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2 誰かへの謁見

・・・したはずなんだよな・・・。


それなのになんで・・・。


王座になんて腰を掛けているんだろう。



王城に着くなり、


メイド服を着たギルドメンバーに連れられ、


どこか高価そうな服に着替えさせられ、


謁見の間に連れて行かれた。


俺は彼女たちのあまりにも堂に入りすぎている仕草に感嘆の意に駆られた。



その間に兵士やほかの使用人たち、


はたまた貴族どもと会うことはなかった。


普通兵士なんかは忙しげに駆け足をしていてもおかしくはないというのに・・・それもない。


どう考えてもおかしい状況だった。


ツッコミどころはいくらでもあった(まあ、ツッコミなんぞはしたことないが・・・)。


でも、なぜメイド服?


しかも動作が完璧すぎるんだが・・・。


などというギルドの仲間に対する疑問で、


頭を支配されていた俺にはそんなことをする余裕はなかった。


というか、もともとそれほど思ったことを口に出すタイプでもないからな。


・・・後悔は先に立たない。



謁見の間の前に着くと、


先ほど別れたアリアが中の者に指示を出す。


すると程なくして、


重厚な扉が開かれる。


軋む音に歴史と威厳のようなものを感じる。


俺は扉の前で一礼し、


目線を下に固定しつつ、


動き出す・・・普通ならばこの動作をしただろう。


けれど、


今日の俺は興味に駆られたからか、


盗み見るようにして中を窺う。



すると・・・、



「・・・ん?」


俺は思わず声を上げてしまう。


王侯貴族に対して取る態度ではない。


場合によっては、


牢なんかに入れられてしまうような失礼な行動をとったわけだが・・・



・・・それをとがめるような人物はそこにはいなかった。


普段そんな行動に眉をしかめる貴族どもがいない。


そしてそれに苦笑いを浮かべる者も。


・・・それどころか、王座にはしかるべき人物がおらず、


頭にはクエスッチョンマークが浮かぶ。



後ろを振り返る。


よく見ると扉を開けたのはギルドメンバーだった。。


・・・兵士がどこにもいない。



そのことに驚きを隠せない俺をよそに、


俺を家まで迎えに来た蒼いドレスの女性が騎士のように片膝をつき、


「それではあちらへ。」


なんてことを言ってくる。



手の先にはしかるべき人物が座る椅子・・・王座があった。



もう戸惑いしかなかった。


ここにいるのはギルドメンバーのみ。


他の者は給仕の服を着ている。


よくわからない。


今ここで何が起こっているのだろうか?


意味が分からないが、


きっと大それたことが起こったであろうことは間違いない。


それもこのギルドが起こした、もしくは関わっているであろうことは明白だ。


・・・もう泣きそうだ。


・・・まったく・・・自分がいない間に一体何をしてくれたんだ。



けれども彼女・・・彼女たちの傅いた様子からもわかるようにそれは正しいことなのだろう。



俺は彼女たち・・・はたまた主犯である誰かの意向に従い、ゆっくりと歩き出す。


不安定になりかけた情緒を安定させるため混乱をかき消し、


戦いに挑むときのように、


無心でそこに向かう。



王座に就くと、


頭を下げていた執事服の男が頭をあげ、


俺が疑問を口にする前に語り掛ける。


「誕生日おめでとうございます。


これは私達からのプレゼントです。」


「・・・プレゼント?」


「はいっ!」


真剣な表情が魅力的なそれに変わる。


花が咲くような笑みを浮かべている。


それから彼は自分たちがしたことを事細かに報告しだした。


はきはきと自分たちの功績を話し始めた。



俺はクリアになった頭をフル回転させる。


プレゼント?


・・・誕生日?


・・・ああ・・・そういえばそうだった・・・。


去年もこの時期に祝ってもらった記憶がある。


確か去年はここ王都の演芸場を貸し切って、


劇を見せてもらった。


主役は長女。


ヒロインは・・・ん・・・誰だったか?


・・・アリアか?


・・・いや、ミリカだった気も・・・う~ん・・・記憶があいまいだ。



「・・・そしてこの都市を制圧したのです。」


「は?」


俺は思わず声を上げる。


聞き流していたせいか、


内容はほとんど頭に入っていない。


脳をフルに使った結果。



王侯貴族を牢屋に・・・


や、


周辺貴族に長女を差し向け・・・などという不吉なワードが次々と出てきたからか、


それが仇となって回避をいう判断をしてしまった。



けれども、


ここ王都を制圧。


この言葉は聞き逃せなかった。


意味を噛みしめたせいか、


表情は若干動く。



けれども、


彼はそんな俺の心中を察することもなく、


もしくは表情から俺の驚きを感じ取ったのか、


嬉しそうな表情を浮かべる。


視線を外すと、


他のメンバーも同じように悪戯が成功した時のような笑みを浮かべていた。



彼女たちの反応に唖然としているこちらをよそに、


彼はこちらに近づいてくる。


彼の足取りは軽やかだ。


きっと俺に褒めてもらえるとでも思っているのだろう。



・・・いやいや、普通に考えて怒るだろう。



俺は敵対国の人物でもなければ、


魔王でもない。


どこぞの都市を制圧したとしても嬉しくもなんともない。


それに・・・この後に起こるであろうことを考えると、


とてつもなく・・・胃が痛い。



怒りは特にないが、


これは怒らなければならない場面だろう。



叱ろうと思い、


口を動かそうとするが、


言葉が出てこない。



・・・一体何を叱ればいい?


怒り慣れていないせいか、


叱る内容が浮かんでこない。


ほとんど話は聞いていなかったせいもあるだろうが・・・


明らかに原因は他だ。


考えに考え抜いて当たりをつける。



・・・あえて言えば、


王侯貴族を追い出し、王城を手に入れたこと?


都市を制圧したこと?


ここら辺が妥当だとは思うんだが・・・


両方を叱ればいい?


いやいや・・・。



なんて物思いに耽っていると不意に声を掛けられる。


「お父様?」


彼女たちがこちらを怪訝そうに見つめている。


その圧に押されたからか、


とりあえずの考えを導き出す。



・・・とりあえず、プレゼントのことをお礼しておくか。


俺は未来の自分に面倒事を投げつけることにした。


「・・・よくやった。」



すると彼女たちは喜びを露わにする。


そんな様子に笑顔を浮かべる暇もなく、


状況は悪化する。



「今、他の姉妹たちが残りの都市の制圧に尽力しておりますので、


お声がけください。」


横にいたアリアがそんなことを宣った。



・・・は?



・・・ほかの都市・・・?



今回はクリアな思考は逃げることをせずに簡潔に答えを導き出す。



・・・どうやら彼女たちは俺のために国というものをプレゼントしてくれるようだ。


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