1から始める異少女会話 [4/4]
無我夢中に、あるいは膨らみ切った不安が恐怖に変わって、それに心を圧し潰されたまま急いできた道筋はあまり覚えていない。
気付けばアパートの前まで来ていた。
電話に出た怪しい女の不穏な言葉。それに心を縮ませ、守るためと思い駆けつけるに至ったのだが、電話をかけたのは携帯電話だ。家にいたとは限らない。
アーレンを追う者達についての憶測は進んだが、具体的な姿まではわかっていない。仮にそいつらがアーレンや美咲さんを連れ去ったとしても、拠点と思える場所ははっきりとは……
曖昧な思考を抱えたまま、階段を上がる。二階、三階。すぐに三上家の前だ。
ここに敵がいるとしたら、見つからずに様子を探らなくてはいけない。慎重に進む。
インターホンのカメラを避けて、真新しいドアの前に屈む。他の部屋とは違う扉からは、もうくぐもった音も漏れ出ない。だが人の気配はする。
ドアとフレームの隙間を覗き込む。鍵は掛かっている。
屈んだまま横へ滑り、鞄から小さな鏡を取り出す。壁を背にしたまま、擦りガラスの様子を映すが、中で人影が動いているのがわかるだけだ。
ガラスを避けてさらに移動、換気扇の穴を通して物音が聞こえないかと、背伸びして耳を近付ける。その時。
ガチャリ
「何をしているんだ、タークマ。入るなら早く入れ」
しまった、と思う間もなく、ドアが開く。鈴のような、凛と響く声の主は、長い脚をさらけ出したショートパンツ、原色散らばるTシャツにパーカー姿の、
「アーレン……」
アーレンだった。
朝別れた時と同じ姿のアーレンがいた。
「よかった…………はは、心配して、」
損、と言いかけて、止まる。
馬鹿が。それじゃ何も変わってないだろう。
守るんだろう。守る人間が、守るために準備をして、気を揉んで、守りたいものが無事だったなら、それは無駄じゃない。成功だ。
「――俺の馬鹿たれ!」
パン、と両頬を叩く。
アーレンの無事が確認できた。それはいい。だけど、これで問題が全て解決したわけではない。
「どうしたんだ? そういえば、ずいぶん早いな。仕事の終わる時間は5時頃だろうと美咲から聞いたのだが」
「いや、アーレン達が心配で――アーレン?」
何かおかしい。俺は目の前のアーレンと話しているはずなのだが、電話口で聞こえた怪しい女の声が聞こえてくる。
「タークマ、何を呆けている? これが『馬鹿になった』というやつか……朝までは普通だったのに」
いや、どう見ても怪しい女の声で話しているのは、アーレンだ。なに? どうなってる? 敵の変装?
いやいや。この美少女はどう見てもアーレンだ。こんな美少女が再現できてたまるか。
「……本当に大丈夫か? 入る気がないなら鍵を閉めるぞ」
「あ、入ります。入ります」
脳は混乱し切っているが、アパートの廊下で悩んでいても意味がない。アーレンのはずの美少女の後ろについて301号室へ入る。
「美咲、タークマが帰ってきたぞ」
「え!?」
キッチンに立っているのも、紛れもなく美咲さんだ。奥の部屋では寧亞ちゃんが漫画を並べて遊んでいる。
「あの、ただいま……」
みんなの無事を確認できたのは非常に良かった。喜ばしいことなのだが、
「おかえりだけど、ごめん、もしかしてアーレンさんが出てくれた電話、緊急の用事だった?」
当たり前だ。始めに『タークマ』と、彼女の声で呼んだのだから。当たり前だけど、
「アーレンだったのか……アーレン、電話に出たら名乗ってくれ…」
「テ。そういうものか。ごめんなさい」
ペコリ、と丁寧にお辞儀する。
「美味しいケーキ焼こうと思ってレシピと格闘してたからさー。あ、驚かそうと思ってたのに言っちゃった! サプライズのつもりだったのにー」
「タークマはどうして早く帰ってきたんだ? まさか、非常事態か?」
流暢に問い質すアーレン。腹から熱が上がってきて、頭までゆっくり上る。
つまり、俺は、アーレンの言葉を、勝手に都合悪く解釈して、心配してた……?
「タークマ?」
力が抜ける。俺は膝から崩れ落ちて、らしくもない女の子座りに落ち着いた。
「タークマ! 本当に大丈夫か? 休息が必要ならすぐに言え。調子が悪いなら、美咲に頼んで胃腸に良い食べ物を作ってもらおう。それとも――」
すぐに駆け寄って、馬鹿な俺の心配をしてくれるアーレン。言えない。勘違いして悪者に攫われたと思って、慌てて帰ってきたなんて。
ただ、これだけは言える。
「無事で良かった……」
本当に、良かった。俺の思い込み、思い違いで。
このまま抱きしめて喜びを分かち合いたい気持ちだったが、一息をつくだけで解消することにする。大人なので。
もうこの心配は、済んだことにしよう。それよりも気になるのは、
「あの、アーレンさん? その、言葉は……」
「よくぞ聞いてくれた! 美咲があの漫画を出してくれてな。それを読んだんだ」
寧亞ちゃんが積み上げたり並べたりして遊んでいる漫画を指す。料理が一段落したのか美咲さんも、
「そーそー。寧亞が読むような本もこないだ読破しちゃったし、あたし本読むの苦手だからね。太健さんが押し入れに突っ込んでる漫画、いっぱい出してきちゃった」
「漫画……」
「非常に勉強になったぞ。絵が付いているから、文章と状況が同時に理解できる。それに、タークマが買ってくれた絵本と違って、人物を中心に描いているから、感情や概念的な単語がわかりやすかった」
「にしたって……」
この量。長編作品こそないものの、十数作品、百冊は優に超えている。
「タークマが貸してくれた教科書に『てにをは』も乗っていたからな。読むのは苦にはならなかったぞ」
そういう問題だろうか……というか、漫画を読んで『てにをは』なんて用語が身につくだろうか。
「その中でもこれだな。『階級教室』。これに登場するパルラというキャラクターが騎士という設定で、アーレンの境遇に似ていたから、口調を参考にしやすかったな」
一人称は『アーレン』なんだ……
「アーレンさん……あなた、超人ですか」
この量読んだからって、たった数時間でこんなに言語能力が変わりますか。きっと彼女はトゥベロンでも天才少女で通っていたに違いない。
驚きに口が開きっぱなしの俺に、アーレンは不服そうに唇を尖らせている。
「タークマ……なんで、アーレンさん、なんだ」
「え? あ、いや、話し方が、なんとなく……」
偉そうと言うとアレだが、今のアーレンは朝までのアーレンとは違う生き物に感じる。元から、意志を曲げない時は逆らえない雰囲気を纏っていたが、今はそれが強調されている。
ガ、と、肩を掴まれる。一瞬だけ、アーレンの強烈な力が加わる。
痛がるよりも先に力は抜かれ、アーレンは俺を床に縫い付けるように膝の上に跨る。
美しすぎる顔が近くにある。だがその表情は。
「『さん』は敬称のようだな。アーレンはタークマより偉くない。一定の距離を置く関係を示すこともあるようだが、アーレンはタークマから距離を置かれるようなことをしたのか? したのなら教えてほしい」
寂しさ。
「タークマはアーレンを助けてくれた。何者かもわからない小娘をだ。アーレンこそ、タークマには敬意を表したい。でも、タークマがいろいろ教えてくれて、優しくしてくれた今の関係を変えたいわけではない。だから、その、タークマも、……今まで通りに接してくれると、……嬉しい」
アーレンは、俺と話せるようになっただけ。心細い状況は、下着屋で俺の手を掴んだ時から、ほんの少ししか変わっていない。
その気持ちを、やはり彼女なりの言葉で、ようやく口にできた。次第に紅に染まる頬は、言葉にしてしまったが故の照れ臭さか。
「……ごめん、アーレン。いつも通りいこうか」
「気にしないでくれ。さあ、仲直りのイェイ、だ。手を出せ」
望み通り、両手の平を出す。確かに堅物の女騎士|(といっても日本の漫画の)のような話し方だ。そんな彼女がイェイ、なんて口にしているのは、なんだか可愛らしい。
アーレンの細長い指が迫る。そして手の平同士の乾いた音、は鳴らず、
ゆっくり、しっとりと、俺の武骨な指に絡んでくる。
「……タークマに初めて会った夜、アーレンはこんな風に間違えたな。たった数日前だが、そんなことも良い思い出だ」
「あったな、そんなことも。直そうとしてさ、アーレンに手を出させて…」
手を離して再現しようと動く。が、アーレンの指が離さない。ぐ。純粋に力が強い。
「正しいイェイの仕方を教わった後、アーレンがなんと言ったか覚えているか?」
「えっと…恥ずかしそうにしてたのはわかるけど」
「そう、ニェトラーテ。そのまま、『恥ずかしい』という意味だ。わかっていたんだな」
「いや、なんとなく雰囲気だけで」
「タークマはアーレンに言葉を教えてくれた。おかげで、たくさん、この世界のことを理解することができた。
アーレンも、タークマに知ってほしいことがたくさんあるんだ。だから…たくさん、話そう」
「ああ。もちろんだよ、アーレン」
吸い込まれそうなほど、青く深い瞳。そうだ、俺達は――
「あーっ!? ちょっと目を離した隙にエッチしようとしてる! 四十八手でなんて言うんだっけこういうの、手四つ!?」
「手四つは若干合ってるけどそれは相撲だし、しようとしてない! せっかくアーレンが言葉覚えたんだから、変なこと吹き込まないでください!」
椅子に座り直し、俺とアーレンは意思疎通を始める。
「では改めて……アーレン・ハーファーハイトだ。これからもよろしくお願いします」
「荒船琢磨です。そういえば名字は言ってなかったよな。改めて、よろしく。ちなみに、こういう時はイェイではなく、握手をする」
よろしく、と固く手を結び合う。
「ついでだから、これもあげよう。どうぞ」
「何だこれは……あ」
水色の紙を片手に、アーレンは漫画の山に突っ込む。『企業戦士エイトム』とかいう漫画を取り出して、
「これだろう、名刺! ……ちょっと待てタークマ。あなたの名刺は非常に、その、何というか、個性的すぎないか? エイトの名刺は名前と会社の所属しか書いていないのに」
「うん。変だよな。俺もそう思う」
その反応で十分だ。だが、この検証結果は一旦置いておこう。
「順を追って確認していこう。ここは日本という国なんだけど、アーレンは知っていたか?」
「知らない国だ。アーレンの国はトゥベロンという。五稜地帯の強国なのだが、知らないようだな?」
「そもそも五稜地帯って何だ」
沈黙が流れる。寧亞ちゃんが見始めた幼児向け番組の歌だけが流れる。
「ということは、確定のようだな」
先に口を開いたのはアーレンだ。
「何がだ?」
「アーレンは、トゥベロンから異世界に来てしまったようだ」
「…………」
「…………」
「みさいー。ねーあ、みいがすい」
「みいがいいの? ママはまいが好きだなあ」
寧亞ちゃんが『お母さんと一生』のキャラクターを指差している。その声も聞こえる静寂を、俺はつくってしまう。
…………どこで学んだ言葉だ。あ、そうか。
「どの漫画に出てきたの?」
「違う。いや、『オタサーの姫を助けたつもりの俺が本物の姫になっていたんだが』は読んだが、トゥベロンには異世界の概念がある」
あるんだ。
漫画好きは高校までで卒業したつもりだったが、まさか社会人になって、そういう展開が生まれてくるとは……
「では、アーレンがトゥベロンから異世界に来た経緯を説明しようか」
説明できるのか。
「まずはイメージを持ってもらおう。トゥベロン、というかアーレン達の世界は、多くの国家がその領土拡大と権益獲得を目的に争っていて……この中だと『エルドレアン戦記』の世界観に近いな」
ページをめくると、中世ヨーロッパ風の世界を舞台にした大河モノらしい。いわゆる『中世ファンタジー物』だ。確かにアーレンの言う通り、漫画はイメージが伝わって便利だ。
「トゥベロン王国含めて五つの大国が覇権争いの中心になっている大陸西部の地域を五稜地帯という。そこでは大国小国問わず、それなりの頻度で戦が起きていた。そんな世界情勢を前提にして聞いてくれ」
麦茶を一口飲む。居住まいは正しいまま。その世界情勢自体は、彼女の中でそれほどの大事ではない。
「アーレンは、トゥベロン王家の第三王子に仕える、こちらの言葉で言えば軍人だった。武人とでも言おうか。ナカヨシ……仲間が九人いるという話は昨日したつもりなのだが、その、理解してくれていただろうか……?」
「ごめん。はっきり言って理解できなかった。クって、九人の九か」
「いや、当然だ。こちらこそ中途半端な説明ですまなかった。要は、アーレンは王子が自由に使える私設部隊の武力担当で、他に九人の仲間がいたのだ。部隊の名はテンペ・ロイケン・デキラータ…便宜上は『十名部隊』と呼ぶことにする。
この十名部隊はあくまで第三王子の私設部隊であって、当然、王国には正式な軍や政治を司る役人が存在する。アーレン達は軍や役人と共に仕事をすることも少なくなかったが、王国と王子では目的が異なり、相容れない部分が多かった。関係は悪かったと言えよう」
