プロローグ Fake0 華麗なる嘘
誰が言ったわけでもない。
誰が伝えたわけでもない。
「嘘は悪である」
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「また、変な夢を見た。」
ここ最近、いつも同じ夢を見る。
逃げるもの、それを追うもの、捕まったものは追うものに喰われ、血溜まりができる。
その赤黒い血溜まりは無数にあり、果てまで視える。
何も出来るわけではなく、それをただ見続けるだけしかできない。
「まぁ、夢だし。最悪の目覚めには変わりないけど…」
ため息をつき、ベットから起き上がり背伸びをする。
カーテンと窓を開け、外の空気を吸う。
「相変わらず、不味い空気だな…」
こっちに来て数ヶ月、都心の学校へ行くため上京してきたが、さほど、新鮮な日々とまではいかなかった。
いつもと同じ光景、いつもと同じ空気。
日常というものに麻痺している。
そんな気がしていた。
身支度をするため、洗面所に行き、寝癖を治す。
ーーーお前なら大丈夫だな。
煩い…
ーーー無理せずにね。
煩い…
ーーーがんばってね!私応援してる!
煩いっ!
息が詰まる。瞬間的に体に力が入らないくなる。
「くそっ...なんでよりによって」
彼への過度な期待は思った以上に身体を蝕んでいた。
寝癖を直し、顔を洗い、制服に着替えた彼は冷蔵庫からゼリーを取り出し、家を出て行った。
学校への道のりはおおよそ20分。
週の初めは、いつでも最低な気分になる。
足取りが重くなるが、振り切って学校へ向かう。
「おっはよう!」
甲高い耳を刺すような声。
「おう、おはよう」
できるだけ普通の挨拶をする。
「いつもと変わらず、テンション低いねぇ〜」
「朝だからしょうがないだろ」
できるだけ、普通の会話をする。
彼女は紀村寧々、入学して初めて喋った相手だ。
社交性が良く、常に周りに友達がいる。
通学路も同じ為、こうやっていつも他愛もない話をしながら学校へ向かう。
「あっ、そうだ!夏休みどっか行かない?」
「いいや、パス。お前には友達たくさんいるだろ。そいつら誘ってどっか行ってこい。変な噂されたくないだろ。」
「え〜いいじゃん別にさ〜」
そう、彼女は天然のあれだ。
えーと、名前が出てこない。思わせぶりなタイプの子だ。
悪くは無いが童貞だったら、すぐ勘違いする奴。
「あー女の子ってほんと怖い。」
ボソッと口に出してしまう。
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもないです。はい。」
と軽いピンチを抜けた。
こんないつもの日常が壊れるのは一瞬である。
あれはすぐ周りの異変に気づいた。
辺りは暗くなっていき、
空は赤紫の色に染められ、空気が重い。
そして押し潰されそうな圧迫感。
空の境界線がはっきり見え、
今いるここは、明らかにここはヤバイ。
「紀村、とりあえず、あっちまで走るぞ!、急げ」
本能的にいう。これは間違いなくまずい展開だ。
息をあげ、全身に力が入り、ただがむしゃらに走る。
境界まであと200m、最悪な予想が当たる。
目の前には黒く、大きな生物。
そこには2、3つの血溜まり。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
思考がフル回転で回る。
どうすれば、この状況を変えることができるか?
彼は必死に考えた。
「紀村、俺のいうことを守れ。」
覚悟を決めた。
彼女にこれ以上、不安や恐怖持たせないために、
これから俺は嘘をつく。
「俺は、大丈夫だ。あいつの対処をしっている。お前は先に行け。ここをまっすぐ、そしてその次を右に行って突っ走れ、時間は稼ぐから。気にすんな」
苦しい嘘だ、でもこれしか俺はできない。
これが精一杯の嘘だ。
「でも!、荒谷くんは!」
弱気で今にも泣きそうな声で俺を心配する。
お前には俺より生きる価値がある。
こんな空っぽで何もない俺より、よっぽど。
「早く、行け。大丈夫心配すんな。」
最大限の笑顔で言い放ち背中を押す。
荒谷広夢は華麗なる嘘をついた。
これから2週間に間隔で一話ずつ開けていきたいと思います。荒谷広夢はいい奴です。