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【篠宮珠洲里という女】


 運命なんて、そんなものない。それはきっと必然で、生まれた時から決まっているものだと思う。


 私にとって、彼は絶対にそばにいるべき人で、隣にいてくれることが当たり前。ちょっと今はそばを離れてしまっても、絶対にまた私の隣に戻ってくる。


 だって、それが当たり前なんだから。彼だけが私に当てはまるって、ずっとそう思っていた。


 まるで、パズルのピースのように。




 容姿端麗、才色兼備? それは生まれ持ったもので、努力なんかで手に入るものじゃないの。私は持っているものだけど、これは必然で、私にあって当たり前のもの。

 街を歩けば男十人くらいからはナンパされるし、スカウトなんてしつこいくらいされる。まあ、私は興味ないんだけどね。

 だって、私には将来結ばれて結婚することが決まっている人がいるんだもの。



「あ、ちょっとすずり! 私がこの前貸した小説、早く返しなさいよ!」


 彼女は多々良結菜。高校の時からの私の親友で、今は同じ上崎大の経済学専攻二年生である。


「え、あ〜あの小説ね! 返すよ、だってつまんなくて二ページで読むのやめたもん」

「もう、あんた自分の興味あるものにしか本当に関心ないんだから……」

 

 私たちは一応親友だが、趣味は全く合わない。


「ね! それよりもそれよりも! 今日のゆづくんみた⁉ 紺色のシャツにあのカーデ! 超似合ってるよね! 超可愛かったよね⁉」

「それ、さっきも聞いたよ。私からしたら、別に全然カッコよくないんだけど」

 

 結菜はため息をつきながらスマホをいじりだす。


「てか、いつまでその片思い続けるつもりなの? もう付き合えないって振られてるんでしょ? 幼なじみだからっていつまでも好きでいなきゃならないわけじゃないのに」

 

 そんなことは確かにあった。あったがもう高校生の時の話である。


「もう、何回も言ってるでしょ、結菜! 私とゆづくんは結ばれる運命なの! もう決まってることなんだって、言ったでしょ?」

 

 そう。もう結ばれることが決まっている。それは絶対で、誰に何を言われても揺るがない。


「あんたのその自信がどこから来るのか、いつも不思議だわ……」

「ていうか、移動しないと! 次、ゼミの教室だった!」

「わ、時間ない! 早く行こう!」

 

 私たちは次の授業のために急いで準備をして、テラスを飛び出した。


 

 さて、ここで私の自己紹介をしておかないと何が何だか分からなくなってしまうだろう。私の名前は篠宮しのみや珠洲里すずり。上崎大学経済学専攻二年。見た目はもちろん、中身も……まあ、結菜からは難ありって言われました。

 そして、私の将来の旦那様が、私の幼なじみで上崎大学法学専攻三年の香山弓月! 通称ゆづくん。正直、確かに今は付き合ってない。でも、高校ではもうちょっとってところで色々事件が起こって、「付き合えない」ってきっぱり断られちゃった。でも、これはゆづくんが悪いわけでもないし、今は仕方ないかなって思っている。

 でも、絶対将来はゆづくんの隣にいるのは私だし、私が絶対ゆづくんを幸せにするんだ!

 これは決定事項だから!




「もー……。あんたがゆづくんゆづくん言ってたせいで遅れて怒られたじゃん」

「え! 私のせい? ひどい結菜」

「ほら、教室また移動だから。いくよ」

 

 ゼミ室から出て、階段を降りている途中で、ゼミ室にスマホを忘れていることに気づいた。


「あ、結菜! スマホ忘れた! ちょっと待ってて!」

「え、また?」

「また!」

 

 踵を返し、階段を登ろうとしたところで、目の前にいた人にぶつかってしまう。


「あ、すみません。大丈夫ですか?」

 

