第0日目(日曜日) プロローグ
「ダメだ、どうしてもうまくいかない。このままでは絶滅する。環境は合わせたのに、なんで死んでいくんだ?」
わたしはあらゆることを試してみた。…が、全ては無駄だった。この星で知性を持っていたガス状生命体のコロニーは、最終的には全て無くなった。彼らの時間で言うと3世代後だったが、この星で最も進化していた知性は消えてしまった。
わたしは、…絶滅してしまった彼らの基準では、超絶した力を持っている。全てを変えることも出来る存在だ。しかし、わたしにも出来ないことはある。過ぎてしまった時間を戻すことはできない。出てしまった結果を変えることはできない。
わたしが余計なことをしなければ、彼らはそのまま生き延びただろう。わたしの干渉のせいで、ひとつの知性が将来の可能性ごと消えてしまった。
生きものとはこれほどまでに扱いが難しい存在なのか…。だからこそ、やりがいもあるのだけれど。
意気消沈して、思い出深い場所に向かった。多くの生きものにあふれ、知性もいろいろなレベルで存在していた星だった。わたしにとって、この世界での移動に時間は必要無い。すぐに目的の星に到達した。
「地球だ。何もかも、みな懐かしい。」
この星系の主星、太陽と呼ばれている恒星に照らさせていない半球にも光が存在している。人と呼ばれていた生きものの技術レベルがあがったのだろうか。それとも今は、違う生きものが人を押しのけて台頭したのだろうか。空間を移動している光もある。いったいどれほどの進歩があったのだろう。この星には本当に興味深い生きものが多い。海と呼ばれているところの奥深くにも、興味深い知性が存在している。
こんなにおもしろい星はなかなか無い。ずっと関わっていたい。しかし、わたしはここに来てはならない、戻ってきてはいけないのだ。そういう約束なのだから。もし、また争いになっても、わたしが去ることになる。
ん、あれ? あいつ、この辺にいないみたいだぞ。全く何も、かすかな痕跡さえ感じられないから、かなり前にここから遠くに行ってしまったようだった。あいつ、あんなに地球を欲しがっていたはずなのに。どうなってんだ、一体?
それでもわたしは、ここから去るべきだった。わたしに権利は無い。…しかし、太陽に注意を向けた時、まもなく地球を襲う災厄に気がついてしまった。この星に生きるすべての生きものを襲う災厄だった。彼らは気がついているのだろうか。そして、この星の生きものだけで対応できるのだろうか。
もし、…もしもこの星の生きものだけで対応できないなら、わたしが見過ごすことはできない。もう二度とあの時と同じ思いをしたくはない。あいつがいないのなら、わたしがこの星の生きものを守る!
「ヒロシ! 気をつけろ、後ろから来てるぞ!」
あれ、聞こえてないのか? ヒロシがボールをトラップする直前に、タイキの足が先に当たってコースが変わってしまった。ルーズボールもタイキに拾われて、今度は一気に相手のカウンターになった。やばい、早く戻らないと。
今日の練習の仕上げは紅白戦で、レギュラーと控え組が混じったチーム構成だった。ヒロシは同級生でレギュラー、僕は残念ながらタイキと同じ控え組。中学に入ってからサッカーを始めたんだから、小学生の時からやっていたヒロシにはまだまだかなわない。まだ、始めてから1年ちょっとしか経ってないんだから。…こんなこと言っても、言い訳だな。
「渡辺! 早くサイドに広がれ!」
顧問の谷口先生だ。公認コーチ資格も持っていて、いつも丁寧に教えてくれる。厳しいけど、頼りになる先生だ。
「はい!」
さっきのカウンターはシュートまで打たれたけど、キーパーの正面だったから助かった。僕はサイドに広がって、キーパーが投げたボールをトラップした。
「ユウ! こっち。」
ヒロシがボールをもらいにきた。
「ヒロシ! フリーだぞ!」
ヒロシは僕のパスしたボールをまたいで反転すると、サイドをドリブルで上がっていった。あ、一人抜いたけど、今の初めて見た。どうやって抜いたのかな、タイミングをうまく外したみたいだったけど。あいつ、あんなフェイントをどこで覚えたんだろう?