間を置いて、俺を見る。聞きたいことはあるが、それはアーレン個人を詳しく知りたいがための質問であって、彼女の伝えたい本質に関わる疑問ではない。目線を送って続きを促す。
「その正規軍に、タートスという中二等兵がいた。小隊長だ。王子と言っても3人目、政治に関わる実権は強くなく、戦闘作戦に大きく関与することはできなかったから、アーレンが関わるのも小隊長レベル止まりだった。タートスは指揮能力はそれほど高くなかったが、自尊心だけは高く、自分の思い通りにならないと済まないような、小隊でもおよそ指揮官には向かない性格の人間だった。アーレンは一応、王子の命で動いていたから、彼の意に沿わない行動が多く、当然疎んじられていた。
もう一人。ケーロルという、これは軍人ではなく、貴族とでもいおうか。国家元首が世襲制なくらいだから、貴族の家に生まれれば政治に関われる国なんだが、この男も政治屋としてはボンクラでな。次期王位継承に関して第二王子派の家のくせに、何かとアーレンに近寄ってくるような浅慮の固まりだ。
アーレンがこちらの世界に来た原因は、このに人にある」
一度言葉を切る。番組が終わりに差し掛かったようで、寧亞ちゃんが歌に合わせて踊る音がする。アーレンは構うことなく続けた。
「ガレントームという、五稜地帯でも領土争いが激しい土地があってな。二年前の戦役からバスタニア帝国という敵国が占拠、監督しているのだが、トゥベロンとしてもいつまでも指をくわえて眺めているわけにはいかない土地だ。
そこに大軍を以て侵攻しようという作戦が立った。そこに第三王子も参加すると意気込んでな。進軍には何日もかかる行程だったから、アーレンだけでなく十名部隊やその部下も全て王子を隊長とする一軍として加わった。
ガレントームへの行軍も3日目の夜だった。アーレンは習慣で見張りをしていた。これだけの大行軍は初めてだったから、初日、二日目は十名部隊で交代で見張っていたが、何事もなかったから油断していた。三日目はアーレンだけで第三王子部隊の見張りをしていたが、まさか身内から攻め込まれるとは思ってもいなかった」
思い出したのか、苦々しげに爪を噛む。
「他の十名部隊は第三王子の周囲に寝床を構えていてな。そこにタートス以下小隊の兵士と、同行していたケーロルが武器を携えて押し入ってきた。アーレンの部下がタートス小隊の兵士とどうにか交戦して時間を稼いでくれた。味方に損害が出る前にアーレンも駆けつけることができたのだが、時既に遅し。ケーロルが異界転送の呪文を唱え終える寸前だった。
すんでのところで切りかかって、奴の集中を切らすことができたが、空間の精霊の術自体はもう組み終わってしまっていた。奴はアーレン達だけを異世界に飛ばすつもりだったのだろうが、効果範囲の設定を乱したことによって、奴らも術の巻き添えにしてやったが……」
苦虫を噛み潰したような表情は直らない。彼女がしたかったのは敵を陥れることではない。味方を守ることだったのだ。
「異界転送術の光に目が眩んだ後は、覚えていない。気付いたら、タークマに抱きしめられていた」
「抱きしめられていた!?」
「アーレン。抱き上げられていた、な」
「そうか。そういえばあれは、お姫様抱っこという行為ではないか? 乙女は誰もが憧れるという」
「行為!?」
「どこに反応してるんですか。俺ら帰っちゃいますよ」
あいやそれは待って、とうろたえる美咲さんは放置する。
予想されていたことではあった。いや、予想というか、昨今の創作物にありがちな異世界転生的という意味でありがちだということだが。とにかくアーレンは期せずしてこちらに来てしまったようだ。
「確認したいことがいくつかある。いいか?」
「もちろんだ」
「まず……アーレンはさも当たり前のように口にしたけど、異界転送の呪文…というか、呪文とか、精霊の術というのは、そっちの世界では当たり前の存在なのか?」
「当たり前ではないが、それなりの才能と修行、それと多少の信心で身に付けられるものだ。というか、それはこちらでもそうではないのか?」
「それは漫画であって、俺の知る限り言葉で与えられるのは精神ダメージくらいだよ。この世界に近いのは、その漫画の山の中じゃ『企業戦士エイトム』『四季色、ゆるり』『各務原さんは○○○の鑑』辺りだ」
「なに!? じゃあタークマも、右子みたいな甘酸っぱい恋をしたことがあるのか!?」
……このまま漫画オタクにならないことを祈るしかない。
俺の白けた視線に勘付いてくれたようで、咳払いを一つする。
「伝わりやすいように言葉を選んで『呪文』と表現したが、言葉だけで何かを成せるわけではない。世界を形作る精霊と契約を交わし、言葉を紡いで精霊に働きかけることで、その彼らが使う術を行使することができるのだ。ケーロルの例でいえば、空間を司る精霊と契約することで異界転送の術を使えるようになったわけだ。
この精霊が曲者でな。契約を結ばずとも丁寧に言葉がけをすれば応えてくれる者もいるし、契約を結んでもなかなか手を貸してくれない者もいる。空間の精霊はかなり偏屈だから、異界転生の術なぞ、そうそう教えてくれず、使わせてくれる代物ではないらしい。それを上手く引き出すのが修行、腕の見せ所というわけだ」
魔法というよりも、巫女が神様にお伺いを立てて神託を受けるようなものか。
ということは。漫画によくある『トラックに撥ねられて死んだと思ったら…』なんて不可解かつ突発的なものでないならば。
「その術を使えば、アーレンはトゥベロンに帰れる!」
彼女のためにできることが見つかった。方法だけであって、可能性の段階だが。
その事実について、アーレンは喜ぶでもなく、無言で麦茶を口に含んだ。
「…………?」
今の話し方のアーレンだと、大仰に喜ぶ性格には聞こえないが、今までの彼女も真実なら、別に感情を隠すタイプでもないのだが……あ。
ようやく、自分の発言の無神経さに気付く。
「ち、違うんだ! 別にアーレンをトゥベロンに追い返したいわけじゃなくて、故郷には戻りたいだろうし、その」
「大丈夫。アーレン、泣く、ない」
「な、何を幼児退行して……あの、本当に泣くなよ」
「フェ……ごめんなさい。タークマが本気で追い返したいと想像したら、冗談のつもりだったのに、なんか本当に悲しくなって……」
「ごめん、本当に……もうずっと俺の家にいていいから」
「ありがとう……お気遣い、痛み入る」
ぐす、と鼻を鳴らして、目元を拭う。ティッシュ一枚片手に鼻をかみ、レバーを踏んで開けるタイプのゴミ箱に捨てる。もうすっかり日本の生活にも慣れている。
彼女の最も『騎士らしい』キリっとした真剣な表情に戻る。
「術……ただ術と呼ぶのも判別しづらいから、〈稜術〉とでも名付けようか。異界転送術が使えれば帰還できることは、アーレンも考えた。アーレンは空間の精霊とは話したこともないから当然使えないが、まずは他の稜術が使えないかを試すことにした。
アーレンが教わったのは、祈りの呪文と舞踊で精霊に訴える方法だ。それで契約を結んでいない精霊から力を借りられないか、試してみたのだが……」
呪文と踊り。その二つをアーレンが実践していたのは、
「あ…洗濯物の」
「そうだ。あれは火の精霊に頼んで、洗濯物を乾かそうとした。トゥベロンではそうやって濡れたものを乾かすのだが、結果はご存じの通りだ。
昨日の風呂場の件、うるさくしてすまなかった。ただ、あれも稜術を試していたのだ」
「そうだったのか……こっちこそ、うるさく言ってごめん。ちなみに、何しようとしてたんだ?」
「体を清めるために泉の精霊の術を借りようとしたのだが、結果は同様。ちなみにトゥベロンではやはり一般的な行動だ。あんな温かい湯を浴びる習慣は……というか、あんな温かい湯はない」
「へー、アーレンさんの国って、お風呂とかないの?」
寧亞ちゃんと寝転がる美咲さんが尋ねる。
そういえば、かなり込み入った話を聞かせてしまっていた。どうしよう。
ここまではいい。だが、これからの具体的な行動となると……
巻き込むわけにはいかない。
「美咲さん、申し訳ないけど、俺達、部屋に戻って……」
「タークマ。いかんいかん」
首をぶんぶん振る。いかん、変な言葉しっかり定着してる。
的外れな心配をよそに、アーレンがもっと心配な事実を告げる。
「午前中だが、はす向かいの喫茶店からこの建物を監視している人間がいた。今はいなくなっているが、もう少しここで美咲達の安全を見守った方がいい」
「え!? それって」
立ち上がりかけて、今はいないという指摘を思い出す。アーレンも警戒している様子はない。
「美咲。アーレン達はあなた達の安全を見守るためにここに残っている。しかし、今話している内容は少々厄介事を含んでいる。あなた達が巻き込まれない為にも、どうか聞こえないふりをしていてくれないだろうか」
「…………はい」
有無を言わせぬアーレンの言葉の力強さに、美咲さんは最小限の返事で答え、寧亞ちゃんを抱えてテレビに戻る。
アーレンは見張りがいると言うがしかし、部屋からは喫茶店の看板どころか、通りの景色すら見えない。アーレンはいつ気付いたのだろうか。
そういえば。
「アーレン? 最初に出かけた時、警察署に行ったんだけど、わかるか?」
「ああ。昨日タークマがパソコンで見せた建物だろう」
「なんで、あの建物に入るのを嫌がったんだ?」
「ああ、それはな……」
喫茶店の看視者に気付いたのも、やはりあちらの世界の力なのだろうか。
説明を待ったが、アーレンから聞かれたのは、先ほどまでとは違う、歯切れの悪い言葉だった。
「あれは、なんというか……明確な敵意のようなものが見えたのだが、はっきり言うと、勘だ」
「勘?」
「うむ。以前から敵の気配には気付きやすい方だったが、警察の時や今は、はっきりと敵意の塊が見えた…気がした。建物の壁を透かして見える、というのも変な話だが」
「それも何かの術……稜術の一つなのか?」
「どうだろうか。アーレンが契約した精霊が扱う術ではないと思うが……こちらに来てからだ、あんな感覚で敵の存在を知覚できたのは」
敵意、敵の存在と断言する以上、手結署に敵がいることはアーレンの中で確定のようだ。アーレンの中で確定なら、その真偽を確かめる必要はない。
「昨日の、本郷って刑事は」
「ああ。奴はタートスの小隊だ。下三等兵のアーゴノといったかな。力は強いが鈍重な動きしかできない。奴一人をアーレンの捕獲任務に向かわせる辺り、タートスの無能ぶりは如何なく発揮されているようだ」
「やっぱり敵か……」
やはりすぐに戻ってきていてよかった。見張りがいなくなったといっても、アーレンに動きがないのを見て増援を呼びに行っただけかもしれない。
その対応もある。これからずっとこそこそとあいつらから逃げる生活を続けるのも気に食わない。
「アーレンは、これからどうしたい?」
「これから?」
敵を倒す。トゥベロンに戻る。仲間を探す。家族に会う。やりたいことはたくさんあるはずだ。
俺にできるなら、可能な限りその望みを叶えてやりたい。どこまで、何ができるか知らないけれど。
アーレンは花の茎のように細長い指で唇を押さえる。ややあって、
「唐揚げが食べたい」
「………………うん?」
「スパゲッティもいろいろ食べたい。ステーキももう一度食べたいし、本で見た餃子もカレーライスもパエリアも食べてみたい」
アーレンの形の良い唇の端からよだれが垂れる。それをびっと拭い取る。
「美咲が焼いたケーキも食べたい。ネーアともっと遊びたい。…………タークマと、たくさん話がしたい。それがアーレンのしたいことだ」
俺を真正面に言う。おい。どれだけ素直なんだこの子は。
「……変だろうか?」
「いや、変じゃない……けど。仲間もこっちに来てるんだろ?」
「おそらくそうだろう。ただ……」
言い淀む。こめかみに手を当てて、言いにくそうに続ける。
「心配ではあるが、あまり強い絆があるとも思えないんだ、彼女達とは。アーレンが前線に出ることが多くて関わりが少なかったせいだと思うが」
「家族は……?」
「アーレンに帰る家はない」
俺の投げかけを憮然と打ち落とす。
あの夜のこと、と小さく前置きをして、アーレンが話し始める。
「タークマに抱きかかえられていた時は、敵だと警戒した。だが、あなたは何もしないどころか、会話をしようとしてくれた。言葉も、文化も、何一つ分かり合えない不審な人間を相手にだ。あんなに寄り添おうとしてくれた人は久しぶりだった……初めてかもしれない」
頬がほんのり色づく。彼女に自覚はあるだろうか。
「タークマ……生まれた世界よりも、数日過ごしただけの人々を大切に思うのは、おかしいだろうか?」
「……………………」
俺は自覚がある。絶対今、めちゃくちゃ赤い。なんで、こう、こっぱずかしいことを臆面もなく……!
