表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

前章

 それは、ものすごーく昔の事だ。

 私達が生まれる前、地球は人間が支配していると言っても過言ではなかった。

 強い武器、切れる頭、発展させていく創造力――。

 人間は何でも持っていた。

 でも、人間というものは欲張りで、何でも手に入れたがった。

 やがて、自分たちが作った物を使って、武力で何もかもを手に入れようと企んだ。

 そこで目をつけたのが、地球上で増え続けている物――生物だ。

 人間という生物の能力の向上を図るため、あらゆる生物の遺伝子と掛け合わせた。

 それで生まれてきた人たちは、戦いを有利に進める駒として使われ続けた。


 そんな戦争も、終わりを告げる時が来た。

 戦争が終わると同時に、人々は動物と人間のハーフを気味悪がるようになった。

 姿、能力、全部自分たちと違う。

 だから、気味悪がるというより、怖がられることになった。

 迫害を恐れたその人たちは、人間の開発途中の設計図を盗み、それを独自で開発して、そこに逃げるようにして住み込み始めた。

 あの少女は時に、どんな人よりも残酷になる。

 血潮で赤くなったパーカー、爛々と月の光を跳ね返す黄金の目、腰まで伸びた艶のある黒髪。

 ピクリと耳を震わせてから、まだ息のあった足元の兵士を思い切り蹴飛ばす。

 蹴られた体は向こう十メートルほどまで転がり、ピクリとも動かなくなった。

 彼女の頬に一筋の血の跡が付いたが、気にする様子も無くその場を立ち去る。

 一部始終を見ていた少年は、怯えているわけでも、怒っているわけでもなく、その後をしっかりとした足取りでついていく。

 同じく黒髪の、しっとりとした黒髪が風になびくのを手で撫でつけながら、傷一つ負っていない彼女の顔を見た。

 いつもの可愛らしく笑う顔からは想像つかないような、一瞬ぞっとするほどの無表情だった。

 真っ赤な爪が伸びている彼女の手を見て、思わずため息が出た。

 ――やはり、この少女は得体がしれない。

 ちらりと後ろを向くと、そこには地獄が広がっている。

 頬の血を指ですくってやると、一瞬ハッと目を見開いた。

「……どうしたの?」

 口をいっこうに開かないことに焦れた少年は、彼女を急かした。

 彼女はゆっくりとこちらを向きながら、こう言った。

「そういえば今日、私の誕生日だ」

 そう言ってから、顔にふわりと笑顔が灯った。

 少年はゆっくり瞬きしてから、ぱちぱちと乾いた拍手を送った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