彼女に義弟が出来た
彼女は、エカリーナとよく会うようになったらしい。ロットバルトからそのことを聞いて、苛つく。
僕はロットバルトとセットでしか会えないのにエカリーナは一人で彼女に会えるのだ。
今度、一人で会いに行ったら喜んでくれるだろうか? そんなことも考えてしまう。
その彼女とエカリーナから、流行り病のことを聞いた。二年後に流行るらしい。今から薬の手配をし予防したら、被害を最小限に出来るかもしれないと。
王に進言し、流行り病に備えた。隣国では多大な被害を出した流行り病だが、我が国ではほとんど被害が出なかった。隣国で不足していた薬を送り、たっぷり恩を売ることも出来た。
彼女は従弟アドルフの家族が流行り病で亡くならなかったことにホッとしていた。家族を亡くしたアドルフは彼女の家に引き取られ、彼女の弟になる。アドルフは病で家族を失った傷をオデットに癒され、悪役令嬢の彼女を断罪し家から追放するらしい。
それを阻止するためなら、アドルフの家族だけ病にかからないようにしたら良かった。だが、彼女とエカリーナは救える命があるのならと僕に病のことを教えてくれた。その二人が悪役令嬢になるとは、僕には到底思えなかった。
嫉妬が人を狂わす? 嫉妬するほど彼女に思われると考えると何故か心が踊った。
結局、アドルフの家族は死に彼は彼女の弟になった。
彼女はアドルフを立ち直らせようと必死に手を差しのべていた。だが、アドルフはその手を無視し続けていた。
僕の堪忍袋が破れかけようとした時、彼女はアドルフの家族の墓の前で言った。
『アドルフを大切に思う家族に恥じない者になれ』と。
そこからのアドルフの立ち直りは早かった。
今までの分を取り戻そうとするかのように貪欲に全てを身につけていった。
そして、何故か僕と彼女が出掛けるのに時々ついてくるようになった。
アドルフが立ち直った時から、嫌な感じはしていた。
アドルフが彼女に向ける視線、態度、全てが僕に教えていた。
一つ屋根の下にいるアドルフに殺意がわく。今でもロットバルトとセットでしか僕は扱ってもらえないのに。
だが、幸いなことに彼女は何も気付いていない。僕とロットバルトのことでまだ瞳を輝かせている。
「オディールを不幸にしてください。代わりに僕が幸せにしますから」
いつかアドルフが宣戦布告をしてくるのは分かっていた。
「そんな予定はないから安心しろ」
彼女を幸せにするのは僕だ。それをはっきりと自覚した日だった。
僕は、オデットについて調べさせていた。
恐らくオデットは、彼女やエカリーナと同じ転生者だ。所々でそんな感じがする動きがある。
別に転生者か悪いわけではない。その知識をどう生かすかだ。
エカリーナの懸念は、オデットが、ゲームのシナリオ通りに物事が動くと思い込んでいることだと言っていた。ゲームのシナリオ通りでなければ、そうなるように何をするのか分からないと。
実際に回避したはずゲーム通りになっていることがある。
アドルフの家族と最近起こった洪水だ。
アドルフが家族を失った火事は、一応犯人は捕まり処刑されている。だが、腑に落ちないことが多く、犯人を仕立て上げられた感が強い。再調査を指示してあるが、何も掴めていない状態だった。
王都郊外で起こった洪水は、ゲームよりは規模は小さく被害も少なかった。彼女とエカリーナの助言により、堤防の整備と強化は行われていたのにも関わらず起こった洪水。あれぐらいの雨では堤防が切れるはずがなかった。
彼女は、自然の力には敵わないのねと落ち込んでいたが、人為的なものを僕は感じていた。
来年から三年間の学園生活が始まる。まず二年は平和に過ごせるだろう。残り一年、僕たちには二つの選択肢がある。
今のまま、自分たちで考えて行動していくのか。
ゲームのシナリオ通りに動き、最悪だけ回避するようにするのか。
僕は彼女を傷つけるようなことはしたくない。必然的に選ぶのは決まっていた。