ドライブ
「おまたせっ」って運転席から笑顔で言う君。その笑顔にドキドキしながら私は助手席に乗り込む。
久しぶりのドライブ。鼻歌まじりでカーナビを操作し、君は目的地を入力する。「なんの曲がいい?」って聞いてくるけど、ドライブの始まりの曲はいつも同じ。それを知ってて聞いてきて、私が答える前に流れ出す。そんなところが君らしい。
いい音で鳴りだす車のスピーカー。この曲は初めて君の車に乗った時にもかかっていた。半年前なのに、昨日のことのように思い出す。あの時は友達と後部座席に座ったんだっけ。君にずっと片想いをしているけれど、伝えられずに随分と経つ。
「車のスピーカーじゃないみたい」と呟く私の声は、流れる音楽にかき消され君の耳まで届かない。
私は手を伸ばし、そっと音量調節のつまみを回す。君が音楽を大音量で流すのが好きなことは知っている。でも今日は、小さめで。なぜなら、君に伝えたいことがあるから。
半年前のこと、覚えてる? 楽しそうに運転する君の横顔を、窺ってみる。私の視線に気づいた君は「ん? どうした?」って言葉を投げかけてきた。「どうもしないよ」って反射的に答える。「ただ
ね、初めて君が運転する車に乗ったのが半年前なんだなって」
ちょっと言い訳っぽいけど、そんなこと考えてたのは事実だから仕方がない。「そうだっけ?」って君は想定内の答えをする。変に空いた間をカーステレオから流れる音楽が埋めていく。
「そういえば、相談事ってなに?」ハンドルを操作しながら、思い出したように聞いてくる。「相談があるんだけど」って私が誘ったことを覚えていたんだ。
街中を軽やかに走る車。緊張する私。
「相談事は口実。本当は、君に伝えたいことがあって……」深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「私は、君が好きです。大好きですっ」
「俺も。先に言うなよ――」
君の耳が真っ赤だ。
路肩に寄せた車の中で、私たちはキスを交わした。