第8話 王、現る
鮫ちゃんこと鮫島 雄大はこれまた同じ部活だったイケメンくんである。……というか、あの勉強会に参加してかつここにいるメンバーって、ジョージと岡野の2人を除いたらみんな同じ部活――バドミントン部なんだよね。うちのバドミントン部は男女混合の部活だったため入部を決意したのは内緒だ。
おっと、また話がずれてしまった。今は鮫ちゃんのことを話そう。鮫ちゃんは中学の時サッカー部でストライカーを担っていたらしい。なんでバドミントンを始めたのか聞いたら、うちの高校のサッカー部があまりにも弱かったかららしい。って、そんなことはどうでもいいか…。鮫ちゃんはA区の一等地に住む超絶金持ちの子供らしいが、あまり他人に奢っているのを見たことがない。まあ、異世界に来た今となっては、そんなことは本当に無関係なんだけどね……。
それで、なんと、鮫ちゃんはジョージを上回るほどの美貌の持ち主なのである。その上、頭も良く、運動神経抜群でおまけに家が超絶金持ちで……まあ、モテないわけがないんだけど、なんと鮫ちゃんには今、彼女がいないそうなんですよ! それを聞いた時は、本当に驚いたもんだよ。まあ、鮫ちゃんの紹介はこの辺で良いかな…? うん、いいや。
それで、そんなイケメンな鮫島君に“静かに”と言われた手前、流石に騒ぎ続けるわけにもいかず、そこで話が終わるかと思ってた。ええ、思いましたよ、それはもう。だというのに一之瀬さんが、
「はあ……。分かった。じゃあ、五十嵐君、話はまた後でね」
なんて言うもんだから、僕はビックリしちゃって、返事をまともに返すことが出来なかった。そこまではまだいいんだけど……。橘さんが続けて、
「あの、五十嵐君、私も話あるからっ!」
って言ったんだから、もう僕はパニックに陥ってしまいました。
「あ、はい、分かりました…」
よく分かってないながらも、返事をしておく。
まあ、そういうことで、話は一時中断となってしまった。可愛い女の子との会話を邪魔するなんて、鮫島、許すまじ。
「なんだ? 五十嵐。なんか言いたそうだな?」
ひっっ!?
どうしてバレたんだ? エスパーか!?
「い、いや、何もないよ」
「そうか。なら早く食え。まだ食べ終わってないのは、お前だけ…。いや、橘もか」
え? 橘さんも食べ終わってないの?
視線を左へと向ける。
あ、ほんとだ。ほとんど手がつけられていない状況だ。どうしたんだろう?
「橘さん、具合でも悪いのですか?」
「い、いえ。大丈夫です」
「そうですか? …あ、もし量が多かったり口に合わなかったら、僕が貰うから遠慮なく言ってくださいね?」
「あ、ありがとう…。でも、いいよ」
「おい、お前ら! 早く食えって!」
橘さんとにこやかに会話してたのに、鮫島に怒られたから、もうやめよう。ごめんね、橘さん。僕のせいで巻き添え食らわせてしまって。言葉にできない自分がもどかしい。
……ふう。ようやく、この味気ないものを食べ終えた。橘さんにはああ言ったが、正直、これ以上食えって言われたら、食える自信がない。
あ。最後の1人となっていた僕が食べ終えるのと同時に、部屋に隅に控えていたメイドさんたちが一斉に動いて、食器を手際よく片付けてくれた。
片付けが完全に終了し、メイドさんたちが退出するのと入れ替わりで、今度は騎士みたいな人たちが30人くらいぞろぞろと出てきた。おそらく配置が終わったのであろう、1番扉(僕たちが入ってきたのとは違う)の近くに立っていた男の人が声を張り上げ、
「国王陛下のおなーりーー!!!」
って叫んでた。うん、想像通り。
すると、その扉が重々しく開き、その奥から、いかにも“王”な雰囲気を醸し出している50後半くらいのおっさんが出てきた。…おっと、“おっさん”とか言っちゃいけないな。不敬罪で捕まりでもしたら大変だ。
ってか、騎士みたいな人が叫んですぐに、扉付近の……いや、この部屋にいた騎士みたいな人たち全員が一斉に跪いたものだから、とても驚いてしまった。
国王はその後もゆっくりゆっくり歩いて、あの豪奢な椅子へと腰を下ろした。
国王曰く、
「余が、モウルネン王国第6代国王、マゴット・モウルネンである」
と。
6代目なんだ。長いのか短いのかよくわからないな…。みんなの反応はどうかな……ってあれ? おかしいな…。体が全く動かない。……。あ、さては、“威圧”されてるな? じゃあこちらも耐性を用意して対抗しよう。
“威圧”か…。“威嚇”と意味は違うのかな? こんな時こそ、〔叡智〕発動!
