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第一話

俺の名前はアース。辺境も辺境、ヴィルバーサ帝国の端にある名前があるかさえ分からない村の近くにある森に住んでいる妖精だ。


あ、妖精と言ってもそう大したものじゃない。背から二対の昆虫のような羽が生えている事を除けば見た目は普通の人間とそう大差ない。まあ、かなり小柄な妖精もいるけど、俺は違うから問題なし。


「が……ああ……」


で、足元で踏みつけられているバカな男は人拐い。ちょいと苦痛を与えて尋問したらどうやら、人間、特に貴族とかいう上流階級の人間どもの間では妖精が高値で取引されているらしい。


いやー、狩りをしていたら見つけて嫌われ者であるこの俺が徹底的にねじ伏せてやったよ。そしたら喋るは喋るは、情報を与えて命乞いしているのだろうか?


まあ、情報はあって問題ないし別に構わないけど。


「ま、殺すけどね」


人拐いの頭を踏み潰して木の実が潰れたような状況にしてしまえば後は消すだけ。そうすれば後は何とかしてくれる。


人間に力を貸す妖精もいるようだけど……こんな強引な手法をしてくる連中に力を与える分けないだろ、バーカ。やるんなら三食昼寝付きの生活を一生続けてくれるのなら別に良いけど。


それと……狙いは読めてるんだよね。


風の切る音と共に放たれた矢を爪で弾く。


「なっ!?」


はい、しゅーりょー。


俺は矢を射った男に高速で近づいて爪で頭を切る。頭を三つに切り分けられた男はそのまま地面に倒れて痙攣し、すぐに動かなくなる。


やれやれ……半径二十メートルなら森の中にいようと気配だけで正確な位置が分かるし、矢なんて道具は最初は少し驚いたけど俺よりも遅いし、三十メートルなら障害物を込みで高速で動ける。肉弾戦は俺の得意分野だ。他の妖精とは違ってな。


まあ、他の妖精は人間たちとの密約で何時如何なる時でも人間を傷つける事が出来ない。そのため、相手を傷つける技術が皆無で人間に力を貸す妖精が出てきたのだか。ていうか、それが目的だったし。


最初に密約を施行した際に契約したのは『火妖精』に『水妖精』、『土妖精』、『風妖精』の四種だけ。妖精たちの頂点、基本四種の妖精王を屈服させたため他の妖精たちもその後に密約を結んだ。だからこそ、妖精たちが人拐いたちに格好の獲物扱いされるようになったのだけどな。


まあ、その密約に幾つか抜け穴があるから、こうして俺が人間を殴る事ができるし殺す事もできる。


『クク……相変わらず良い殺しっぷりだな』

「お喋りなやつだな」

『まあ良い。食わせて貰うぞ』

「どうぞお好きに」


影から飛び出てきた狼が人間の血肉を喰っていく。その間にも影の中から身の丈はある大きな蠍や蛸、百足、蜥蜴、蝿、蛾、そして鬼等がが現れては影の中に死体を引き摺り込んでいく。数分もすれば、死体どころか血の痕跡すらなくなる。


やれやれ……こいつらはものを食べる必要なんてないのによく喰うよ。


「それで、俺に何かようか」


いい加減出てきても良いだろ。……その視線は不愉快極まりない。

魔法を発動しても良いんだぞ。


「やや!それだけは止めて貰えますか。流石にそれは死んでしまいますので」


気配に手を向けて黒い光が収束して発射される直前、木の影から猫耳に猫の尾を持つ猫妖精の小娘が現れる。


敵意がないからすぐには殺さなかったが……やはり、殺しておくべきか?


