好きな人がいます
好きな人がいます。
私には好きな人がいます。それも、一人ではありません。
三人いるのですが、三人とも絶対に叶わない相手です。
では、どうしてその三人を、というと三人とも私を笑顔にしてくれるからだと思います。その三人に何度心を救われたか分かりません。今の私に三人の存在はあまりに大きくて、その三人がいない生活は考えられません。
最初の1ページにそんな事が書かれていた。30年以上前の母親の日記内容だ。
結局、そんな母親も妥協して、今の父親と結婚したのだろうか。
僕はそんな事実を知った所で、さして落胆する訳でもなかった。しかし、実際、それは僕の勝手な思い込みで、意外にも手が震えていた事が真実だ。ぎこちなく分厚い日記帳を閉じると、日記に挟まれていた写真が落ちた。
と、そこで写真を見た僕は、驚愕した。
まだ若い母親が三人の男達とピースをしている写真だったのだが、見覚えのある二人とは別に、もう一人の隣の男がまさに自分自身だったからだ。写真に写った僕は、母親と男二人同様、楽し気に顔を綻ばせていた。
あまりに突然の事態に言葉を失ったが、冷静に考えてみれば、30年前に自分が母親と同じ年齢で写る訳がなかった。
その男は、単純に自分と瓜二つの容姿をしていたのだ。癖のある髪は色素が薄く、細い目に肌は白く、細身で背が小さい。
そこで、僕は知った。
母親の恋は実ったのだ。僕という存在を残して。
そして、それは一瞬の過ちとして、無かった事とされた。
だから、母親は時々、悲しそうな目で僕を見ていたのだ。
三人の内二人と僕は会った事があるのに、その男に一度も会った事がないのは、きっとそのせいなのだ。
そして、母親が死ぬ間際に口にした、父親が生きているのに「やっと会える」というあの言葉は、そういう意味だったのだ。
それでも、母親と父親、二人の名前を一文字ずつ受け継いだ僕の名前は、母親が単純に妥協して結婚に至った訳ではなかった事の証明だと、笑い合っていた二人の記憶を思い出し、僕は一人頷いた。