殺すんだし。


「野良の妖精か……なるべく傷つけるな、高値で売れそ――」

「散れ」


リーダー格の人間に肉薄し頭を掴み脊髄ごと力業で引き抜く。傷口から噴水のように溢れる血を浴びながら頭を地面に捨てる。


妖精拐い……まあ、そこら辺はどうだって良いが、不愉快だ。さっさと殺るとするか。


「おま――」


口を開く余裕を与えると思うか。


口を開こうとした人間の首を手刀で切り落とす。


勢いをそのままに、壁を蹴り方向転換し近くの人間の顔面に蹴りを入れる。


人間を大きく凪払い、壁に叩きつけて絶命させると剣が振り上げられる。剣を掴んで握り潰し、動揺する人間の腹に蹴りを入れて後方に蹴り飛ばす。


すぐに背後から振り下ろされる剣を見ないで躱し、反転しながら爪を下から上に振り払い一番近くにいた人間の身体を三枚に捌く。


「妖精が……!何でお前は人を傷つけ――」

「口を開く余裕何てない」


問いただしてきて人間の頭を掴み勢い任せに壁に叩きつける。木の壁は衝撃で弾けるように割れ、人間の死体は路地に転がる。


背後から放たれた矢を避けることなく翼で弾き、後ろを見る。


ボウガンか。まあこの中で弓を引くのは得策ではないし判断そのものは間違いではない。


だが、俺には通じない。


「死ねぇ!!」


指が引かれ、ボウガンから矢が放たれる。飛来する矢を掴み横から接近してきた人間の顎をかち上げるように矢を突き刺す。


狼狽える人間の喉を近くに落ちていた木の破片で突き刺すと二人の人間が同時に剣を振り下ろす。

愚か――!


床を蹴り一気に加速し通り過ぎ様に二人の人間の腸を引き抜く。


「くっ……!人手を呼んでこい!」


ボウガンを持つ人間が後ろにいる人間に命令を下しているのを見る。


まあ、人手があれば問題ないと言うわけではないが……魔法なしでやるには少し面倒だ。雑魚を一々踏み潰すのも苦労しかない。


仕方ない、呼ぶか。


「来い、《百鬼夜行・踊り食い》」


俺の呼び掛けに応じ影が部屋を包むように伸びる。その中から数多の百足が現れる。


何十何千何万何億という百足は、壺の奥で溜まっている水のように積み重なっている。それを人間はそれを見て恐怖を覚え、顔を歪ませる。


「敵対者を喰らい尽くせ」


命令と共に百足は一斉に建物の壁面や壁を伝い広まっていく。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


それに巻き込まれた人間どもは百足たちに体の全てを貪り喰われていく。血も肉も骨も、余すことなく百足たちの胃に収まっていく。


ふむ……生きたまま喰い殺される手法は悪くないが、やはり人間たちが鳴らす雑音が五月蝿くなりやすいか。百足たちからしたらそこら辺は関係ないが。


やはり蛇の丸呑みのようにじっくりと痛め付ける手法が良かったか?いや、蛾のように殺し合わせる手法もよさそうだ。


「ギチギチ」

「ああ?敵意のない人間だと?」


どういうことだ?ここに敵意がない人間がいただと?百足たちからの連絡は嘘をつかないし、情報は正しい。


仕方ない、百足たちに任せるのを止めて見に行くか。


百足たちを影に戻すと室内を探索する。死体一つ、血痕一つ残らない建物には生き物の気配がない。


……ここか?


地下に通じる階段を見つけ、警戒しながら下に降りる。


ふむ……死の臭いがするな。死体でも転がっていたか?百足たちがそこら辺の補食しているとは言え、長時間放置されていると死の臭いがこびりつくし。


「地下牢か」


地下にあったのは牢屋だ。百足たちに死体や排泄物は除去されているとは言え、こびりついた臭いはとれてないか。


「……で、こいつがさっき言っていたやつか」


最奥の牢に囚われている人間の少女を見下ろす。

人間と殆んど接していない俺からしても、少女は異質だ。そりゃ、服は破けてるし、右手が鎖に繋がっていたりと普通の人間から見ても可笑しな部分はあるが、そこら辺はどうだって良い。


それ以上に、こいつの瞳と魔力が異質だ。


……その目はなんだ。妖精にでもなったつもりか、小娘。


少女の瞳は虹色。虹色に煌めく瞳は妖精でも随一の気位の高さを持つ聖妖精の証であり、人間には絶対に存在しない瞳だ。


しかも、持っている魔力の質が妖精のものだ。人間の魔力と妖精の魔力は本質的に違う。


それなのに、体は確実に人間のものだ。何度も人間を殺している訳だから、そこら辺はよく分かる。羽だってないしな。


「み、淫らな視線を向けないで下さい……!」

「向けるか!……たく、少し扉から離れろ」


長く伸びた桜色の髪を揺らし、瞳を潤ませる少女を扉から退かして扉を蹴り飛ばす。


『助けるのか?』


一々答えを出さないといけないことか?


少女の右手に拘束していた鎖を踏んで壊す。


これは気まぐれだ。この小娘が生きようが死のうが俺には関係ない事だ。


「良かっ……え?」


立ち上がり、外に出ようとした少女の首の付け根に手刀を軽く与え、意識を落とす。倒れかける少女の右手を掴み身体を支える。


気になる事もあるし、保護のためにもこの娘は良さげな奴に押し付けておいた方が良い。


だが……誰に押し付けようか。この街の兵士に押し付けても良いが、それだと少女の事がバレてしまう。流石に見捨てる気にはなれないし……。


「……あいつに頼むか?」


脳裏に浮かぶあの男の顔を振り払うと少女に影から取り出した適当な布を巻き付ける。


そのついでに身体に付着した血を見えない程度に拭ってから少女の身体を持ち上げて抱くように持ち上げる。


あの糞野郎に頭を下げるつもりは流石にないが、あいつも興味を持ちそうなものだ、保護くらいはしてくれるだろう。


……もし手を出したら流石に許さないが。

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