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断罪エンド希望です!

 突然だが、私は今、とても焦っている。

 その理由は今登壇している学園長の話が終われば、卒業式が終わってしまうからである。クソ真面目な性格の学園長の話はキッチリ十分間だ。別に計ったのではない。学生用のしおりに書いてあったのだ。それがもう少しで終われば、残すは卒業生の退場のみだ。時間にして約三分。つまり式が終わるまで、もといラストシナリオが終わるまで残り三分である。


 その三分間で私は断罪されて、田舎送りを確定させてもらわなければいけない。

 それが悪役令嬢という役目を神から賜った私の義務なのだ。そのために18年間も陰気な悪役を演じてきた。


 全ては夢のスローライフを勝ち取るためだ。


 天界なんてブラック企業もいいところではあるが、1000年に一度だけこうして転生した人間の生涯を見守るという役目もといリフレッシュ休暇を与えられる。


 私の役目というのがこの悪役令嬢だった。

 神もとい上司から受け取ったシナリオは、一部の人間の中で流行っているのだという乙女ゲームを舞台としたものだ。その世界での私の役目はただひたすらに婚約者にトラウマを植え付け、学園入学時に登場するヒロインを虐めたおせばいいというだけだった。なんとも単純かつ簡単なミッションだ。


 これさえすませば長期休暇が手に入ると、昨日の夜はなかなか寝付けずにいた。だというのに、今回の転生者と私の婚約者と来たらシナリオを無視しやがった。


 私を断罪することを忘れてイチャイチャイチャイチャしやがって!!


 さっさと断罪しろってんだ!!


 ――とここまで私が焦るのには理由がある。

 この卒業式までに断罪されなければ、私の今後が大きく変わってしまうからだ。

 つまり卒業式が終わるまでの三分間は、私の悪役令嬢人生を決める最後の三分間とも言える。

 だからなんとしてでも断罪して欲しいわけだが、もう生涯安泰だと思っていた私は、嫌がらせの用意など何もしていないのだ。

 手持ちの扇子を投げて転ばせるにも、出席番号順の席順なんてアホなシステムのせいでここからじゃあ届く訳もない。

 もういっそのこと、この扇子を学園長の頭部めがけてなげてしまいたいとさえ思えてくる。けれどそんなことをしたところで私の元にやってくるのは断罪エンドではなく、学生最後の反省文である。

 そんなものを書いている間に私の知らないところでシナリオが変な方向に進展していたら目も当てられない。それどころか、今後リフレッシュ休暇の申請が通らなくなってしまうかもしれない。


 どうすれば……と考えたところで時間は刻々と過ぎていく。

 学園長の話が終わりに差し掛かっても、前方のヒロイン達は相変わらずイチャつくだけで一向に証拠一覧を用意する様子は見られない。


 そして無情にも講堂内に響く卒業生退場のアナウンス――それは最後の三分間に突入してしまったことの合図でもあった。


 ここで相手が動かなければもう全てが終わってしまうと焦る私の視界に、手をつないで一緒に退場しようとした2人の姿が映った。


 その瞬間、私の中で何かがプツンと切れた。

 先ほど学園長の頭部めがけて投げようと思っていた扇子を自分の婚約者に向けて投げつけたのだ。そしてもう取り繕っても無意味であると大股でそいつの元まで近づき、男の胸ぐらをつかみ上げた。


「ふざけんじゃねぇよ! てめえ、自分の立場わかってんのか? ああん?」

 チンピラかと突っ込まれてもおかしくはないそのスタイルで男を脅していく。なにせこの男、私のように天界から派遣された訳ではないものの、そのシナリオは身体と脳にしっかりと刻まれているはずなのだ。そうするつもりがなくとも、それを実行する。それが彼の役目である。つまり彼さえちゃんとシナリオ通りに動いていれば、私はこんなことをせずに済んだのだ。


