レッドスコーピオン -6-
「半分はYesだ。ヴェルヌがテラを離れて宇宙中央大学に編入すると聞いたとき、俺は君の消息を探った。ヴェルヌのガーディアンだったシルヴァがどうなるのか、気が気ではなかった。
懇意にしていた枢機卿から何とか君の消息を手に入れた。
俺と、レッドスコーピオンの立ち上げから共に行動をしてくれている、λ(ラムダ)とε(イプシロン)と共に、ようやく君を見つけた。組織を脱走し、セブンスシティの隅の辺境の地で、瀕死の状態だった」
「イプシロン……も?」
「そうだ、あの時、イプシロンも行動を共にしていた。エヴァが意識を取り戻す前に、任務に戻っていったが……」
エヴァンジェリンは乾いた笑いを漏らすと、テーブルの上に右ひじを載せ、その手で頭を抱えた。
今の今まで、エヴァンジェリンは自分を死地から救ったのは、たまたま通りがかったアルファ(アルフレッド)とλ(ラムダ)の二人だと思っていた。ラムダはレッドスコーピオンのメンバーの中でも最も年長で、穏やかな紳士と言った風貌だ。エヴァンジェリンがレッドスコーピオンに入る際に、この二人にのみ、己の素顔と性別を明かしていた。少なくとも今までは、そう考えていたのだ。
「つまり、イプシロンは、私が女だという事も、会話ができるという事も、全部知ってたというわけだな」
「まあ、そう言うことになるな……」
アルフレッドの答えも歯切れが悪くなる。
イプシロンが自分の正体を知っていたこと。それを自分が知らなかったこと。そのことに思った以上にショックを感じてエヴァンジェリンは戸惑っていた。ショックを受けるほどに、自分はアルフレッドを信用していたという事だろうか?
アルフレッドは立ち上がり、エヴァンジェリンの前まで来ると、跪いて下から顔を覗き込んだ。
「エヴァ、君が生きていてくれて、俺はうれしかった。有無を言わさず、レッドスコーピオンにひき込んだ」
エヴァンジェリンは目を開き顔をあげるとアルフレッドへ視線を移した。その胸ぐらをつかみ立ち上がる。身長差のほとんどない二人の視線は正面からぶつかる。
「ならば、そうすればいい。有無を言わさず、私を連れて行けばいい。私には何もない。両親は初めからいなかった。友も、親しくしてくれた人も、ガーディアンとなるときに捨てた。そうして仕えた主はこの星を去り、ガーディアンとしての誇りも捨てた……」
エヴァンジェリンの声は感極まって多少上ずり、次第に小さくなる。
アルフレッドは、エヴァンジェリンの頭を両の腕で囲い込むように引き寄せた。ぽんぽん、と手のひらで軽くたたいてからか肩に手を置き、体を放す。
「共に、エヴァ。宇宙へ」
晴れやかな笑顔でそう告げると、口元をギュッと引き締めたエヴァンジェリンはこくりと頷いた。
────コンコン。
まるで時を見計らったかのようにノックされる。
静かに開いたドアから金色の髪が覗いた。エヴァンジェリンを案内した女性店員だった。
「どうした? イプシロン」
アルフレッドが尋ねる。
イプシロンは顔を隠すストールを外していたエヴァンジェリンに目を向けると、一度ニコリと笑って見せた。
絹糸のようなふわふわの金髪を、今は後ろで一つに縛っている。透けるように白い肌、頬にうっすらと浮いたそばかす、緑色の瞳。その容姿は人々が思い描く北方系コーカソイドの特徴を備えていたが、体格は非常に小柄だ。
「オメガが到着したわ。話はついたの? 彼をここに通してもいいかしら?」
「ああ、かまわない」
アルフレッドが言う。
「という事は……」
イプシロンが、またエヴァンジェリンに視線を向ける。
「ベータ、あんたはレッドスコーピオンに残るのね?」
こちらに向けた顔がぱあっと華やいだ。