「…………おかしいかもしれない。けど、俺は嬉しい。ねえ美咲さん!?」
これは逃げてもいいだろう。いいよな? これに真正面からがっぷり四つで相手する度胸はない!
「……寧亞ちゃん、おにぎりマンと雑菌マンのどっちが好きー? ママはおいなりマンかなー」
「逃げても耳真っ赤なの見えてますからね!」
「ふふっ」
笑い声。慌てて、アーレンが口元を手で覆う。
「いいんだぜ、笑って」
「……そうだな。ふふっ、はははっ!」
小さなことで。心から笑うアーレンの姿に、こちらも頬が緩む。
俺はアーレンほど正直には言えないから、心の中でだけ言わせてくれ。
アーレン。やっぱり笑顔が一番可愛いよ。
その夜も、アーレンと話し合った。
アーレンが、この世界での穏やかな生活を送りたいというのなら、それが今、俺が守りたいものだ。
その想いも深くした。
☆☆☆☆☆☆
「いってらっしゃーい」
「いっえらっあいー」
見送られて、今日も出社する。入社からわずか半年だが、こんなにいつもと違う通勤時間は初めてだ。
「おはようございます」
「おはようさん。今日はいつもより早い……」
朝番の守衛さんが新聞から顔を上げて固まる。俺はこそこそせずに立ち止まる。
「僕の知り合いです。営業2課の泉課長には話を通してあります」
「アーレン・ハーファーハイトです。本日はよろしくお願いします」
頭を下げると、金髪の先がわずかに首筋から横に垂れる。
「あっ、はあ……よ、よろしくね」
じいさんよ、年甲斐もなく照れるな……しかし、こんな美少女を見たらそりゃ照れる。
今日の服装は、アーレンがこちらの世界に来た時の服だ。彼女の正装であり戦闘服。ただし、長い髪は美咲さんに頼んで後頭部で巻くように束ねている。それでも収まり切らない毛先が垂れ下がっているが、ほっそりとさらけ出されたうなじの艶めかしさを強調するアクセントになっている。ちなみに傘は持っている。
ロッカールームには寄らずに営業2課へ。まだ7時過ぎだが、既に竜先輩がパソコンを立ち上げていた。これは誤算だ。
「おっすー。アー…あ? あー!?」
「おはようございます、竜先輩」
「おはようございます。失礼します」
金髪美少女の顔を見て固まり、言葉を聞き目を丸くする。だが今はそれに指摘して面白がる時間ではない。
まっすぐ泉課長のデスクへ歩く。
泉課長はキーボードを叩くでも、書類を睨みつけるでもなく、ただ腕組みをして椅子に座っていた。俺が真正面に立つのを待って、口を開く。
「おはようございます、荒船くん」
「おはようございます。朝早い時間にお呼び立てして申し訳ありません」
いいですよ、と小さく返事をする間も、視線はもうアーレンに向いている。
「こちらの方が、メールに書いていた?」
「テ。アーレン・ハーファーハイトであります」
右手指で唇に触れ、顔の前で上から線を描いた後、右足を下げて跪く。これがトゥベロンでの敬礼というか、上官に対する礼だそうだ。
デスクの書類の山を挟んで跪き、見えなくなってしまった来訪者に、泉課長は苦い顔になる。それがアーレンに見える前に平静に戻り、キャスターチェアーから立ち上がる。
「お客様がいらっしゃっているのに着席のままは失礼でしたね。えー、はーふぁーはいとさん、でよろしいでしょうか。どうぞ、お立ちになってください」
言いづらそうに名前を呼ぶ。それに応えてアーレンも立ち上がり、気を付けの姿勢になる。
「……荒船さん。朝のうちに話がしたいというのは、彼女のことでしょうか?」
前夜のうちにメールで連絡したことだ。アーレンと方針が決まったのが夜だったので、個人的なアドレスに連絡することになったのは申し訳なく思ったが、無理な願いに課長が合わせてくれた。
自分を含めて何かと迷惑をかけることが多いB班だが、小言を口にしながらも必ずフォローしてくれる。こんな人を理想の上司とか、上司の鑑というのだろう。
そんな彼女の仕事に、仕事以外のことで迷惑をかけたくなかった。
「これを受け取っていただきたいです」
封筒を差し出す。課長が表書きを見る。
「……湊くん!」
「へーい! ただいま!」
こういうことが起こるから朝早く、誰もいない時間がよかったのだが、こればかりは仕方ない。
竜先輩が課長の横から封筒の表書きを読む。
「『…表』。なんて読むんスかこの字」
「これが読めないなら、君に書いてもらいたい文書のことよ……」
「あ、辞表! おい泉それどういう意味、っておいおいおいお前! 琢磨! 辞めるの? なんで!?」
「一身上の都合です。すみません」
課長は面白くもなさそうに、封筒を蛍光灯の明かりに透かしたり、振って中身の存在を確かめたりしている。
「荷物はすぐに運び出しますが、警備技能研修で貸与された防弾防刃チョッキだけ、しばらく返却を待っていただきたく……」
「ふうん……ということは、辞職理由は『手結警察署を襲撃するため』かしら?」
ギク。心臓の下半分が固まる。
図星のようね、と顔色も変えずに課長が続ける。
「昨日、湊くん達が社に戻ってから話を聞いたわ。手結署の怪しい生活安全課の刑事がいて、荒船くんの同居人を狙って動いているようだ、って。どういう事態に…あるいは事件に首を突っ込んでいるのかわからないけれど、警察を襲うなんて危険な行動――とりわけ、うちは仕事柄警察と協力することもあるから、会社の迷惑にならないように、ということなんでしょうが……」
図星だ。
アーレンは、『俺達との普通の生活』を望んだ。だが、そのためには本郷もといアーゴノを筆頭にアーレンを狙っている敵を放置してはおけない。
あちらはアーレンに手出しするタイミングをまだ計っている段階だ。ならば、自由に動けるこちらが思い切って攻め入っていくのも悪くない。直接の戦闘になったら勝機は十二分にある、とアーレンは断言した。
問題は戦術的な面ではなく、社会的な面にあった。
敵は仮にも警察を名乗っている。どう入手したかは定かでないが、外身だけでも警察手帳を手に入れている。入り込んでいるのも数人ではないはず。警察官複数人を抵抗できないようにした後で、下手人がお咎めもなく普通に生活できようはずもない。それでは本末転倒だ。
なので少しでも周囲に迷惑がかからないようにしようと、アーレンと見解が一致し、辞表の提出に至る。
このことは美咲さんにも話しておらず、そして話すつもりもない。彼女や寧亞ちゃんには申し訳ないが、彼女達は元々無関係だ。これ以上、平和な日常を脅かしてはいけない。
課長の言葉を借りれば、『襲撃』は決行する。決行後は、二人で姿をくらまして――
ビッ ビリッ ビリビリリッ
「あっ」
振り向きもせず肩から後ろへ投げ捨て、縦に裂いた封筒が散らばる。相手にする価値もない、とでも言いたげに、課長は目を閉じている。
「受理しない理由を教えてあげます。一。当課の業務を円滑にするため。
B班は現在、非常に良いバランスで成り立っています。湊くんは顧客受けは非常に良いですが、調子に乗って羽目を外してしまう傾向が昨年度までは目立ちました。それが後輩二名が入る班編成になった今年度からは落ち着き、営業成績を更に上げていきます。
その一因は、湊くんの悪ふざけや脅しに乗らない荒船くんの存在です。君が下から突き上げる存在になっているからこそ、湊くんの悪傾向も抑え気味になっているんです。泥田くんが適度に言いなりになってガス抜きをしてくれている面もありますが、それを適度に抑えてくれる荒船くんがいなくなったらバランスが崩れ、泥田くんは潰れるでしょう。湊くんは勤務態度不良が改善されず、減給、配置転換、懲戒処分……等が考えられます。そうならないためには、君が必要です。
また、営業面でもあなたの存在は不可欠です。『荒船さんという人が丁寧に説明してくれた』『わからなかったら、ちゃんとどこがわからないかを確認して、教えてくれる』『ちっちゃい強面の兄ちゃんと一緒に来た兄ちゃん、ちっちゃいのに負けないで相手してくれてよかった』など、など。あなたの営業で契約してくれたお客様の声の一部です。『荒船さんじゃないと更新しない』とまで言ってくれる方もいます。あなたがいなくなることで、不安になる事業者や家庭があるかもしれません。
あなたが前向きに新しいことに挑戦したい、というなら、そういったお客様も快く送り出してくれるでしょう。ですが、辞めなくてもいいのに、問題を自分で大きくして辞めてしまっては、ただただ悲しい気持ちになるとは思いませんか?」
「それは……………………えっ? 辞めなくてもいい?」
正論だが、巻き込むわけにはいかない……と黙りこくりかけた俺も、さすがに終わりの言葉を聞き逃さなかった。
竜先輩が、あのさ、と課長の肩を叩く。旧来の友達でもあるかのように、
「ちゃんと説明してあげないと、わかってもらえないぜ?」
「う、うるさいわねっ。これから話すところでしょ!」
課長は竜先輩の背中をバチン! と叩いてから、ばつが悪そうに切り替える。
「続きは休憩室で話しましょう。大っぴらに話すことではないですし」
休憩室は同じフロアにある。アクリル板の仕切りの中に四人掛けの低いテーブルとソファ、自動販売機があるだけのスペースだ。隣の喫煙所は朝でもそれなりに人がいるが、この時間にここに立ち寄る人は少ない。
「どうぞ、アーレンさん。荒船くんはコーヒーでいいわね?」
「おお、これはかたじけない」
「すみません。ありがとうございます」
「……さっきは荒船くんの良いところを伝えましたが、悪いところも伝えておきます」
自販機で買った缶をテーブルに置き、泉課長が切り出す。
「自分一人で問題を抱え込むところです。昨日の電話で『会社も力になる』と言ったはずなのだけど?」
「仰る通りです……」
ぐうの音も出ない。泉課長は自分のコーヒーを一口含み、とにかく、と続ける。
「手結署の件については、私達にも強力できることがあります。連携して取り組むわよ? 返事は?」
「はい!」
「いいでしょう。ではその件だけど、妙だという噂はこの数日で聞いているわ。あなた達だけでなく、他からもね」
缶コーヒーを口に含んで、泉課長が切り出す。
「手結の地区詰所の人達が定期連絡を取ると、生活安全課だけが要領を得ない応答をするっていうのよね」
オルトロックの警備は、ビルなどの契約者の建物に警備員として常駐するタイプと、契約者の建物に設置したセンサーや電子錠に異状が起きた際に発報を受けて出動するタイプがある。各地の契約者の下へ迅速に出動できるよう、自社ビル外の各地区に設置された警備員待機場所が地区詰所である。何事もなければすることがないので、詰所待機の人員はトレーニングをするか、関係各所への定期連絡をするのが日課だ。
「まず電話に出るのが遅いし、人員交代とか追加の話も聞かないのに、出る人出る人がみんな新人みたいな、何の連絡かわかっていないような対応をするらしいわ。番号登録もしてあるはずなのに、『何者だ』って言われた人もいるそうよ」
