間章
ここではない世界。かつて、水と緑と生命に溢れていた世界。
もうその面影はない世界で、一人の少年がアスファルトの道を歩いていた。
どこまでも続くその道を、ふらふらと覚束ない足で歩いていく。
一歩、躓いて、また一歩。
道に人影は無く、少年は一人で波に漂うように歩いていく。
その少年の頭を占めていたのは、今はもういない母から聞かされた昔話であった。
先祖が発明した、画期的な『破壊兵器』。
戦争では重用されていたが、少年はその兵器を一回も見た事が無かった。
種類によって姿が変わっているという、人間の姿をした破壊兵器。
それらは何の前触れも無く、あるとき一斉に姿を消したそうだ。
脱出に使われた機械の作成書は失くされ、機械は破壊兵器の残党に壊され、それを作った関係者も口封じに殺され、その存在はもう都市伝説と言っても過言ではないほどに朧となっていた。
見る術がなくとも、少年はその兵器を一目見たかった。
戦争による動員で親は殺されても尚、戦争が引き金となり起こった紛争によって戦死者は増えるばかり。
戦争の地では物資や人員が不足し、ゾンビのように人が彷徨う所を目にするのは、もはや日常茶飯事となっている。
この少年も、孤児となった者の一人だ。
やがて少年は力尽き、ぺたりと地面に尻を付けた。
やはり人は誰も居ない。
声を出そうとも、その気力も無い。
膝を抱えて蹲っていると、どうしようもないほどに強い睡魔が少年を襲った。
もうどうにでもなってしまえ。
寝たい。
お腹が空いた。
生まれ変わったら、今度は裕福な家の子供になれるだろうか。
幼い子供の願いを打ち消すように、どんどん眠気は襲ってくる。
もう二度と夢から覚めないような気がする――そんな不安が脳を過った瞬間、ぷつりと少年の意識が切れた。
操り人形の糸が切れたように全身の力が抜け、微動だにしない。
その時、少年に手が差し伸べられた。
腕の主は差し伸べても反応が無い事に気付くと、その腕を背中と腰に回し、自分の元に運んだ。
高貴な役人しか身につけないような滑らかな生地から伸びた腕は、素早く、しかし割れ物を扱うかのような手つきで子供を持ち上げる、
ひどく痩せていて、重さも感じなかった。
腕の中で寝息を立てる少年の顔を見て、『彼』は顔にいつもの微笑を湛えた。