紅白戦はヒロシの活躍もあって、3対2で僕たちのチームが勝った。
「全員、集合!」
キャプテンだ。谷口先生の周りにみんなが集まった。
「よーし、みんな連携が良くなってきたぞ。次の展開を自分なりにイメージして、早めに動き出そう。周りからは積極的に声を掛けて、ボールホルダーが周囲の状況を把握できるようにしてやるんだ。」
「はいっ!」
「来週はテスト週間になるから、明日月曜日の部活は中止にする。個人練習するのはかまわないが、それを言い訳にしないようにちゃんと勉強しろよ。」
谷口先生がニヤリと笑いながら話した。
「月末から市の中学リーグ戦が再開する。当面はレギュラーを固定せず、練習で調子がいいやつを選ぶつもりだ。今のレギュラー組は気を抜かないように。控え組はチャンスなんだから、積極的にアピールしろよ。ただ、怪我はしないようにな。」
「はいっ!」
「よし。じゃあ今日はこれで解散にする。」
「お疲れさまでした!」
「お疲れさまっす。」
キャプテンに合わせて、谷口先生に挨拶をした。
そうか、今月末か。いっぱい練習して、レギュラー入りを目指さなきゃ。でも、テスト勉強もしないとマズイんだよなぁ。
「もう、ボール片付けるけど、それいい?」
あ、マネージャーの陽子ちゃんだ。
「うんいいよ、ありがとう。手伝おうか?」
「ありがとう。でも、大丈夫よ。いつものことだから。」
陽子ちゃんはやさしく微笑むと僕が使っていたボールを拾った。陽子ちゃんはクラスは違うけど同じ2年生で、かわいくって、優しくって、控えめで、清楚で、…学年のアイドル的な存在だ。実際には3年の先輩にも、1年の後輩にも人気がある。そんな陽子ちゃんが、実はひそかに僕とつきあってて、…なんてことはもちろんない、ありえない。サッカー部のアイドルマネージャーとただの控え部員の関係だ。それでも、陽子ちゃんはほんとに優しい。
「陽子ちゃん、俺はもう少し練習したいから1個借りとくね。終わったら自分で倉庫に戻しておくから、カギ開けといて。」
あ、ヒロシだ。
「うん、わかった。じゃあお願いね。お疲れさま。」
「うん、お疲れさま。」
陽子ちゃんは僕が使っていたボールを持って、体育倉庫の方に歩いていった。
「陽子ちゃんって、ほんとにいい子だよなぁ。」
ヒロシ、何をしみじみ言ってんだ?。確かにその通りだけどさ。ヒロシも陽子ちゃんのことが好きなのかな? サッカー部のほとんどのやつが陽子ちゃんのこと好きなんだもんな。…僕は違うけどさ。
「ユウ。」
「何? ヒロシ。」
「もうちょっと残って練習していこうぜ。1対1をやりたいんだ。間合いとかさ、やっぱり相手がいないと練習になんないもん。」
谷口先生、少なくともヒロシは全く気を抜いていません。安心してください。
「そういえば今日の試合でさ、初めて見たフェイント使っていたな。」
「お、気がついた? 鋭いな。そうなんだ、あれの完成度を上げたいんだよ。」
「あのフェイント、自分で考えついたの?」
「違う、違う。俺って、そこまですごくないから。」
「え、じゃあどうしたの?」
「そりゃあ、…色々と参考にしたんだよ。そんなことより、今から練習に付き合ってくれるのか?」
何か誤魔化された。
「俺も練習したいんだけど、今日は家に帰って勉強しないとまずいんだよ。前のテストの結果があんまり良くなかったから、母さんから釘刺されているんだ。学生の本分はまず勉強なんだから、結果を出しなさいって。」
「うっ! それを言われると困っちゃうよな。結果を出せってことは、『ボク、がんばりました!』っていう言い訳を聞く気はないってことなんだよな。」
ヒロシが心底嫌そうな顔になった。
「そういうこと。だから、悪いけど帰らなきゃいけないんだ。」
「そうか、それならしょうがないな。…俺もやっぱり帰るよ。」
ヒロシがションボリしながら言った。
「え、なんで?」
「…俺もさ、親から言われているんだ。これ以上成績が下がったら、塾に行きなさいって。この辺にある塾って、部活の途中で帰らなきゃ行けない時間のとこばかりだろ。結局は、部活やめろって言ってるのと同じことなんだよ。サッカーやめるなんて考えられないよ。」
「そうか、ヒロシも大変だな。」
「…ああ。じゃあ帰ろうか。」
「うん、帰ろうか。」
紅白戦勝利でサッカーに盛り上がった気持ちもすっかり冷めてしまった。僕だけかと思っていたけど、ヒロシも同じような状態なんだ。意気消沈した帰り道で、急に雨が降ってきた。慌てて出した折り畳み傘のお陰であんまり濡れずにすんだけど、何か悪いことばかりがまとめてきたような気がした