竜先輩が本郷と話した雑感と近しい意見だ。あの男だけでなく、不特定の生活安全課員となると、アーレンの敵は複数で警察に入り込んでいるのだろう。
「やっぱ怪しいと思ったんだよなー。つーかそれだと、俺らが会ったデカブツ以外にも妙な署員がいるってことか?」
エナジードリンクをあおりながら、竜先輩も同じ疑問を口にする。
「不審な署員の出現……それについて、荒船くん、あるいはアーレンさんが何かを知っていると見ていいのかしら?」
「うむ」
物欲しげに見入っていたおかげで課長に買ってもらった粒入りオレンジジュースをちびちび飲みながら、アーレンが頷く。
「おそらく、タートスの小隊及びケーロルだろう。敵部隊に表面上気付かれずに潜入する策としては、言葉の精霊の稜術で記憶操作をするのが直感的でわかりやすい。あの場に言葉の精霊と契約している者がいたかまでは把握できていないが、捕虜の尋問にも重宝するから中隊に一人は配属を義務付けられているし、小隊にもいた方が当然便利だから、タートスの部下にいてもおかしくはない。
手結署の人間の記憶を操作して『元からいた人間』だと思わせれば、組織に居座ることは難しくないだろう。警察が公権力だということを知れば、アーレンを探しているらしい奴らがその力を行使したいと思うかもしれないしな。潜伏先としては悪くない選択肢だ」
「成程な……でも、警察がどんな組織かまでわかるのかな?」
「言葉の稜術が使えるなら、街の人間から聞き出せるだろう。聞き出す方法は暴力的な脅迫かもしれないが」
「聞き出すっていっても日本語が……そういえば、本郷――アーゴノは普通に話してたけど」
「言葉の精霊は本来は言葉を司るからな。他言語の翻訳を自動でするのは基本中の基本だ。トゥベロンでも基本はそちらの目的で使われる稜術だ。術を仲間内にかければそれで済む」
「そうなのか。アーレンもその精霊と契約してれば苦労しなかったのに」
「アーレンは、タークマに言葉を教えてもらって良かったぞ? 差し詰め、日本でのアーレンの契約精霊はタークマといったところかな」
「……なんか『契約』って言われると、変な意味に聞こえるな……」
「? どういう意味だ?」
「いや、何でもない」
ということは、敵は警察という隠れ蓑は得ている。しかし、定期連絡という頻度の高い仕事内容について把握していないということは、それを教えてくれる相手には恵まれていないということだ。アーレンにとっての俺のような、協力者は得られていない。
「実質的なつながりは、この世界では持っていないってことか。なら、稜術で操作した記憶を元に戻せば、奴らを捕まえたりしても影響は少ない……そういうことですね?」
それならばこちらが攻め込んでも正当性が出る。向こうは元々存在しない人間なのだから、法律上の問題もない。だから『辞めなくてもいい』のか。
そう理解して泉課長に水を向けるも、課長は固まっていた。竜先輩もだ。はて? え、もしかしてさっきのやりとりをイチャつきと捉えられたのか? そりゃ俺もちょっとドキッとしたけど……いやいや。
「あ、そうですよね。アーレンが急に日本語上手になってるから! いや、これは俺もびっくりしたんですけど、どうやら漫画勉強法が合ってたらしくて……あれ? 課長ってアーレンの語学力知ってましたっけ?」
「もしかして、アーレンの言葉は変だったろうか? 申し訳ない。勉強はしたのだが、日本語は会話に用いる助詞や助動詞が複雑すぎて……この話し方が一番話しやすいのだ。お聞き苦しいだろうが、どうか寛容に処していただきたい」
まさか話しやすい理由が『自分に似ているキャラの口調だから』とは思うまい……内心感じる俺をよそに、竜先輩がようやく、口をもごもごさせる。
「喋り方はまあ、いいんだけどよ。……精霊とか、記憶操作とか、…………マジに言ってる?」
そっちか。それもそうだ。まあ、冷静に聞けば疑うべき発言なので、先輩の言葉もごもっとも。俺もよく鵜呑みにしたものだが、それは冷静でなかったからだろう。
俺も昨日のうちに見せてもらわなければ、ここまで自信を持って会話を広げなかった。
「そうか、稜術のことをまだ話していなかったな。トゥベロンでは、様々な事象を司る精霊と契約して――」
「アーレン。昨日やったの、見せてあげた方が早いし、わかりやすい」
遮られ、一瞬ムッとした視線を寄越すが、すぐに頷いて立ち上がる。
「それもそうだな。こちらには百聞は一見に如かずという言葉もある。力の精霊の術をお見せしよう」
自身に満ちた表情を見せて、アーレンはアクリル板の仕切り壁の前に立つ。竜先輩は訝しげな目つきのまま、その動きを追う。
「――――精霊よ」
彼女曰く『精霊への言葉がけ』を一言だけ口にし、プリーツスカートからすらりと伸びる脚を見せつけるように右足を上げる。足裏をアクリル板の壁に押しつけ、
「は?」
壁を上る。
歩くと表現した方が正確かもしれない。右足を壁から離さず、左足で2歩目を踏み出す。2メートルそこそこしかない仕切りはもう二、三歩歩けばすぐ崖っぷちだが、それを進む間も、スカートはひらひらと揺れるだけで、床に向かって大きくめくれるようなことにはならない。まるで重力が、彼女だけ地球の中心ではなくアクリル板の壁に向かって働いているかのように、スカートと壁が垂直の関係を保っている。
『かのように』というか、その通りなのだが。
俺達地上の人間から見て真横に体を横たえた状態で、アーレンがこちらを見る。彼女は『ドヤ顔』という言葉をもう学んだだろうか。多分出てきているだろうな。こちらに向ける表情がそれに当てはまるものになっているのは、自覚していないだろう。
進行方向、本来の天井を正面に見上げ、「下りるぞ」と前置きをする。
仕切りの端を爪先で蹴り、バク宙の要領で回転する。だがそのスピードはゆるやかで、風船を投げたような穏やかさだ。
再び重力方向を本来の床に戻し、ゆっくり、パラシュートを開いた直後の降下隊員か、あるいは亡骸を運びに来た天使のように、ゆっくりとテーブルの真ん中に舞い降りる。
「――――とまあ、こんなところだ」
そそとしてテーブルから下りるアーレンを、竜先輩が呆けた顔で見つめている。固まりっぱなしの泉課長は、ややあってから、パチパチと乾いた拍手をする。そういうんじゃないんだけど。
「このように、どうやら契約した精霊の稜術はこちらの世界でも使える。その前提でいけば、奴らの中に言葉の稜術を使う人間がいるのは間違いないと見ていいだろう」
昨晩、話し合う中でアーレンがもう一度だけ試したいと言ったのが、彼女が契約したという『力』の精霊の術だった。『物にかかる力を司る精霊』だそうだが、俺達の概念で言えば重力などを操る精霊のようだ。アーレンが戦場でも使っていた稜術で、最も信頼に足る稜術でもあるらしい。
にわかには信じがたい現象だが、見てしまったら仕方がない。竜先輩は手の平返しがひどく、「俺にも教えて! 俺にも教えて!」と、完全に子供の反応を示している。泉課長は頭痛でもしそうな複雑な顔で頭を抱えている。
「…………管理職研修が本当に役に立つとは」
「はい?」
「こっちの話。理解しました。手結署の不審については私だけが疑っているわけではないですし、調査に乗り込むための情報としては現時点で信用度が高いと言えます。アーレンさんが持っている情報が正しいという前提で他部署にも働きかけていくことにしましょう。
そこで、アーレンさんにはもう少し知っていることを話してほしいのですが」
「もちろんだ。ここまでの流れなら、あなた達もアーレンに協力してくれるのだろう? ならばこちらも全力を惜しまない。えー、……イーズミ?」
「イーズミ……ごめんなさい。私が名乗っていなかったですね。泉礼名です」
恒例の名刺も受け取る。クリーム色の落ち着いた背景色だが、キャッチコピーにかかるようにピンクの太線が斜めに引かれており、全体にラメ加工がされている。
「礼名か……二文字は呼びづらいな。申し訳ない、レーナとお呼びしてもよろしいだろうか?」
「外国の方ですものね……それで結構です」
「えーと、俺も名刺あげた方がいい?」
「そうだな。竜太郎のも一応貰っておこう」
「んだそりゃ。冷てーなー」
「すまない。竜太郎からは少し、ほんの少しだが、険を感じるのでな」
「まあ、それもそうですね」
「フォローしろよ」
そう言われても難しい。この先輩を数日で信用しろなどと……
自己紹介のやり直しも終わり、情報提供の時間になる。といっても、アーレンも特に情報は持っていない。話せるのは身の上と推測くらいだ。
「アーレンは外国ではなく、この世界とは異なる世界から異界転送術を受けて転送されてきた。あちらではトゥベロン王国の第三王子に仕える私設部隊の人間で、戦闘に関してはそれなりの経験がある。近接武器であれば何でもある程度は扱える。敵についての情報だが、アーレンを転送させたのがケーロルという貴族で、まず間違いなく空間の精霊と契約している。空間の稜術は発動までにかなりの時間が要するが、その効果は絶大だ。他の兵士を盾にして時間を稼ぎ、空間の稜術の一撃で決めるのが現代戦闘で最も効果的な戦術で、さすがにあちらもそれは理解して実践していた。ケーロルは言葉で精霊と交流する方法を取るから、まずは捕らえて喋れないようにしてしまうのが一番だ。逆に、奴がいない場で交戦状態に入るのは避けたい。奴が陰で呪文を唱えていても気付けないからだ。効果範囲を狂わせた以上、術の発射源の奴が巻き込まれてこちらに来ている可能性は非常に高い。もちろん、奴が一人で元の世界へ逃げ帰っていなければだが……もう一人重要人物といえるのは、」
「ま、待ってアーレンさん。ちょっと待って」
「待って? すまないレーナ、アーレンは間違っていたか?」
怒涛の勢いで解説を始めたアーレンに、俺達の処理能力が追いつかない。アーレン、本気だ。
「間違ってはいませんが……情報量が多いので、まとめてから、後で教えていただけるとありがたいです」
「うむ。承知した」
「私は、このことについて、他の部署にも相談してきます。B班は今日は内勤ですね? 荒船さん、アーレンさんの持っている情報を整理、文書化して、私とB班で共有できるようにしてもらえますか?」
「はい。ということは、」
「アーレンさんの言う通りなら、あなた達二人だけの問題ではありません。手結署に問題がある状態ならば公共・公益の問題があります。その術というのも事実ならば、非常に危険なものだとは思いませんか?」
異界転送、記憶操作。この二つだけでも十二分どころか二十分に危険だ。
課長は大きく頷く。
「無闇に情報を広げる必要はありません。ですが、組織的に対応していきましょう。いいですね?」
「――はい!」
アーレンが求める平穏な日常。
それを守るためには、戦わなければならない。
「おはようございまーす。琢磨、昨日は大丈夫だった? って、え!?」
「努だったか。改めて自己紹介しよう。アーレン・ハーファーハイトだ。よろしくお願いします」