威嚇‥‥おどしつけること。威力・武力などによるおどかし。
威圧‥‥威力や威光によって相手をおさえつけること。
なるほど。じゃあ、両方創っちゃうか。
《確認しました。エクストラスキル『威嚇』『威圧』を創造しました》
それを合わせると?
《エクストラスキル『威嚇』とエクストラスキル『威圧』を合成…成功。ユニークスキル『脅嚇者』へと進化しました》
きょうかく……? どんな意味だっけ?
脅嚇‥‥おびやかしおどすこと。
なるほど。2つを要約したわけか。かっこいいし、響きがいいから、気に入った。『脅嚇』ね。
さて、次は耐性を創っていこう。
《確認しました。『威圧耐性ex』を創造しました》
いきなりexね。もう慣れたけど。
あ……。首が動かせるようになった。ふう〜。ほんの少しの間だったけど、随分首が凝ったように感じる。気のせいだろうけど。
「ほう…。余の『威圧』に耐える者がこうも多くいるとは…。これはなかなか期待できそうじゃ」
バレたか!? いや、まあ、思いっきり首をゴキゴキやったから仕方ないとは言える。捏造したステータスのスキルの欄に『威圧耐性』を加えておこう、そうしよう。
「…ふむ。良い、面をあげよ」
王は言う。すると、先ほどまで跪いていた騎士たちが一斉に顔を上げたが、誰1人として立ち上がる者はいなかった。
「ふう〜。なんだったんだ今の…」
右隣からジョージの困惑した声が聞こえた。十中八九、威圧に抵抗できなかったんだろう。これでジョージは耐性持ちの候補者から外れる…って待てよ?
ここであたかも威圧をまともに食らって、抵抗出来なかったかのように振る舞えば、王以外の全員を騙せるのではないか? 保険は出来る限り打っておこう。後々自分のためになるだろうし…。
「……っくああ〜。僕も全くわからないな…。王様に見られた一瞬、体が、まるで金縛にでもあったかのように動かなくなっちゃってさ……」
「け、啓も……? 一体なんだったんだろうね……」
なんかジョージが“どうして啓も?”と疑問を抱いている。ごめんねジョージ、嘘だから。
視線を感じたので王の方を見たら、王は一瞬僕を見て笑っていた。……“それで良いのか?”と問うように。王が僕に視線を向けていたのはその一瞬だけで、すぐに視線を外すと、喋り始めた。
「突然の事で頭が混乱しているとは思うが、あまり悠長にしている暇はないのでな。良く聞いて、疑問点はまとめて後にせよ」
…ふむ。まあ流れからして、王がこの度の召喚についての説明をするんだろう。
で、質問はまとめて後で、っていうのは、話が進まないのを嫌っているからだろう。面白い性格をしてる。
「お主たちを召喚したのは訳がある。それは今からおよそ200年前に、勇者が1つの予言めいた遺言を残したからである」
200年前か…。6代目っていうと、200年前が初代なのかな?
それにしても、勇者ねぇ…。やっぱりあるんだな、その職業(?)。この中にもいるんだろうな…。僕の勝手な予想だと……、男子は厳原や鮫ちゃん、女子は猪俣あたりが最有力候補だね。
厳原――本名:厳原 潤――は僕と同じ部活に所属していて、なんと部長まで勤めている出来のいいやつである。おそらくうちの部活1の学力を誇っているだろうのに、彼はいつも勉強をしないので、成績はそこそこだ。なんと厳原は中国と日本のハーフで、日本語,中国語,英語の3カ国語を操るトリリンガルなのである。顔立ちは整っているものの、“好き”という感情を理解できず、今まで彼女がいないという、恨めし…コホン、変わったやつである。
え? そういうお前には彼女がいたのかって? いやだなぁ、全く。作れないんじゃなくて、作らないんですよ。……はい。ただ単純に出来ないだけです、言い訳をしてごめんなさい。
おっと、またまた話が脱線してしまった……が、厳原に関する人物紹介はこれぐらいである。
続いて、猪俣――本名:猪俣 絢音――はこれまた僕と同じ部活の、ゴリ……筋骨隆々な女子生徒である。その力強さは本物で、1度、教室の扉を壁ドンして破壊したという伝説を持っている。二つ名をつけるならそう、“Legend Gorilla”である。カッコいい。脳筋なので、頭は悪いが、性格がいいのか、女子からの評判は良く、信頼も厚い。
え? 彼氏の有無? そんなの誰得情報なので知りません。
まあそんな2人と鮫ちゃんぐらいしか勇者としての素質は無いと思う。
え? お前はどうなんだって?
僕はほら、その、職業は農民……ですから………。見てろよ! すぐに勇者よりも強くなってやるからな!
僕がそんな決断をしているとはつゆ知らず、王は話を続ける。
王様の言葉遣いは、私の独断と偏見を交えているため、不正確な可能性が大です。
また、敬語に関しても、現在勉強中なので、ところどころ疑問に思う箇所が出てくると思います。その時は、是非とも指摘していただけると、ありがたいです。