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どこにもなかった風景、経験しなかった思い出

テレビのある家

作者: あめのにわ

「テレビが来たから、見に来い」


カズトシがいつのまにかそばに来て、ぼくの耳に囁いた。

村でテレビを持っている子はいない。自分の家にもない。

そういうものがあると、風の噂話で聞くだけであった。


小学校は一限目が終わり、休み時間に入ってざわめいていた。級友たちは校庭で遊んだり、教室や廊下でめいめい集っておしゃべりしている。

木造校舎のニスで黒光りする床は、誰かが走り通りすぎるたびに軋んで音をたてた。

木枠の窓は全開であり、小春日和の陽光が差し込んでいる。


そんな窓際の自分の席で、ぼくはひとり本を読んでいた。

そこにカズトシがやってきたのである。


カズトシは、それほど貧乏ではない家の子どもである。

もともと豪農の家であり、戦後は改革の影響で土地をかなり失ったとはいえ、それなりの財産が残っていた。それを元手に父親が都市部の工場に投資し、その後、特需でずいぶん儲けた、という話であった。


カズトシの家に比べるならば、ぼくも、級友たちのほとんども、貧乏だったといえる。もっとも、自分たちの住んでいる田舎町では、ほとんどがそんなものだった。


その後、ぼくたちは授業を受けたり、給食を食べたりした。

しかし不思議なことに、カズトシの家にテレビが来たことを、他の友だちはだれも知らないようであった。

ぼくだけに話してくれたのだろうか。

言ってはいけないような気持ちになって、うしろめたいような、わくわくするような気分になった。


放課後になった。

僕はカズトシの家に連れられて行った。

彼の後について、林の中の暗い小径を歩いてゆく。小径には落ち葉が敷き詰められていた。その先に古い家があった。


「まあ、あがれや」


家には誰もいないようであった。

ぼくは畳敷きの居間に通された。

居間にはテレビとおぼしき木箱が、台の上に据えられている。

なんとはなく、紙芝居の木枠に似ているなあと思った。


——テレビって果たしてこんな形をしていたっけ。


以前、はなしに聞いた様子と違うような気がするが、なにぶん実物を見るのは初めてなので、そういうものだと思うしかない。


「お菓子、持ってくるさ」


そういって友人は部屋を出てゆき、自分はひとり残された。


初冬の陽は傾き、外は薄暗くなってゆく。

友達はなかなか戻ってこない。


ふと気がつくとテレビの画面がうすぼんやりと明るくなっている。

ノイズが流れているようだったが、徐々に画像が現れてくるのがわかった。

ぼくは目を見開いて、それを見つめた。


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