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二番目のお妃様

 リーンボルド王国には5人のお妃様がおりました。

 国母となる正妃様と4人の側妃様です。この国では正妃様以外の4人を第一側妃から順番に二番目のお妃様、三番目のお妃様と呼びました。歴代の国王様が選ぶ5人は決まって由緒正しき貴族のご令嬢でした。


 けれど今代の国王様は違いました。

 二番目のお妃様には平民、それもスラム出身の女性を迎え入れたのです。それには城の誰もが国王様を非難しました。


 二番目のお妃様をすぐに妃から外せ――と。


 けれど国王様は聞く耳を持ちませんでした。それどころか正妃様、宰相様そして五番目のお妃様まで仲間に引き入れてしまう始末です。


 国で強い力を持つ彼らに肩を組まれては、無理矢理どうにかすることすらも出来やしません。これにはこれ以上異議を唱えたところで無駄である、と貴族達のほとんどが諦めることにしました。

 けれど三番目と四番目のお妃様は違います。

 どうしても諦めることは出来なかったのです。なにせ彼女たちは公爵家のご令嬢。貴族としてのプライドが平民よりも下だと言われることに耐えられなかったのです。


 だからこそ、国王様達が聞き入れないならば、二番目のお妃様を虐めてお城に居られなくすればいいと考えました。

 そして彼女達は出来うること全てを試しました。


 初めはドレスにワインをかけたり、ミミズの沢山入った箱をプレゼントしたりとごくありふれた嫌がらせをしました。

 けれど二番目のお妃様は蝶よ花よと可愛がられて育てられたご令嬢とは違い、そんなことではへこたれなかったのです。ワインのシミは自分で抜いてみせ、ミミズに至っては笑顔を浮かべて城の庭に放してやったほどです。


 それにますます怒りを沸き上がらせた2人のお妃様は、アクセサリーを盗んでみたり、多くの人の前で恥をかかせてみたり、はたまた殺人未遂と言えることだってやってのけました。


 けれどやはり二番目のお妃様は以前と変わらぬ顔でその場に立ち続けました。

 心なしか、お肌がツヤツヤしているようにさえ思えます。きっとお城の美味しい食事を毎食楽しんでいるからでしょう。


 2人のお妃様はそんな顔を目にする度に、ハンカチに歯を立ててキィっと悔しがっておりました。


 どうすれば二番目のお妃様を引きずり降ろせるのか――2人のお妃様がいつものようにそんなことを考えていたある日のことでした。


 リーンボルト王国と隣国のミスラルド王国の境界付近で諍いが起きました。

 複数人の男達が、宿賃が高いだの、食事代が高いだのといちゃもんをつけ、不当請求した詫びとして女を寄越せと暴れたのです。もちろん、周りの人達は異議を唱えました。なにせ不当請求などしていないのです。けれど男達は聞く耳を持たず、あろうことか近くの女に手を出したらしいのです。それに怒った村人達が男達を殴りかかり――という具合です。本来ならばこんなのはただの喧嘩にすぎません。

