婚約者の扱い方
ほんとに彼女は扱いやすい。
ロットバルトとちょっと距離を詰めただけで頬を真っ赤にし、瞳をキラキラさせている。
その様子が面白くて可愛い。
妃教育も順調だ。ロットバルトを絡ませて課題を出せば、次にちゃんとこなしてくる。このままいけば、完璧な妃になるだろう。
ロットバルトからは、必要以上にちかづくな、触るなと言われるが、彼女と円満な婚約者関係を築くためだ仕方がないだろう。慌てふためくロットバルトを見るのも面白いとは言わない。
エカリーナに話したら、彼女が異世界からの転生者じゃないかと言い出した。たぶんそうではないか。とは思っていた。だけど、悪役令嬢を回避するために、というのとはちょっと違う気がした。
エカリーナがあまりにも煩いから、エカリーナと彼女を会わすことにした。なんとなく会わせたくなかったが、仕方がない。
ロットバルトの家でお茶会をすることになった。
お茶会は挨拶から始まり、彼女が場に少し慣れてきたところにエカリーナが動いた。
「ふーじはにーぽん」
「いちのやまー」
エカリーナの訳の分からない問いに彼女は答えていた。
「やはり転生者!」
エカリーナが悲鳴のように叫んでいる。
「ねぇねえ、白レクの一推しは?」
エカリーナが目をキラキラさせて聞いている。異世界の話が出来る相手を見つけて喜んでいるのが分かる。
だから会わせたくなかったんだ、と僕は思った。
ちなみに白レクは、僕たちが攻略対象者の乙女ゲームのことだ。
「もちろん、王子×近衛騎士ですわ」
ズルっとエカリーナが椅子の上で仰け反っている。
王子かける近衛騎士? ″かける″とはどういう意味だ?
「ま、まさかの、ふ、腐女子!」
エカリーナの口から、また訳の分からない言葉が飛び出している。
腐女子とは?
問い掛けようとした時、まるで崇高な任務を言いつけられた者のように悠然と頬笑む彼女の姿に見とれてしまった。
「ええ。だから、わたくしが守るのですわ。二人の愛を」
その後は、エカリーナにその場を追い出されて、時間になるまで彼女と会わせてもらえなかった。
なんとなく面白くない。
彼女と帰りの馬車に乗り込む前、面白くなかったからロットバルトで遊んだ。彼女がいつもと同じように頬を赤く染め嬉しそうな顔をしたのを可愛いと思いながらも面白くないと思った。
彼女を送り届けてすぐにロットバルトの家に戻った。
グッタリとしたエカリーナがそこにいた。
「ふ、腐女子とは、見抜けなかったわ」
力尽きたエカリーナを叱咤し、僕は説明を求めた。
しぶしぶエカリーナは重たい口を開いた。
「腐女子は、BL、ボーイズ・ラブをこよなく愛する者たちなの!」
やけくそで叫ばれた言葉は、それでも僕には意味が分からない。だから、更なる説明をエカリーナに求めた。
「つまり、僕が男色家だと?」
冗談じゃない。男よりも柔らかい女のほうがいいじゃないか。
ロットバルトは白目を向いている。話についていけないのだろう。
「凄く画に拘った作品だったから、そっちのほうも凄かったのよ」
エカリーナは僕と目を合わさずに言った。
「つまり、僕が近衛騎士になったロットバルトを組み敷いて愛を交わすと?」
「うーん、逆が多いんだけどね。オデットとくっつこうが、悪役令嬢とくっつこうが疲れ果てた王子を近衛騎士が襲い癒す、というのが」
襲うのに癒されるのか? その僕はどんな思考をしているんだ!
僕はムカついて、ロットバルトの足を蹴った。正気になったロットバルトは話を思い出して顔色を真っ青にしている。
「まあ、悪役令嬢になりそうにないからいいんじゃない。あんたたちの愛を守る! てカモフラージュとして完璧な婚約者、完璧な妃を目指しているそうだから」
完璧を目指してくれるのは嬉しいが・・・、なんか気に入らない。
「それよりもオデットまで転生者でゲームに拘っているとやっかいだわ」
僕はモヤモヤした気持ちを隠して、エカリーナの懸念を聞いていた。
とりあえず、僕とロットバルトが良好な仲を彼女に見せ続けることにした。ロットバルトはすごく嫌がったが国の未来のためだと我慢させている。僕もロットバルトよりも柔らかい彼女に触れたいのを我慢しているのだぞ!
それから僕らの関係は良好のまま進んだ。
エカリーナから聞いていた嫉妬深くて我が儘で傲慢な令嬢はどこにもおらず、僕とロットバルトを見て、嬉しそうに笑う美しい女性に彼女はなった。
時折、僕とロットバルトを見る時の瞳に寂しそうな光があるのは僕の気のせいかな?
期待する思いに僕は気がつかないようにした。