「あ、はい、えっ? え?……よ、よろしくお願いします」
デスク越しに挨拶を済ませた努が、戸惑いのまま座る。隣の池さんの表情も、同感だと語っている。
「まさか連れてくるとは思わなかったもんなあ。しかも、ホントにとんでもない美人だ」
「琢磨が何やってるか聞いたら、もっとわけわかんなくなるぜ」
面白そうに竜先輩。
「え? え? 何やってるの琢磨」
「……これから襲撃する予定の、異世界からやって来た異能力を持つ敵の情報を整理してる」
「…………え? ええ? あの、池さん?」
「どうやらガチらしい。泉課長公認の仕事だ」
えええ? と努は混乱を深めただけだった。それでも、協力してもらわなければならない。
「アーレンが転送された現場にいた敵の名前、身体的特徴、戦闘時の使用武器は書けたんで、あとはわかってる範囲での契約精霊ですかね」
「というよりも使う可能性が高い稜術だな。ケーロルが空間の精霊だから、異界転送の他に、指定空間破壊、物体転送に注意だな」
「具体的にどういう現象?」
「空間の座標を指定して、その空間に存在する物を破壊する。見えない巨石に圧し潰されるように見えるな。物体転送は、瞬時に物体を離れた場所へ移動させる術だ。攻城砲を一瞬で引き寄せたり、逆に遠くへ送ったりできるが、見えない範囲のやりとりは異界転送の次くらいに難しいらしい」
「テレポーテーションとかトランスポーテーションって感じだな」
「琢磨が中二病になってる……」
努が口をぱくぱくさせる。仕方ないだろ。こうなっちゃったものは。
「B班。全員揃ってるわね」
泉課長が戻ってきた。まだ始業時間に入ったばかりなのに、一仕事やり切った表情だ。
「警備16課に連絡が取れました。装備を人数分借りるのと、後方支援としての協力を得られました」
「えっ? えっ? 課長、どういうことですか?」
「まだ泥田くんは聞いていないんですか?」
「今来たばっかりでして。説明しときます」
「お願いしますね。荒船くん、資料の方はどうですか」
「もう少しでできあがります。紙ベースであった方がいいですね?」
「その方が早いわね。問題が問題だから、10時までに印刷したいわね。ああ、警備16課の分も二、三部コピーしてもらえる?」
「わかりました」
「えっっ? ええっっっ!?」
午後。手結警察署前。
「アーレン。まだ敵意は感じる?」
「ああ。何者かまでは知覚できないが。この建物にアーレンに仇為す敵が潜んでいることは確実だな」
警備部も中で細分化されていて社内での人数比率が一番大きいことは知っていた。それでも警備16課という数を聞いた時は驚いた。とにかく、そこが協力してくれるらしい。
警備16課が貸してくれた装備は、まず防弾・防刃ベスト。その上に羽織り、かつ入る時点では怪しく見えないようにスーツ仕立てになっている耐火性ジャケット。耐刃性もあるゴムグローブ。伸縮式の警棒。万が一のためのスタンガン。そして、何かあった時に開けろと託された大きなスーツケース。これは一つきり、他は人数分だ。ただ、アーレンは『慣れない装備を着込むと動きにくくなる』と嫌って、ゴムグローブと警棒だけだ。代わりに家から持ってきたビニール傘を携行し続けている。
警備16課は署の裏口そばの駐車場に車を置いて待機している。俺達営業2課B班の仕事は『生活安全課の異常を確認すること』ではあるが、相手はアーレンを狙って行動している。アーレンの話す通りの展開を経て現在に至るのなら、交戦が起きてしまう可能性もある。それに備えた装備を用意しているらしい。
「そりゃ訓練はしたよ? したけどさ……自衛隊じゃないんだから、なんでこんな装備して突撃することに……」
「なんだ。トムって現場初めてだっけか?」
「警備員みたいな仕事はしましたけど、防弾チョッキまで着てなんて初めてですよ」
「琢磨は?」
「俺も似たようなモンですよ。戦闘になる前提の現場は初めてです」
「えっ。戦闘になる前提なの? どうすんの、三人だけで」
「アーレンも数に入れているか? 四人だぞ」
「確かにアーレンさんは便りになりそうだけど……でもさあ」
「言葉不足だった。『なるかもしれない』だよ。俺達の役割は生活安全課がおかしいかどうか見るだけなんだから、戦闘は16課の領分だって。大丈夫大丈夫」
気休めを言ってみたが、俺は今日、この場で『敵』を打ちのめして、平和な日々を送りたい。
もちろん、武器を持って戦うような修羅場が慣れっこなわけはない。学生時代に喧嘩に明け暮れていたわけでもないし、山奥に籠って修行していた時期があるわけでもない。その代わり、入社後の熱の入った実技研修には一生懸命取り組んできた。竜先輩くらいなら頑張れば勝てるだけの自信はついている。
アーレンとこれからも一緒に過ごすためには、どうせ避けて通れない道だ。なら、早いに越したことはない。
「そうそう、琢磨の言う通りだ。ちょっと話聞くつもりで行ってこい」
池さんは署の出入りの監視と16課との連絡係で、入り口付近で待機だ。中に入るのは俺、アーレン、努、竜先輩の四人。
「さあ~、大暴れっすかなー!」
「池さん。主旨を理解してない人がいます」
「大丈夫だ。竜は馬鹿だけど、仕事はちゃんとやるだろ」
普段は確かにそうだが……
「心配するなタークマ。あの人、今は嫌な感じはしない」
「だといいけど」
午後3時。作戦決行の時刻だ。
「よし。一五○○、ブラボー2から5の四名、突入します!」
『ブラボー1、了解』
竜先輩が通信機……というかスマホで連絡し、俺達は動き出す。
突入といっても、窓を叩き割って飛び入りはしない。ごくごく普通に正面玄関から入る。防炎ジャケットは普通のスーツと見た目は変わらないので、ただのサラリーマンが入ってきたようにしか見えない。
「あ、玉田ちゃんいるじゃ~ん。おひさ~」
「げっ、湊……」
竜先輩の軽い挨拶に、受付に座る女性警察官が反応する。あからさまに嫌がっている。
受付の対応は竜先輩の担当になった。単純に勤務年数が長く警察への出入りに慣れているからだが、大丈夫だろうか。
「玉田ちゃん玉田ちゃん。お願いがあるんだがね?」
「何ですか湊くん。仕事中なんですけど」
「仕事のお願いに決まってるじゃねえか。あのさ、生活安全課ってあるじゃん。あそこの全員の顔と名前がわかる書類ってある?」
「ちょっと待って、そっち側回るから。なんか込み入ってそうだし」
「センキュー」
玉田さんは一般の受付窓口から出て、竜先輩を手招きする。受付から少し陰になる位置に移動してから、竜先輩に尋ねる。
「……顔と名前がわかるって、履歴書みたいなのでいいの? そりゃあるけど、個人情報だってのは湊だってわかってるわよね?」
「わーってるよ。変だなーと思って確認しに来ただけ。あの新入りの、本郷だっけ? あいつとか怪しいじゃん」
「本郷さん? 全然新入りじゃないわよ。あんただって先月だっけ? 挨拶してったでしょ」
「あんな顔だったかなーと思ってよ。別の本郷が新しく入ってきたのかと思ったわ」
「ないない。本郷さんは一人だって」
さりげなく情報を引き出す。竜先輩が記憶違いをしている可能性もゼロではないが、そうでなければ、彼女の反応は『記憶を操作されている』と捉えても筋違いではない。
「まあ調べるのは俺の自己満足でもいいからよ。その履歴書ちょっと貸してくれよ。すぐ返すから」
「だからあ、そんな『ほいっ』『はいっ』って出し入れできるモノじゃないわけ。手続きとかー」
「そこをなんとか、サッと! 場所はわかんだろ?」
「出そうと思えばいくらでも出せるけどー。でもあたしにも立場ってモノがー」
煮え切らない様子に、竜先輩が耳打ち。ごにょごにょといくつか話すと、玉田さんの顔が見る見る赤くなっていく。
「あっ、あんたねえ! ……う~、わかったわよ、やればいいんでしょ~~!」
赤い顔のまま、受付の中へ駆け込む。ほんの2、30秒の間ガサゴソと音を立てて、飛んで戻ってくる。
「はい、24人全員分! 2分後に取りに来るから、さっさと目ぇ通して! ハイスタート!」
「恩に着るぜ、玉ちゃ~ん!」
玉田さんが受付に戻るや否や、死角になる位置を確保して、履歴書を廊下に広げる。スマホのカメラで、慣れた手つきで連射する。
「うっし、センキュー玉田! マジありがとう!」
「早っ。貸し1だからね。ちゃんと今度デートしなさいよ」
「おーいえ」
親指を立てて返答にし、竜先輩が戻ってくる。
「そっちで作戦確認すっぞ。画像LINNEで送っから」
「いやっ、竜先輩……デートってどういうことですか!? あの人、カノジョですか? 先輩がそんな奴だったなんて……!」
「努。気持ちはわかるけど、今はアーレンの方が大事だから」
「そりゃお前はそうだろうね! くそ、どいつもこいつも、俺を置いていきやがる……!」
「そんな部下に先立たれる士官のような……」
「しかもそれをツッコむのがアーレンさんって……! 琢磨! なんでお前のカノジョはこんなに理解があるんだ!?」
「めんどくさい奴だな……」
二つある階段のうち、生活安全課の様子を見取りやすい位置の階段を上がっていく。
「いた。本郷猛……全然違うな。細いわ色白だわ、面影もない」
「署員の記憶操作を施した上で入れ替わっている……そんなところだろう」
「入れ替わる前の本人は……」
どこかに監禁している。それくらいの処理であってほしい。それ以上は考えたくもない。
「24人なら、あの場にいたタートスの部下とケーロルで人数が揃うな。全員が術に巻き込まれたとは限らないが」
「ケーロルってのが身長180センチ前後、痩せ型、20代後半の細面、髪は赤茶色、瞳は茶色……こいつに呪文だかを唱えさせなければいいんだろ?」
「うむ。ケーロルとタートス以外はほぼ雑兵、実践的な精霊との契約をしている者はほとんどいないだろう。契約できるかどうかも才能だからな。後は言葉の稜術使いだが……警戒すべきは記憶操作だが、その場しのぎに使える術ではない」
生活安全課に着く前に作戦を確認する。
「本郷に顔が割れていない努が一般人を装って問い合わせをし、全体を観察する時間を稼ぐ。アーレン達は課の人間がどの程度入れ替わっているか、ケーロルがいるかどうかを確認する。ケーロルがいれば奴を、いなければ努が手筈通りに動いて言葉の稜術使いをあぶり出す。ケーロル、言葉の稜術使いの順で、アーレンが口を封じる。後は全員組み伏せて捕縛、ケーロルがいなければ尋問して居場所を吐かせる。奴の稜術の攻撃力だけが懸念材料だからな」
「あれ、そんな攻撃的な作戦だったっけ?」
聞いてないよ? という顔で努が戸惑いを見せる。そういう作戦だったが、努にちゃんと伝えたら尻込みしそうだったからな……
「トム、大丈夫だ。お前は時間稼いだら、引っ込んでていいから。俺が暴れる」
「そうだ。不安なら、元気の出るおまじないをアーレンが教えてやろう。努は仲良しだからな」
「え? な、仲良し……」
真面目な口調で告げられ、照れる努。両手を上げろ、という促しにすいすい応じて、パチン!