 けれど殴った相手が悪かったのです。

 女に手を出したのは、なんとミスラルド王国の公爵令息だったのです。それも王家の血を引いているときました。

 元よりリーンボルト王国を格下に見ていたミスラルド王国は、これをミスラルドを侮辱したと捉え、戦争へと発展させました。


 リーンボルト王国の戦力はミスラルド王国の1/100以下しかありません。

 圧倒的戦力差を前に、多くの者達はリーンボルト王国は終わってしまうと絶望しました。



 けれど国王様、正妃様、宰相様、五番目のお妃様、そして二番目のお妃様は違いました。


「今のミスラルド国王は戦が好きだとは聞いていたがまさかこんなことで戦争を始めるとはな」

 そう呟きつつも、口元のゆるみを隠せていない国王様。


「ろくに調べもせずに戦いを挑むなんてとんだ愚王ですこと」

 呆れた様子を隠そうともせず、他国の国王を愚王呼ばわりする正妃様。


「すでに国境付近の民達の避難は済ませております」

 一人、無表情で仕事を全うする宰相様。


「私の作った試作品も持って行っていただけるかしら?」

 爛々と輝いたその目を二番目のお妃様に向ける五番目のお妃様。


「もちろんよ!」

 そして五番目のお妃様から『試作品』を受け取って、アイテム収納スキルを付与したイヤリングへとしまい込む二番目のお妃様。



「ちょっと遊んでくるわ!」

 真っ赤なドレスを身にまとい、長い髪を編み込んで一つに纏める二番目のお妃様はまるでピクニックにでも向かうようです。


 けれど今は戦争中です。

 いつ火花が王都まで届くかもわからない今、ピクニックなんて行く余裕はありません。


 けれど誰もが二番目のお妃様を止めることはしません。

 それどころか転移陣の上に乗る彼女を「いってらっしゃい」と見送ります。



 まるでそれが当然であるかのように。



 そして四人に見送られた二番目のお妃様は戦地へと転移しました。

 国境付近のリーンボルト国民はすでに避難を済ませています。宰相様の指示により、兵達や魔導士は一切配備しておりません。

 四方向どこを見ても二番目のお妃様の味方は一人もいません。それどころか、彼女の敵はわずか100mほどの距離まで迫っています。

 けれど二番目のお妃様が浮かべるのは笑顔です。それも長い間、蕾であった花がようやく開いたかのような、満面の笑み。

 それには敵の兵達も一瞬、怯んでしまいました。けれど相手はたった一人。それも騎士も魔術士も連れていないどころか、ドレス姿で戦地に立つような女性です。


 いよいよリーンボルトも落ちたものだ、と兵も誰もが気を緩ませたその時――二番目のお妃様はイヤリングへと手をのばしました。

 そしてアイテムボックスから取り出した『五番目のお妃様の試作品』――もとい複数の魔術回路が刻み込まれた剣を両手に構え、戦場を駆け抜けました。


 二番目のお妃様がその手を振るう度に鮮血の花が舞いました。

 そしてその花に誰もが魅了され、そして自らも花を咲かせる糧となっていきます。数千もの兵がお妃様一人に手も足も出ぬまま、ただ呆然と斬られるしかなかったのです。




 戦地に人間の絨毯ができあがるまで、そう時間はかかりませんでした。

 その地で立ち続けた者はただ一人。誰よりも血を浴びた二番目のお妃様です。



 その姿はまるで戦場の女王様のようでした。


 そしてその女王様はあまたの屍の上でこう呟きました。


「久々に運動したらお腹空いちゃった」――と。

 ぐうぅとお腹を鳴らす二番目のお妃様に、『戦争』を『運動』と言ってのけるその人に逆らう者など誰もいません。

 まだ息のある者は彼女にそのことを悟られないよう、じいっと息を潜めてひれ伏せています。もちろんそれは兵士失格であることを彼らも十分理解しておりました。けれど彼らは圧倒的な力を前に、自国への愛を捨て、自らの命を優先したのです。


 そして辺りをグルリと見回したお妃様は鮮血のドレスを翻して、満足げに転移陣へと足を踏み入れました。

 そして転移した先では行きと変わらず、四人の仲間が彼女を出迎えてくれます



「さて、ご飯にしましょうか」――と。



 こうして二番目のお妃様の活躍により、リーンボルト王国には再び平和が訪れました。二国間の戦争はわずか一週間と持たずに終戦したのです。これこそ後に大陸最短の戦争と呼ばれることになった戦いです。


 国を救った英雄である二番目のお妃様ですが、彼女はこの日を境に公の場から姿を消しました。そして彼女の活躍が民達に伝えられることもありませんでした。


 だから民達にとっての二番目のお妃様は、相変わらずスラム上がりの異質なお妃様のままです。

 けれど一部の人間はそのことを知っています。

 三番目のお妃様と四番目のお妃様は、彼女に仕返しされる恐怖に震えて過ごすようになり、ミスラルド王国は二度とリーンボルト王国に手を出さなくなりました。



 そしてしばらくして、ひっそりとリーンボルト王国からスラムと呼ばれる場所は消えたのです。



 すっかり平和になったリーンボルト王国のお城からはときたま、楽しそうに笑う声が聞こえてきます。


 その声は正妃様と五番目のお妃様、そして姿を見せなくなった二番目のお妃様の声に似ているとか似ていないとか……。

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