使用人の悩み事
リトリア王城の一室で、4人の使用人は顔を向き合わせる。こんな小さな部屋に男女が揃って顔を突き合わせる理由なんてただ一つ。
「え~では、第97回リトリア・ガルシュトラット合同会議を行います」
――自らが仕える主人の恋路をどうすれば進展させられるかを話し合うためである。
週に1度のペースで開かれているこの両家の使用人の合同会議も気付けば一年以上続き、残り三回で100の大台に乗るところまで来てしまった。
初めは愛する主人のため、という思いで始めたこの会ではあるものの、今では両想いなんだからさっさとくっついてくれという思いの方が強い。
なにせこの使用人四人は揃って毎度、自らの主人たちのジレジレとした関係を見せつけられるのだ。
2人が思い合っているのは歴然。その上、放っておいても結婚は確実の婚約者という関係。
何を怯える必要がある! どちらからでもいい、思いを伝えてくれ! そうすればみんな幸せになれる!――というのが本音である。
だからこそ彼らはこうして週一の会議をかかさず行うのだ。
「今日の議題は昨日のデートについてです。では各々報告をどうぞ」
「まずは王子の側近である私からご報告させていただきます。今回のことに限ってではありませんが、エスコート自体は非常に素晴らしかったです。気遣いを感じさせないあの所作はさすがはリトリア王国第四王子としか言いようがありません。ですがせっかく準備したプレゼントを渡せなかったのは残念でした。わざわざ国外から珍しい宝石を手に入れて三カ月もかけて作らせ、イメージトレーニングまでかかさず行っていたというのに……」
彼の話に4人ともがウンウンと頷く。
肝心のお相手であるご令嬢には全く気付かれてはいないが、王子は昨日しきりにジャケットのポケットを気にしていたのである。そこにあったのは彼女のために用意した髪飾りだ。
前回の会議で情報共有していた彼らだから知っているというよりも、あそこまでしきりにポケットを気にしていては何かしらがあるなんてことは誰でも気付くというもの……たった一人、ご令嬢を除いて。
「ですがそれはお嬢様も同じこと……」
「何?」
「ガルシュトラット側の報告をどうぞ」
「はい」
そう返事するのはガルシュトラットの使用人である。彼女は幼少期よりご令嬢の世話をし続け、常に彼女の傍にあり続けていた。だからこそ、さっさとくっついてほしいと考えているのだ。
「お嬢様は昨日のデートを一週間も前から楽しみにしていらっしゃいました。ドレスはこの春のために仕立て上げられた桃色のマーメイドラインドレス。そして髪には以前、王子に褒めて頂いた髪飾りを……。今回こそは素直に思いを伝えるのだとイメージトレーニングまでして……」
彼女が指すのは昨日のランチでの出来事だろう。
王子がご令嬢の髪飾りに目をつけ、そして話を膨らませ……その勢いでプレゼントを渡そうと試みた。けれど言い方が悪かった。
『その髪飾り、以前もしていたな。他にないのか?』
王子がどうしたいか分かっている使用人達もやっちまったな……と思ってしまうほどのやらかしである。だが長い付き合いがあるご令嬢は彼が素直ではないことを知っていたのは救いだった。実際王子の表情から徐々に血の気が抜けてきていたため、察したというのもあるのだろう。
だからこそご令嬢はぐっと耐えた。耐えて形勢を立て直そうとした……。
だが彼女は素直ではなかった。
『あら、覚えていらしたの? てっきり王子のことですから忘れていられると思っておりましたが……』
以前、約束を反故にされたことを挙げて言い返してしまったのだ。すぐに押し寄せた後悔に、スッと扇子で泣きそうな顔を隠してももう遅い。王子は涙を溜めて、その場を後にしてしまったのだ。
「今回は完全に王子が悪かったですよね……。俺ら、帰りの馬車でどうしようって泣きつかれましたよ……。ただ素直になればいいとしか言いようがないですよ……」
「お嬢様も何年も前のことを例に挙げたことを後悔しておりましたわ……。あの時のことは不可抗力でしたし、絶対嫌われてしまっているわ、と涙で枕を濡らしておられました……」
はぁ~とため息を交わらせる四人に今日もまたいい解決案は浮かばない。
いっそのこと、当て馬でも用意してみてはどうかと何度も考えはしたのだ。だがどんなに考えたところで当て馬に取られてしまう未来しか見えない。
なにせ今回もその前も、どちらも揃って素直になれないことが問題なのだ。
そんなことで素直になれるのならばこうしてわざわざ使用人達が揃って会議を開く必要すらなかっただろう。
「初めの出会いが奇跡だったんですかね~」
けれど2人が諦めることはないだろう。
双方が思い合っているというのもあるが、そもそも彼らはお互いを運命の相手と信じて疑っていない。
キッカケはただハンカチを落としただけ。
落としたご令嬢の顔を見た王子はポツリとこぼしたのだ。
『好きだ』――と。
それは恋に落ちるのは十分だった。けれど恋を進展させるのにはそれだけでは不十分だった。
だからこそ今日も使用人達は頭を抱えるのだ。
思うのは『さっさとくっついてくれ』ということだけである。