「イェイ! どうだ、元気が出ないか? アーレンはこれが好きでな」
ニコニコと自慢げに話す。努は照れたままの表情でこちらを見て、おいそんな目で俺を見るな。
「一体どういうプレイを……」
「プレイじゃないけど、紆余曲折ありまして……」
4階の手前で足を止める。もうすぐそこは生活安全課だ。
「では努。手筈通りに頼むぞ」
「うん……まさかとは思うけど、いきなり銃で撃ってきたりはしないよね?」
「銃? ああ、バーンが使っている武器か。あんな武器はトゥベロンにはなかったからな、大丈夫だろう」
「でも警察は持ってるし……」
敵がトゥベロンから来ていて、名刺や警察の業務すらろくに調べていないのだから、拳銃の扱いにも精通してはいないだろう。
「大丈夫だよ努。俺と先輩が援護するし、生活安全課がクロだってことは池さんにも連絡済みだ。警備16課もスタンバイしてくれてる」
「ホントだね? 信用したからな」
最後だけ『はず』を省略したが、まあ大丈夫だ。
「えー、こちらブラボー2。一五一八、ブラボー3が突入します」
「う。ええい、ままよ」
努が単独で踏み込む。踏み込むといっても、ただただ普通に課の窓口に挨拶するだけだ。
「すみません、生活安全課はこちらですか? ……あのー? ちょっとー? ねえー! おたく! 生活! 安全課! ですよね!?」
詰所からの連絡に応対がなってないというのは本当のようだ。なかなか応答がないことに痺れを切らした大声に、ようやく二、三人が動く。
「何だ。誰だ貴様は」
「誰だって……そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」
「我々は忙しい。用があるなら、他の階へ行け」
「そんなこと言われても~。あ、斉藤さんに用があるんですが、あなたの名前は?」
「……飯島だ。おい、斉藤、いるか!」
努がごちゃごちゃ、ゆったり喋る。その間に、見える範囲の安全課員を数えながら、その人相を竜先輩が写した履歴書と照らし合わせる。
「違う、違う、違う……どいつもこいつもいない顔ばっかりだ。そして、アーレンが教えてくれた兵士の特徴には当てはまる」
「ああ。間違いなく、タートスの部下共だ。タートスもいる……しかし、ケーロルがいない」
やや焦った声で人数を数え始める。努が流れの通りの台詞を続ける。
「ああ、斉藤さんじゃなかったかな。えーと、望月課長だ。望月課長いらっしゃいます?」
「望月課長……いや。課長は今はトイレに行っている」
「トイレの場所は?」
ケーロルが名乗るなら課長だと踏んでいた。身分やプライドに固執する貴族のボンボンの穀潰し(アーレン談)が仮の身分とはいえ、中二等兵ごときの下に就くわけがないからだ。
「反対側の階段の手前だ。竜先輩、池さんに連絡を」
「おう。こちらブラボー2。東1階段を包囲、トイレに警戒。コードキロ(K)が出てくる可能性がある」
「いないならまずは、言葉の稜術使いだ」
事前の打ち合わせ通りに、努の携帯電話を1コールだけ鳴らす。努は一瞬だけポケットに触れ、そしておもむろに叫んだ。
「Hey,●uckin’guys! Can you hit me? You may not do it,’cause you are coward!」
「な、何だ?」「どうしたんだいきなり」「何て言ってるんだ?」
おそらく初めて聞く言語にうろたえる安全課。後方の一人が一歩前へ出る。
「ちょっと待ってくれ。願いたまえ、その御身に捧げし詩歌の肉塊、助けなる者の施しと――」
大男達の中にあっては小柄な男が呪文を唱える。それを耳に捉えて、アーレンが立つ。
「タークマ、援護を頼むぞ。――ラアァァァァァァッッッッ!!!」
わずかに一言を置いて、大きく跳躍。裂帛の気合いと共に、わずかに二歩で他の男達を飛び越え、呪文を唱え始めた男へ到達する。
勢いそのままに言葉の稜術使いの顎へ掌底を喰らわせる。口の中を噛んでもんどりうつ稜術使いを捕まえて、持ってきたタオルで口を縛る。呪文封じのための猿轡だ。
そこまで達成してようやく、周りの男達が声を上げる。
「お前っ……アーレン・ハーファーハイト!」
「いかにも! あなた達が探していたようなのでな、こちらから乗り込んでやったぞ! 命が惜しくば、おとなしくお縄に付け!」
大勢を前に啖呵を切る。彼女の運動神経や力の稜術の強さを考えれば、心配はないように一般人の俺は思ってしまう。
だが、これからも彼女と共に過ごしたいのなら、一般人の俺は捨てよう。
ボゴン
アーレンに視線が集中している隙に、窓口に集まっていた一人の後頭部を警棒で殴りつける。もう一発。
どさりと崩れる音で、隣の男がこちらを振り向く。すぐに怒りの形相に変わった。
「てっめえ……何者だあ!」
「情報共有くらいしておけよ。だからアーレンにこき下ろされるんだぜ」
警棒を握ったままの拳を顔面に叩き込む。飯島と名乗っていた男はよろけるが、体勢を崩すまでには至らない。すぐに反撃の右拳を打ち込んでくる。
左腕でガード。実技研修以来の鈍い痛みだ。先週の話だ。大した痛みではない。
左腕を伸ばして飯島の肩を軽く押す。距離を取ると同時に右腕を引いて、溜めを作る。
「ふぅっ!」
警棒を振り下ろす。俺にもこんな思い切りの良さがあるのか、と驚くくらいの勢いをつけて殴る。
こめかみのいい所に当たったようで、飯島の体が倒れていく。残り、22人。
奥へ突入したアーレンへ目を向けると、一人の男と対峙していた。
身長180センチ超、筋肉質、黒髪の短髪、頬にいびつな傷痕。アーレンの情報に照合すると、
「タートス。あなたを倒せば、アーレンをつけ回す理由はなくなるのか?」
「残念ながら。お前をお探しなのはケーロル・ノーベンタイン閣下だよ」
ニヤニヤと汚い笑みを浮かべながら、タートスは否定する。
「閣下のご機嫌を取りながら、日頃目障りなお前を痛めつけるチャンスがあるってのは最高だけどなあ! どうしてやろうかねえ。両手を縛って散々いたぶった後、俺の部下全員の慰み者にしてやろうか! グアッハッハッハ」
高笑い。アーレンは、くだらないと肩をすくめて一蹴する。
「すぐ下品な発想に到達する……あなたの体には胴体がないのか? きっと戦場でも腰を振ってばかりだから成果を挙げられぬのだろうな。まだボルボックスの方がまとも思考回路を持っているぞ。オズーニの腐乱死体が頭蓋から流れてきそうなその鼻が、あなた自身の汚い尻の穴の臭いしか嗅げない体にしてやろうか?」
アーレンの罵詈雑言|(オズーニが何かはわからないが)タートスの口はあんぐりと開き、やがてわなわなと震えながら食いしばる。
「上等だ! 汚ねえ尻の穴、嗅がせてやるよ! テメエにな!」
金属バットを手に取り、タートスが襲いかかる。得意武器は棍棒とあった。おあつらえ向きの凶器だ。
振り下ろされる鈍色の棍棒を、アーレンは傘で受け流す。剣道の返し面の要領で手首をひねり、側頭部を狙う。
さすがは小隊長というべきか、敵もさるもの。顔を動かしもせず、正確に傘を掴む。ニヤリ、と下卑た笑みを口元に貼りつかせる。
だが、その余裕は存在しないものだった。タートスが掴んだ時には、アーレンは既に警棒に持ち替えて、腹への二撃目を打ち込んでいた。
「ぐぶ……っ」
腹を折る。が、直後にはバットを下から無造作に振り上げる。アーレンは後方へ飛んでかわす。
「本当に、騎士というか戦士というか……」
どちらの動きにも感嘆を漏らしそうだ。やっぱり能力的には、俺はしがない一般人だ。
「よそ見とは、余裕だな」
今度は俺の腹がへし折られる。
本郷、もといアーゴノだ。
「……どうも、本郷さん。ご注文通り、連れてきましたよ」
「ご苦労だった。では、……死ね!」
熊のような腕が迫る。迫るのが知覚できる程度には遅い。左右のステップでかわし、がら空きの胴体へ右ストレートを打ち込む。
「……こちらの人間はこんなものか」
微動だにしない。鉄板を殴ったようだ。
アーレンは彼らを酷評していたが、腐っても軍人。多少鍛えた程度の俺とは比べ物にならない、強い体をしている。
「ふんっ」
無造作な動きでアーゴノは俺のスーツを掴み、引き倒す。多少鍛えていても、体格の差、力の差は歴然だ。
マウントポジションを取られる。ヤバい。ヒグマに食われるのってこんな感じか。
「あの時、おとなしくあの女を引き渡していればよかったものを。なぜつまらない死に方を選んだ?」
無意味な問いかけ。おそらくトゥベロンでもやっていて、こんなことやってるから大した成果を挙げられないんだろうな。
そりゃ知らないおっさんより知らない美少女だろう。困っている女の子を一人都会のジャングルに放すわけにはいくまい。一緒に過ごして情が移ってしまったのかも。人を守るのが小さい頃の夢だったんだ。実は俺、やっぱりアーレンのこと好きなんじゃないか?
回答はたくさんあるが、ここは一つに絞っておこう。
「つまらなくないぜ。これからたくさんアーレンと話して、思い出づくりするんだからな」
「だから、今ここで――」
バチバチバチバチバチバチ !