 見上げると、ぶつかってしまったのは男子学生だった。


「ん、大丈夫だよ。痛くなかった?」


 彼はにっこり笑って許してくれる。

 あれ、この人どっかで見たことある気がする……。まあ、同じ大学ならあるか。


「いえ、大丈夫です。ぶつかってすみませんでした」


 そのまま一礼して階段を駆け上がった。




 無事にスマホを見つけ、結菜に合流した。


「あんた、さっき随分他人行儀だったね。去年知り合ってから連絡取り合っていなかったの?」

「え?」


 さっきとはいつのことなのか、誰のことを話しているのかわからず結菜の顔を見つめていると……。


「え、まさか、覚えていないの? あんなかっこいい先輩と並んでおいて?」

「いや、何言ってんの結菜。並んだって、なんの話?」

「……」

 

 結菜は黙ってしまい、ため息だけ返してきた。


「あんた……。本当に香山弓月以外興味ないんだね。学校一のイケメンの顔を忘れるなんてさ」

「?」

 

 私の様子に呆れながら結菜が説明してくれる。


「あんた、去年のミス上崎になったでしょ?」

「え、ああ、はいはい。なってたなってた」

 

 ミス上崎は、いわゆるミスコンみたいなもので、ミスター上崎と合わせて、上崎祭で行われる行事である。

 私は本当は出たくなかったけど、結菜が「もしかしたら、ゆづくんがヤキモチ焼いてくれるかもよー」とか言うから出ちゃって、結局一年生で優勝しちゃったんだよね……。私が出たら、優勝するなんて当たり前なのに。

 でも、結局ゆづくんは「あいつ」の迎えで帰っちゃって、私も出たくなかったのに後夜祭まで残らされてすっごいめんどくさかったってことしか覚えていない。


「あんたの相手役でしょ。ほら、ミスター上崎で三年の久我李斑だよ」

「え、そうなんだ」

 

 結菜はまた呆れながらため息をつく。

 そんなにため息をついたら、幸せ逃げちゃうんじゃない? あ、私のせいか。


「あんた、後夜祭の時一緒に手を繋いでダンス踊ってたじゃん。ミスに出てた人みんな久我先輩目当てで出ていたのに、結局一年でしかも久我先輩に全く興味ないあんたがミスになったから、すっごい羨望の眼差しで見られてたのに」

 

 そういえば、ミスとミスターに選ばれた人は毎年後夜祭で一緒にダンスするのが決まりで、去年は確かにミスターの人と踊ったのだった。


「そうなんだ。私はゆづくん帰っちゃうし、知らない男に触ってダンスしないといけないしで、すっごい嫌な思いしたけどね」

「あんた、それ絶対に久我先輩のファンの前で言っちゃダメだよ」

「そもそも、その人そんなにかっこよかったっけ? ゆづくんに比べたらどんな男もミジンコみたいなものだけどね。区別つかない」

 

 結菜は、「もういい」と言いながらスマホをいじりだす。

 そして、私にスマホの画面を押し付ける。


「ほら! これが去年のあんたと久我先輩! かっこいいでしょ!」

 

 スマホをまじまじと見ると、そこには不機嫌そうな私と、さっきぶつかってしまった人……久我李斑の姿があった。確かに、世間から見ればかなりかっこいいのだろう。雑誌のモデルにも、こんなにかっこいい人はなかなかいなかった気がする。

 だが、私にとっては相手がゆづくんでなければ、興味がなかった。


「かっこいいかもね、結菜付き合えば?」

「簡単に言ってくれるわね……。せっかくこんな可愛い顔してるのに、なんで香山弓月なのかね〜」

「そういう結菜だって、KEEPの康太ばっかりじゃん」

 

 結菜はピクッと反応し、ジャニオタスイッチが入った。


「康太はいいの! だってアイドルだよ! ジャニーズなんだよ! かっこいいんだよ⁉ すずりの香山弓月と一緒にしないでよね!」

 

 こうなった結菜には、反抗しないほうがいい。


「う……。ごめんごめん」

「もういいよ、とりあえず、授業終わったらたっぷり本当のイケメンについて語るから」


 説教は長くなりそうだ。



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