殺意を滾らせて一足で接近し、水平に脚を振るい蹴り飛ばす。


「なっ!?」


腕をクロスさせて防ぐ猫妖精。その背後に回りこみ掌を脇腹に叩き込ち吹き飛ばす。すぐに腕を引き、腕を掬い上げるように振るう。


起き上がった猫妖精が真横に飛び退くと同時に衝撃が森を抉る。森の木々を巻き込んで土が抉れ飛ぶ。


流石に避けられるか。他の妖精の情報なんて興味も欠片もないし、猫妖精は四大妖精から省かれた番外妖精だ、実力はそこまででもない。


「くっそー!だからこの妖精には近づきたくなかったのに!!ええ、やってやる!《怪白》!!」


やけくそ気味に猫妖精は吠えて指先を複雑に折り曲げる。それと同時に背後の影が動き一頭の狼が現れる。


……まあ、使ってくるよな。猫妖精の魔法の特性上、単純な戦闘能力はそこまで高くないし。


飛びかかる狼の首を蹴り木に叩きつける。木は衝撃でミシミシと言う音と共に倒れる。狼はすぐに起き上がると後ろに飛びのく。


遅いな。その程度では――


その側面に回りこみ、爪を振るう。狼は横に吹き飛ばされ、首に三本の線が入ると同時に夥しい量の血が溢れる。


俺は倒せない。


「う、嘘でしょ……!?」


「嘘ではない。お前らが自分から牙を折った、その結果だ」


木に凭れかかり、呆然とする猫妖精に近づきながら腰椎の辺りに装備した鋸をケースから取り出す。


猫妖精は我に返り、逃げようとする。それと同時に一足で最高速度に達すると同時に猫妖精の脇腹を追い抜き様に切り裂く。


「ぐっ!?」


脇腹からの出血と衝撃に猫妖精は地面を転がり、木に叩きつけられる。酸素を必死に取り込もうとする猫妖精に歩いて近づき、蹴って身体を倒す。


身体を足で踏みつけて肩に鋸を当て、俺は口を開く。


「今から言う質問に正直に答えろ。答えなければ、これでお前の肩から先を切り落とす」

「言うとでも……!」


そうか。それがお前の選択か。


肩に付けていた鋸を引く。ギザギザの刃が猫妖精の肩を削るように切り裂いていく。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


痛みで泣きじゃくり、動こうとする猫妖精を踏みつける力を強めて押さえ込む。


何度も引いていき、鋸の刃が少しずつ肩の中に入っていく。骨まで到達し、その骨も鋸で削り切っていく。


「やはり、彼女では駄目だったか」


肩から先を完全に分ける寸前、最後の皮と肉を切ろうとしたところで背後から声をかけられる。


振り返ると同時に眼前に迫る炎を身を反らして躱す。火は背後の木に着弾し燃え盛る。


「む……今のを避けられるか。やはり、彼は強いな」

「いやー、当たり前だと思うよ。私だってまともにぶつかれば確実にそこの猫妖精の二の舞になっちゃうし」


手を向ける淡い水色の髪をした若い男は少し不服そうな顔をし、その隣で赤い髪の幼い火妖精は敵意を剥き出しで睨み付ける。


俺はそれを見て猫妖精の傷に深々と入り込んだ鋸を手に取り傷口から抜き取り血と油を振り払いケースに戻す。そして、指先を向け魔力を高める。


「不愉快だ。失せろ、『妖精使い』」

「あれ?バレてる?」

「言った筈だ。不愉快だ、と」


男の左斜め後ろに回りこみ、反転しながら水平に回し蹴りを振るう。それを火妖精は男を庇うように防御し吹き飛ばされる。


ちっ……やはりか。


「人拐いにあった妖精を救い、その恩を利用して契約を結んで玩具を面白そうに壊すように弄ぶ事で有名な『妖精使い』。俺を捕らえに来たか?」

「アルファ様に何て不敬な!」


俺の侮蔑を交えながらの問いに木に叩きつけられた火妖精は怒り、火を拳に纏わせて地面を蹴り接近する。


火妖精が近づくよりも速く接近し頭を掴み地面に叩きつける。


「うっ!?な、何て速さ……!?」

「殺すな。苦痛を与えておけ」


驚く火妖精を無視して影に潜むものたちに命じる。それと同時に影が広がり、中から大百足から蛞蝓、蚯蚓、蠍、大小様々な蟲が現れる。


蟲は瞬く間に火妖精に絡み付くと影の中に引き摺り込んでいく。


「嫌!!助け!助けてアルファ様ーーー!」


蟲たちの間から手を伸ばす火妖精を『妖精使い』は面白そうに眺めるだけで助けに来る事はない。十秒とかからずに火妖精は影の中に取り込まれる。


さて……と。後は『妖精使い』だけか。


「あそこまで簡単に妖精を無力化するなんて見事な手際だよ」

「性根まで腐ったクズ野郎。用件があるならさっさと言え」


ニヤニヤと笑い、パチパチと拍手するクズ野郎は無警戒に俺に近づいてくる。


やはり、多くの妖精と契約しているのか妖精一人に対する執着心が薄い。


「僕はアルファ・フォン・バリエル。君の言うとおり『妖精使い』であり、アルベシウネ国立学園の理事長を勤めている。今日は君を特殊特待生としての入学を打診しに来たんだ。勿論、入学費や授業費は学園が保証するよ」

「……ふざけているのか、お前は」


アルベシウネ国立学園。人間と妖精が共に学ぶ特殊な学園。俺からすれば行くメリットもなければデメリットもない。


そもそも、俺は人間と契約をするつもりはない。人間に人生を捧げるなんてふざけた真似をするつもりは一切ないからだ。


だが……それも一興か。無駄を楽しむ事も面白そうだ。


「……まあ、良いだろう。乗ってやる」

「それは良かった。場所は分かると思うから僕はこれで退散するよ」


そう言って猫妖精を抱き上げる。


あ、そうだ。返しておこう。


影に手を突っ込み、火妖精を引き摺り出す。火妖精は恐怖で顔を歪め、髪を真っ白にしており身体の至る所に針による刺し傷や噛みつかれた痕がある。


「忘れ物だ」

「ああ、ありがとう」


……本当に殺したい。


火妖精を肩に乗せて背を向ける男に殺気を向けながらケースから鋸を出す。適当に置いておいた革製のリュックからタオルを取り出して血と油を拭う。


だがまあ……良いだろう。少しくらい乗っても。

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