アーゴノの体を電撃が走る。
「がはっ……貴様、雷のせい、れいと……」
床に突っ伏して、断末魔のようにうめく。
「悪いな。科学の力だ」
俺の左手には、存在を忘れていたスタンガン。気付いて良かった、本当に。
だが大物を倒したからといって、戦いが終わったわけじゃない。
「よくも、アーゴノをっ」
鼻先をナイフが掠める。刃先が腹に当たる。ヤバい。思わず腹を押さえるが、血は出ていない。防刃ジャケットのおかげか。明日、16課に菓子折りを持っていこう。
手応えがあったにもかかわらず平気そうな俺を見て、ナイフ男が驚きに固まる。そこに、今までになかった音が響く。
ダンッ ダンッ。
ナイフ男が後ろへ倒れる。苦しそうに、腹を抱えている。
「ぼさっとすんなよ琢磨ぁ! 全員ぶちのめしちゃおうぜ!」
「竜先輩、それは」
竜先輩がこちらへ向けているのは、拳銃。自動小銃というやつだろうか。黒光りするそれは、敵だけでなく俺まで威嚇してくる。
「16課がくれたスーツケースにいっぱい入ってた。安心しろ、ゴム弾だから死にゃしない。と思う」
竜先輩の後ろを歩く努も、一回り小さい拳銃を構えている。へっぴり腰で。
「トム、お前は階段固めておけって。誰も出させんなよ」
「は、はい! そうします!」
「さあ、あと何人だ? 死にてえ奴からかかってこい!」
どっちが悪役かわからない台詞に呼応したようなタイミングで、フロアの反対側で大きな音がする。
「どうしたタートス! 小隊一つ任されただけで満足して、鍛錬を怠ったか? 半年前と進歩がないな!」
スチールデスクの上でビニール傘と警棒の二刀流の少女が大声を出している。罵倒というよりも、発破をかけるような口調だ。
棚から落ちた本の山の中、タートスが起き上がる。どうやらアーレンが優勢らしい。
トゥベロン人にとっては得体の知れない(と思われる)武器で2人を倒した俺と竜先輩に対して、敵は及び腰だ。その隙に努は、安全課の備品の縛り紐をかっぱらって、行動不能になった敵を後ろ手に縛っている。
「ちっ、使えねえ奴らだ……敵はたったの四人だ。ビビッてねえで袋にしちまえ!」
タートスが喚き散らす。それに従って無策に飛び込んでくる敵は、竜先輩の自動小銃の格好の的だ。
アーレンの言う通り、戦闘技能自体は熟練していない部隊のようだ。まだ人数差はあるが、16課の応援も来るし、制圧は時間の問題だろう。
それにしても、16課はどうしたのか。ケーロルを警戒するにしても、突入するなり、出てきたところを捕らえるなり、次のアクションがあってもいいはずだ。
「先輩、16課に動きは?」
「そういやねえな。突撃するって連絡はしたし、応答もあったんだけど、その後がない」
とりあえず、二、三人減らそうかと奥に進もうとした時、アーレン達の戦場に動きがあった。
廊下から現れた人影。全員の目がそちらへ集合する。
ひょろっとした長身の、赤茶の髪。皮肉っぽい笑みを浮かべて、スーツ姿の若い男が立っていた。
「いけないなあ、タートス中二等兵。僕は捕まえてくれと頼んだはずなんだがねえ?」
「ケーロル閣下。これは、その……」
空間の精霊と契約した貴族、ケーロル。アーレンがこの世界に来る直接の原因となった男。
俺は彼らに向かって歩き出す。その行く手を、拳銃を前にまんじりとしているだけだった敵が立ちふさがる。
「どいてくれ」
「く、どけと言われて、どくわけがないだろうが! 余計な手出しはさせねえ!」
「いや、アーレンを転送してくれてありがとうって言いたいんだけど」
通してくれないそうなので、一発殴り、怯んだところにスタンガンをあてがう。
「琢磨! これも持っとけ」
シルバーの拳銃を竜先輩が投げて寄越す。警棒はたたんで、取り出しやすいポケットへ。
礼を言いたいのは気持ちの上では半分本気だが、アーレンを捕らえてどうしたいのか。それを聞いておかなければならない。
アーレンは傘の先をケーロルに向ける。服装は仕立ての良いスーツに変わっているが、軽薄な笑みを浮かべる顔は間違いなく、彼女を異世界へ飛ばした張本人だった。
「外にずいぶん邪魔者がいるようだけど……君を連れてきてくれたことには感謝しないとね」
「ようやく会えたな、ケーロル。できれば会いたくはない顔だが」
「僕こそ会いたかったよ、アーレン・ハーファーハイト。わざわざ君がいない時間を狙って転送術を使いに行ったのに、わざわざ巻き込まれにきて、その上僕まで巻き込んでしまうとはね」
呆れた声音だが、どこか嬉しそうにも聞こえる。
銃口で狙いをつけるように傘を構えたまま、アーレンが問う。
「なぜあんなことをした? 第二王子の差し金……ではあるまい。あなたは第2王子に近しい地位ではない」
穏やかな声だが、眼光は鋭い。
こちらの世界に転送されたこと自体は気にしていないと話していたが、それで単純に済ませる問題ではない。彼女の中でもそうだったようだ。
そんな心中を察するつもりもなく、軽い語り口でケーロルが答える。
「まあそうだね。でも、王子にとっては、第三王子はいない方が良いだろう? 精神衛生上ね。上手くいかなくても何も言わなければ問題なし。上手くいけば王子に手柄を申し伝えて、僕の地位を上げてもらう。それもまあ、目的のついでだ」
話している二人の周りで、生活安全課に成りすましたトゥベロンの兵士達が動いていた。アーレンに近付いてはいなかったので様子を見ていたが、逆に、ケーロルの周囲を固めるように徐々に動いている。
「それならば、目的は達成されたはずだ。あなたが巻き込まれているのだから、第三王子も異界転送術の影響下にあるはずだ。あなたが空間の精霊と契約を結んでいるなら、時間をかければタートスの小隊ごと全員でトゥベロンへ帰ることができる。なぜそうせず、アーレンを探すような真似を?」
「そっちをわかってほしかったなあ。アーレン・ハーファーハイト。僕がなぜ君にあんなに優しくしていたか、わからないかい?」
「第三王子に取り入るために決まっているだろう。それならもっと王子に近い人間を標的にすればいいものを……なあタートス」
「俺に振るな……」
「大外れだ。僕は君が欲しかったのさ」
「うむ。タートスの部隊に対してお山の大将をしているよりも、アーレンを1人を雇って用兵した方が有意義ではあるだろうが」
「喧嘩売ってんのか」
「わかっていない。わかっていないね、アーレン・ハーファーハイト! 僕は君を妻に迎えたいんだよ! 君のような美しい娘が、あんなしがない第三王子なんぞの手足となって戦場へ赴くなんて、不憫にも程がある! あの馬鹿王子さえいなければ、テンペ・ロイケン・デキラータだとかいう側近部隊さえなければ、君を縛るものはない! そう考えたから、奴らだけを異界へ飛ばし、何もかもを失った君を我が君として迎えようとしたのに! それを! 君は!」
「言いたいことはそれだけか。ならば、斬って捨てるだけだな」
傘を中段に構え直す。それを見てもなお、青年貴族は余裕綽々だ。
「……残念だよ、僕の愛の言葉を聞いてその返答とは……どうやら君も理想の女性ではなかったようだ。一度は愛した女性だ、殺しはしない……いや、何かの拍子に僕を恨んで襲いに来られても困る。やはりここで殺しておこう」
妄言もここまで行くと狂気。そう取れる発言で、青年は指揮者のように腕を振るう。
「させんぞ」
「遅いよ、アーレン・ハーファーハイト。見たまえ、男達の壁を。君の攻撃がこの壁を越えて僕に届く前に、空間の精霊の術は完成する。そうすれば君と、何人かの味方は破滅。多少の犠牲で確実な勝利を手にさせてもらうとするよ」
しまった。アーレンが話していた戦術通り。ケーロルは兵の運用法をきちんと理解していた。タートス達はそれを察知して動いていたのだ。
まだ二十人近くいる大男達。こちらにあるのはスタンガンと拳銃、警棒だけ。結局応援も来ず、わずか四人で、呪文が終わる前に突破できるのだろうか……
そんな不利な状況でも、アーレンは凛とした表情を崩さない。それどころか、タートスに向かって話しかける。
「そういうことだそうだが、どうする? もちろん、術の範囲からは外してくれそうだが」
「…………やってられっか。俺は降りる」
「え?」「は?」
ケーロルと俺、異口異音ながら、おそらく同意の声を出す。
「俺はお国のために兵隊やってんだ。王子同士の後継争いなら、国のことを真剣に考えてんだなって思えたさ。……でも、てめえの嫁探しってなんだ。俺達は何に付き合わされてんだ。もー、やめだ。俺は降りる、誰のケツでも舐めさせるがいいさ」
そういってバットを放り投げ、両手を上げて座り込む。
タートスの突然の降参に、その部下達は困惑の色を隠せない。お互いに顔を見合わせ、首を動かさずに視線だけで、ケーロルをちらちらと見やる。
言葉なく会話してからしばらく、部下達は、タートスと同じように、両手を掲げて座り込んだ。
「……別に、お抱えの兵士じゃないんだもんな」
そもそも危うい協力態勢だったのだ。利害が多少合っていても、信念がどうにもずれていた。それだけの綻びだが、それを読み取れないのが、アーレンにこき下ろされる原因だろう。こりゃ、異界転送術なんか使わなくても、フラれてただろうな。
デスクの上からぴょんと下り、アーレンの足がタートスの背中をぐりぐりといじる。攻撃的ではなく、ちょっかいのような強さだ。
「そういうことがアーレンが関わらずとも気付くことができれば、もう少し戦場で使える人間になるだろうな」
「放っておけ。というか、なんでお前は自分のこと名前で呼んでんだ。変だぞ」
「それこそ、放っておけ」
タートスは白旗を上げたまま。アーレンはケーロルへ向き直る。
「さて……アーレンの攻撃が届く前に、術が完成するのだったな? 確かめさせてもらおうか」
アーレンの性格も少しずつわかってきた。戦闘に関しては妥協しない。
ケーロルのことは、降伏しても許さないだろう。
「くっ……くそっ!」
ケーロルがポケットから何かを取り出す。それをアーレンに向けて構えた。
拳銃だ。
「なっ」
なんであいつが。こいつらは、こっちの武器は理解できていないんじゃ。
頭の中で答えを探すよりも早く、体が動いた。右手の拳銃を構える。安全装置とかがついている物もあるそうだが、竜先輩が外してくれていた。
銃なんか触ったこともなかったが、気付けば、ケーロルに向かって発砲していた。
ケーロルの体のどこを狙っていたのか、止めるつもりだったのか、殺すつもりだったのか。それすらわからない。
俺が引き鉄を引いた時には、ケーロルも既に引き鉄を引いていた。
俺の放った弾丸がどんな結果をもたらそうが、もう遅い。アーレンが――
絶望の思いで俺が見たアーレンは、動いていた。
軽い跳躍。そのわずかな動きで、彼女は足先を2メートルの高さまで届かせていた。
ケーロルの銃弾は虚空を走り、壁へ穴を開ける。アーレンの動きをかろうじて目で追ったケーロルは、悠然と宙をたゆたう彼女を再び狙う。
その時、奴の後ろでパコン! と響く音。
俺の放った銃弾がゴミ箱に妙な角度で当たり、弾き飛ばされたゴミ箱がスチール棚に当たった音だった。
唐突かつ背後での物音に驚き、ケーロルが銃を取り落とす。その隙を見逃すアーレンではなかった。
「――――ラアァァッ!」
天井を蹴って加速する。俺やケーロルのようにぶれた照準ではない。狙いは正確。一直線にケーロルの胸へ飛び込んでいく。胸へ飛び込むといっても、ケーロルが喜ぶような意味ではない。そんな冗句も浮かぶくらい、俺は落ち着いていた。
アーレンなら大丈夫。最早それは、信頼とも呼べる確信だった。
着地、いや、アーレンは突き刺さった。
ビニール傘の先端を標的目がけて、『力の精霊』の重力の術も借りて、自身が一本の投げ槍になったような一撃をお見舞いする。
恐ろしいことに、突き刺さったのは比喩ではない。アーレンの傘は、標的の腹を深々と突き抜け、その体をコンクリートの壁へ縫いつけていた。
多分こう、精密無比な攻撃によって、服だけを貫いたのだ、と納得しようとした俺の目に、ケーロルのスーツに赤黒い色が滲み出るのが映った。
「どうだ、ケーロル・ノーベンタイン閣下。軽薄な理由で王国軍人を用兵する、聡明な貴族殿だ。愛した女に殺されるなら本望と言ったところか?」
嘲るアーレンだが、表情は全くの無表情。静かすぎる面持ちからは、面には出ない怒りがほとばしっている。
「ぐふっ…………アーレン、きさま……」
さすがの青年貴族からも軽薄な笑みが消える。血のにじむ腹をスーツの下で押さえ、苦悶の表情を作る。
「このままここに居残るならば、救護も来ず、あなたはここで死ぬ。傘というのはだな、開くように作られているのだ。腹に刺したまま開いたらどうなるだろうな」
自分の腹を引き千切って傘が開くさまを想像して、俺の背筋は震える。後ろで努も身悶えている。
アーレンは被虐趣味で想像を促したのではない。交渉だ。
「本来の生活安全課の人間はどこへやった? まずは彼らを無事に引き渡せ。
次。タートス以下23名を連れて、トゥベロンへ帰れ。そして二度とここへ戻るな。必死に病院へ急げば、死なずに済む」
実力行使で、交渉というよりほとんど脅迫だったが、敵も卑劣な手段を使ったのだ。戦場に情はない。
「……ここの人間か。残念だったね。ここにはもういないよ」
「まさか、殺したのか……!?」
傘を握る腕に力がこもる。それを制したのはタートスだった。
「待て! 殺しちゃいねえ。こっちで行動するのに必要だから身ぐるみは剥いだが、そのあとは異界転送術で……俺達の世界に送った」
「ならば、今すぐ連れ戻せ。それも時間がかかる術だろう。さっさとしないと傘でなくあなたの瞳孔がぱっちり開いて硬直するぞ」
「くっくっ……」
この期に及んでケーロルは、にやりと微笑む。
だが笑うのは口だけだ。目元はにやりの『に』の字にも動かず、黒い喜びだけを湛えている。
「悪いね。異界転送術は心得ているが、なにせ気難しい空間の精霊だ。異界召喚術までは教えてくれなかったよ。はっはっはっはっ……!」
哄笑が響く。
そんな。じゃあ、生活安全課の人達は、戻ってこれない……?