「あ、えっと……その……」

「てめえ男だろ! はっきりしろや!!」

「はっ、はひぃ!」

「じゃあなんて言えばいいか分かるな? 言ってみろ」

「あなたという婚約者がありながら、他の女性にうつつを抜かしてしまい、申し訳ありませんでした!! もう二度とこんなことはいたしません。彼女とは卒業を機に縁を切ります。なのでどうかお許しを」

「はぁ?」


 こいつは一体何を言っているのだろうか。

 私が期待しているのは「君との婚約は破棄する」の一言である。

 それをヒロインと縁を切ってどうするんだ? と呆れたような目を向けると、男は「お許しを」と繰り返して、しまいには頭を地面にこすりつける。それには周りの面々もどん引きである。何せこの男、一国の王子なのだ。


 散々嫌がらせを続けてきた婚約者相手にここまでするなんて……。


「私のクーデレ王子はどこ……?」

 ヒロインに至ってはもう放心状態である。

 これはもう学園の反省文どころでは済まないだろう。



 私が欲しかったのは長期休暇だ。

 けれど手には入ったのは「捨てないでくれ」と私の足に縋りついてくる王子様。オプションとして、彼女こそが未来の王子妃に相応しいという謎の賞賛さえ着いてくる。


 どうしてこうなってしまったのだろうか。

 きっとこの18年で様々な分岐点が合ったのだろう。けれどこのルートへと進むことを確定させてしまったのはラストの三分間であったことだけは確実である。



 王子が盛大な謝罪を披露した数日後、天界からの連絡でシステム上に大きな欠陥があったことを知らされた。

 その欠陥というのは王子の思考回路についてである。どうやら一連の流れのインプットが不完全であったらしい。どうりで私の聞いていたシナリオ通りに動かなかった訳だ。


 その結果、今回の私の行動へ対するお咎めはなく、ヒロイン役の彼女には新しい王子が用意されることになったらしい。

 またバグを直すには時間がかかることが想定されることから、今度の相手は天界から派遣される職員らしいので、きっと今度こそ幸せになってくれるだろう。


 そして私の今後についてだが、このまま王子妃、王妃として仕事をしてくれとの通達があった。ヒロインがまだこの世界にいる以上、この世界を保たなければいけないのだ。長期休暇はこの仕事が終わり次第、用意してくれるらしい。だからこの処遇自体には全く異議はない。


 そう、それ自体には。

 問題は王子の方である。


「リーリア様。こちらの書類のチェック、終わりました!」

「はい。後で確認しておきますので、次はこちらをお願いします」

「かしこまりました!!」

 あれから王子はすっかり私の従順な部下となってしまった。

 今では王子と王子妃ではなく、姫とその従者ではないかとさえ噂されるほどだ。

 それに異論を申し立てる者がいればいいのだが、残念ながら私達に意見する者はいない。


 国王陛下と王妃様はこれからの将来安泰だわ~と微笑ましく見守り、宰相は仕事が滞りさえしなければ構わないという考えの人間である。他の重役達はどこで聞いたのか、私がいつ怒り出すのかといつもビクビクと怯えている。


 仕事がしやすいと言えばしやすい環境ではある。だが私にはたった一つだけ気にかかることがある。


「あの……」

 王子が時たまこうして私のご機嫌を窺うような視線で見つめてくることだ。

 これが重役達のように怯えたようなものならば、そのままにしておけばいい。だが彼はそうではない。私の機嫌が悪くなることを期待しているのだ。


 どうやらあの一件以来、この男の中で変なトビラを開いてしまったらしい。


 そんなに怒られたいのか、最近ではわざと書類をミスして渡してくる始末だ。

 だがここで怒れば王子の思うつぼだ。これからも同じことをしてくることだろう。

 だから私は怒りを押し込めて、今日も仕事をこなすだけだ。



 あれから数年が経った今でも、あの日に時間が撒き戻れば……と考えることはある。

 きっと今の私なら最後の三分間、上手く立ち回ることが出来るだろう。


 けれどそれは無理なこと。

 なにせあれは私の今後が確定する、『最後の三分間』だったのだから。


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