「……すまんな、タートス。あなた達もしばらく戻れそうにない」
「……かまわねえよ。殺っちまってくれ、こんな野郎」
2人が頷き合い、目印の杭でも打ち込むように、突き刺した傘の持ち手に足を乗せる。
それでもケーロルは、余裕を失った様子はない。ここまで開き直れば、大人物にも見えてくる。
その余裕には理由があったと、直後に知る。
「無駄だよ、アーレン・ハーファーハイト! 次に逢った時は、あの時僕の妻になっていればと後悔するがいいさ!」
傷口を押さえていた腕に力がこもる。
その瞬間、ケーロルが消えた。
「!?」
「あ!?」
いない。ケーロルがいなくなった。
アーレンの目の先には、ビニール傘から血が滴り、赤黒い水たまりを作っているだけだった。
「なんだ……何が起こった?」
支えを失ったアーレンがよろめく。困惑に固まるタートス小隊を押しのけて駆け寄る。
「アーレン! 大丈夫か?」
「タークマ……アーレンは大丈夫……ケーロルは、一体……?」
タートスに視線を送っても、首を振るだけだ。その向こうで、猿轡をかまされた男がうめき声を発している。アーレンが最初に攻撃を喰らわした、言葉の稜術使いだ。
努が口を縛るタオルを外してやると、言葉の稜術使いは苦しそうに大きく一息をつく。そしてその場にいる全員の疑問に答えた。
「じ、自分も聞かされただけでありますが、ケーロルは『僕に危険が迫っても、緊急時の秘密兵器がある。だから安心しろ』と話しておりました。おそらく、それかと思われます」
「なんでダーゾがそんなこと聞かされてんだ? 俺も知らないのに」
あくまで上官への報告という体で話すダーゾに、タートスが更に尋ねる。
「我々がこちらに来て始めに、警察の人間に会った時であります。警察のことを聞き出し、隊長殿や皆が襲撃作戦を練っている間に、ケーロルに頼まれ、警察の人間から武器の扱いを聞き出しておりました。その見返りという形で、ケーロルが先の情報を話したのであります!」
権力か、あるいは恐ろしい空間の稜術か、それを笠に着て、タートス達を欺きつつ情報を得ていたようだ。軽薄な面に寄らず、狡猾な人間だったのだ。
「精霊の術の師から聞いたことがあるのですが、空間の精霊の術を使う人間は、術の扱いの難しさから、術の力だけを物に込めて、即座に使えるような術具を用意しておくと……おそらくそれではないかと」
「そういうことは、もっと早く……!」
拳を振り上げて、タートスが固まる。アーレンが傘の先で脇腹を小突いている。そんな不潔な物で小突くのはどうかと思うが。
「……よく教えてくれた。だが、そういうことはもっと早く報告しろ」
「は、はい……」
振り上げた拳はどこへ行くでもなく、膝の上にストンと落ちた。それを見て、部下のダーゾもほっと胸を撫で下ろす。
きっとタートスも、こういう小さいストレスというか、粗暴な部分が積み重なって、部下と上手くいかなかったのだろう。だからアーレンももどかしく思って……なんて、考えすぎか。
俺達が突入した階段とは反対の入口が、どやどやと騒がしくなる。
ややあって、武装した警備16課と池さんが慎重に、慎重に部屋に入ってくる。
生活安全課は全員、俺達の側も竜先輩がサブマシンガンを肩に担いで立っているだけで、およそ戦闘中には見えない現場を見て、池さん達も構えた武器を下ろしていく。
「悪い悪い。連絡もらって突入しようとしたら、階段で見えない壁みたいなのにぶち当たってな。何だったんだありゃ」
「おそらく、ケーロルの稜術だろう。空間を切り取るような術かもしれん。奴が消えたから効果も消えたようだ」
「なーるほど。便利なモンだな、その稜術ってのは。でも竜、制圧できたんだな?」
「ウィッス。ま、戦闘自体は大したことなかったッスね。スタンガンと銃にビビっちまって」
「ああ? 俺はビビッてねえぞ」
「あー確かに。お前は女子供に負けてたもんなあ、隊長のくせに」
「テメエ、アーレンは別だ。テメエくらい、一ひねりなんだよ」
どうしてこの先輩が口を開くとこうなるのだろう。頭が痛くなる。
「あー、落ち着いてください。君がタートス隊長?」
池さんが二人を制する。タートスもここでまたドンパチをやらかす気はないようで、おとなしく引き下がる。
「大体の事情はアーレンさんから聞いてるが、こっちの世界にはこっちのルールがあってね。別に殺したり痛めつけたりはしないから、部下を連れて抵抗なく来てもらえますかね」
「ああ。行くぞ、お前ら。アーレン、ダーゾの口は縛らなくていいのか?」
「うむ。上官ではなく貴族ごときを信用して情報を漏らしてしまうような愚兵だ。念のためもう一度縛っておこう」
「冷てえなあ……」
16課に引っ立てられて、タートス小隊が仮初めの職場を去る。
「あいつら、強かったか?」
「どうでしょう…俺とどっこいくらいだから、世のチンピラくらいですかね……」
「軍人としては間抜けもいいところだな」
「そうか……体格は良いから、16課が上手く育ててくれるだろう」
残ったのは現場確認のために残った16課の人間と、営業2課の俺達だ。
「はあ~、怖かったあ……」
気の抜けた声を出したのは努だった。
「ご苦労だったな。努は現場初めてだっけか?」
「初めてっていうか、これ今後もあるんですか!? これ警備会社の仕事じゃないですよ!」
「まあまあ。追い追い説明してやるよ。案外早く終わったし、今日は帰って報告書作成だな。大丈夫、教えてやる」
「それも俺達の仕事ですかあ……? はあい、頑張ります……」
努のぼやきが、どこか遠くの世界の話のように聞こえる。今日はいろいろあった。
否。この数日、いろいろなことがありすぎた。といっても、全て『アーレンに出会った』という出来事に収束していくのだが。
「アーレン」
血みどろの傘を手に棒立ちのアーレン。茫然自失の心境かと心配したが、応える声は存外からっとしていた。
「タークマ。怪我はないか?」
「そっちこそ。大丈夫か?」
「もちろんだ。タートスはもっと修行を積まねばならん。あの程度ではアーレンに傷を負わせることもできないさ。それに」
照れ臭そうに頬を触る。瞳をそらすことなく俺へ向けて、
「タークマが、守ってくれたからな」
臆面もなく、言った。
「俺が撃ったのなんか、外れてたぜ。というか、撃つ前に自分で避けてたじゃないか」
「タークマの弾丸のおかげで、二発目は撃たれなかっただろう? というかだな、タークマがアーレンを守るために撃ってくれたことが嬉しかったんだ。今までは、助け合って戦うことなんてなかったからな……」
そう言って寂しげに、傘についた血を見つめる。
仲間とは呼べない王国の兵士。役職上は仲間の十名部隊でも、背中を任せ合える人はいなかったのだろう。
アーレンを助けるためとか、考えた行動ではなかった。咄嗟の反応。本当に自然に出ただけの動きだった。
でも、今なら『アーレンを守りたかったんだ』と、はっきり言える。彼女のほっとした笑顔を見た、今なら。
「守ってくれてありがとう、タークマ」
「……こちらこそありがとうだよ。アーレン」
「ふふ。アーレンは何もしていないぞ」
そんなことないよ。たった数日で、俺は君からたくさんのものを貰った。その優しい微笑みも、きっと誰からの労いの言葉よりも嬉しい。
そんな恥ずかしいことは口にはできない。俺もできる限りの優しげな微笑みを返すだけに留めた。
池さんと竜先輩は16課の人間と話し込んでいる。努は律儀に現場の片付けの手伝い。俺も手を貸そうとしたが、「琢磨は頑張ってたじゃん。俺動いてないから。アーレンさんと一緒に休んでなよ!」と体良く突っぱねられたので、二人して本来の住人のいない生活安全課の床に座り込んだ。
「タークマ。あなたは戦闘は初めてと言っていたな?」
「ん? まあ、そうかな」
警備の仕事で小競り合いや喧嘩程度ならあったが、こんな本格的な戦闘は初めてだった。努じゃないが、警備会社の仕事じゃない。
「初めてで3人か……作戦資料もあなたの手によるものだし、味方の人的被害も防いだ。今回の戦闘の最大の功労者はタークマだな。勲章の1つも貰えるだろう」
「そんな大袈裟な……っていうか警備会社に勲章ないし。多分」
「そうなのか? しかし、アーレンが将校なら間違いなく授与するのだが……そうだ」
何かを思いついたのか、アーレンが拳で逆に手の平を打つ。あのジェスチャーは万国、いや万世界共通なのか。
その手を俺へと伸ばしてくる。何だろう?
「タークマ、すごい。なでなで」
頭のてっぺんを撫でられる。なでなで、なでなでと、都合3回。
こんなのどこで覚えた、とツッコミを入れる寸前、踏み止まる。教えたのは俺だ。
「アーレン……よっぽどこうされたの、嬉しかったんだな」
「うむ。タークマも頑張ったからな。良い気分だろう」
「確かにね。でも、なでなでは今後禁止な」
「む。なぜだ」
「いい大人はこういうことしないの」
単に俺が恥ずかしいからだが。あと、もし他の男にやったら嫉妬で狂いそうだからだ。
「おいそこ! いつまでイチャイチャしてんだ!」
池さんと竜先輩の話が終わったようだ。努も呼ばれて戻ってくる。
「撤収するぞー。事後処理は16課に任せよう」
「やっぱ暴れんのいいなー! 大さん、今日飲み行きましょうよ! 運動の後はやっぱ酒だ!」
「ああー、久しぶりにいいですねえ。あ。アーレンさんってお酒飲めるの? 年いくつ?」
「年齢か? 20歳だが」
「そうなのか」
当然だが知らなかった。もっと若くも見えるが。
普通に出会えば最初に聞くようなことも、まだ知らない。アーレンのことは、まだまだ知らないことだらけだ。
「タークマ。お酒というのは、『エイトム』でエイトくんがよく飲んでいる飲み物だろう。あれは美味しいのか?」
「人によるし種類にもよるけど、俺は好きだよ」
まだ知らないことは、これから知っていけばいい。俺も、アーレンも。
これから先、時間はたっぷりある。
「ちなみに、種類にもよるけど、酒には唐揚げが付き物だ」
「唐揚げ! イェイ!」
[1から始める異少女会話 了]
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
ここまでが第一話というつもりです。投げっぱなしになっている部分もありますが、その辺は第二話以降で…定期的に上げられるように頑張ります。